22 ご主人様と再会しました
私は驚きつつも、慌てて扉を開けた。
扉の向こうには、本当にダグラス様がいた。
「……なんで?」
私が呟くと、ダグラス様が周囲を気にしながら「中に入れてください」と言うので、部屋へ招いた。
どうしてダグラス様がここに……? もしかして……。
「ご主人様に何かあったのですか!?」
私がすぐに勇者を連れて帰れなかったから、ご主人様に何かあったのかもしれない。最後に見たご主人様の真っ暗な瞳を思い出す。
「……いえ、何もありません。俺はライラ様を迎えにきたのです」
「私を……?」
「あまり時間がないので詳しくは魔界へ戻ってから説明しますが……つまり、誤解があるのです」
「誤解?」
「魔王様は、ライラ様を拒絶するつもりなどなかったのです。勇者にライラ様の魂が宿っていることに気付いて混乱していたようで、ライラ様に酷い言葉を放ったことを後悔しています。魔王様はライラ様の帰還を望んでいます」
「で……でも……勇者は? ライラ様だって……」
ご主人様が私が戻ることを望んでいる? 本当にそうなら、そんなに嬉しいことはない。けれど、本当に? だったら勇者は? 私は、私はライラでいいの?
「魔王様は、勇者はライラ様ではないと、はっきりおっしゃっていました」
「……勇者に会いたいと思ってはいらっしゃらないの?」
「それはわかりかねます。しかし、ライラ様に、貴方に早く戻ってきて欲しいそうです」
「……っ!」
ああ、本当に? 本当なのね? 私はご主人様のそばにいてもいいのね?
嬉しくて、胸がいっぱいになる。ああ、すぐに会いたい。
でも……。
「あの……私、昨日起きた事件の重要人物で……今いなくなったらレオナルド達に迷惑をかけると思うの。事件のことが終わってから戻るのではダメかしら?」
「……魔王様より、人間の方が大事だと?」
私は思ってもないことを言われて目を丸くする。
「まさか! でも……そんなに急いでいるの?」
「えぇ。一刻の猶予もないと考えてください。……皆さんライラ様を心配しているのです」
そうなのね。確かに、一人で出歩いたから心配されても仕方ないわね。でも、トカゲがいるのに。
「あの……商人様にトカゲちゃんをお借りしているの。だから、心配ないのだけれど……」
私がそう言うと、ダグラス様は嘆息してから自身の肩をトントンと叩く。
すると、ダグラス様の着ていた服のフードの影から黄色のトカゲがひょっこりと顔を出す。
「……ご覧の通り、ルド……商人様からも頼まれているのです」
商人様もなのね。トカゲちゃんが必要になったのかしら……。そうしたら、すぐ戻らないといけないのね。
はい、と返事をしようとしたら、扉がノックされた。
「レイラさーん、医者を連れてきましたよー」
そして、扉の向こうからルミエールの声がしたと思ったら、
「ああもう! ライラ様、失礼します!」
そう言ってダグラス様は、私を小脇に抱えて転移した。
次の瞬間、見慣れた絨毯が私の視界に入る。たった数日前に出てきたばかりなのに、懐かしい気持ちになる。
「ライラ!!」
顔を上げると、そこにはご主人様がいた。私を、「ライラ」と呼ぶご主人様がいた。
ああ、本当に、本当に私は拒絶されていないのね。
私はダグラス様に下ろされると、すぐにご主人様のもとへ駆け寄った。
「ご主人様!」
近くまで行くとご主人様に抱きしめられる。嬉しいのに、すごく嬉しいはずなのに、ぽろぽろと涙が溢れて止まらない。
「すまぬ……すまなかった、ライラ」
そう言って抱きしめていた腕を解いたご主人様の顔を見ると、私の大好きな夜空の瞳を輝かせていた。
そして、ご主人様は微笑みながら、優しく私の頭を撫でてくださった。
もう、二度とこの目を見られないと思っていた。
もう、二度を撫でてくださらないと思っていた。
ああ、そうか。涙って嬉しい時にも流れてくるのね。
私が目を擦ろうとすると、横からス、とハンカチが差し出された。
ハンカチを受け取って横を見ると、優しい顔をした商人様がいた。
「商人様……」
周りを見ると、商人様の他にもレイ様、お姉様がいて、二人ともうんうんと頷いている。二人の横に移動したダグラス様は、どこかほっとした顔をしていた。
「ライラちゃん、よかったわね」
「ライラちゃんの代わりに俺が怒っといたからな」
「お姉様……レイ様……」
私はもう言葉が出なかった。
代わりに涙が止めどなく流れる。
「ライラ様、おかえりなさい」
私は立っていられなくて、その場に崩れ落ちて大泣きした。
もうここには帰ってこられないのだと、そう思っていた。辛くて、悲しくて、寂しくて。でも、だからこそ私は最後までご主人様のために何かをしたかった。ご主人様のために何かができると思いたかった。そうでなければ、私が何のために作られたのか、生まれたのかわからなかったから。
でも、本当は人間界に行くのは不安だった。
一人ぼっちで、知らないところへ行くのは怖かった。
ご主人様は泣き喚く私をもう一度抱きしめてくださった。
私が泣き止むまで、ずっと。




