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18 第五騎士団の事情

 なんでこんなことになっているのだろう。


 あの後、荷造りさせられて、再びレオナルドの馬に乗せられた。そして今馬の上にいる。


「第四騎士団が来た以上、もう俺らがいる必要ねぇからな」


 そう言われて町を後にすることになったのだ。


 おかげで王都には早く着きそうだけれど、ここまでずっと一緒だとボロが出てしまいそうで不安になる。今のところ私のあまりに無知なところは、田舎者だからということで誤魔化せているけれど……。

 気をつけなければ、と気を引き締める。


「王都までにはあと二つほど町を経由することになるから、そのつもりでいてくれ」


「わかりました」


 初めて馬に乗った時ほど速くはなかったため、周りの景色を見る余裕があった。


 多分、あれは畑ね。絵本で見たことがあるもの。それにしても広いのね。あの柵は、もしかして魔物防止なのかしら。


 そうやっているとだんだん楽しくなってくる。

 まあ、とりあえず、目的達成が近づいたってことで、よかったと思うことにしよう。

 そうやってしばらく馬に乗っていると、少し開けた場所へ出て、昼休憩だ、という声と同時に馬が止まる。


 馬を降りると騎士達がキビキビと動き、あっという間に昼食の用意が整う。騎士達もマジックバッグを持っているようで、周辺に香ばしい匂いが広がる。

 私はレオナルドに促され、用意された敷物の上に座った。レオナルドとルミエールとご飯を食べるのにはもう慣れてしまった。


「レイラちゃん、巻き込んでごめんな」


 レオナルドは少し弱々しい声で言う。


「いえ……むしろ思っていたより早く王都に着きそうなのでよかったです」


 私がそう言うと、レオナルドはほっとしたようで、表情が明るくなったように見えた。


「それにしても……何であんなに仲悪いんですか?」


 私は食事をしながら、少し気になっていたことを聞いた。

 さっきの会話はちょっと仲が悪い、というレベルではなかった。ただ、第四騎士団と第五騎士団がもともと仲が悪い、というだけでは説明できないほど険悪だった。


「……レイラちゃん、俺が団長って聞いて、変だと思わなかったか?」


 私は問われたことがわからず首を傾げる。


「んー……なんていうか、若すぎる、と思わなかったか? それこそさっきの第四騎士団の団長と比べて」


 第四騎士団の団長の神経質そうな顔を思い出す。二人とも人間の男で、何か違うところと言えば、第四騎士団の団長の顔にシワがあったことくらい。


「団長ってのはだいたいあいつくらいの年齢の奴がなるんだ。俺みたいな二十代の人間が就くような立場じゃない」


 町の中でも、顔にシワがある人間たちがいた。もしかして、歳を取るとシワができるのだろうか。それを知らないことは変かもしれないので、何も聞かずに神妙な顔をすることを心がける。


「第五騎士団の団長は、もともと俺じゃなかったんだ。俺がなるはずもなかった。……言っただろ? 勇者が返り討ちにあった話」


 レオナルドは苦しそうな、悔しそうな顔をしながら話し始めた。


 第五騎士団は魔物討伐を専門にしているため、勇者の魔界への遠征に一隊程度の人数で帯同することになったそうだ。魔界には沢山の眷属たる魔物がいるだろうからと。

 魔族の強さは人間達もわかっており、かなりの危険を伴う任務だったため、第五騎士団は帯同する者を慎重に選抜したらしい。初めはレオナルドやルミエールもそこに選ばれていたそうだが、当時の団長が悪い予感がする、と言い出し、経験の浅い若い騎士達を選抜から外したとのこと。

 そして、団長は副団長と共に、経験を積んだ熟練の騎士達を主力として魔界への遠征隊を組織した。

 有志の若い騎士も何人かは加わっていたが、レオナルドとルミエールは、万が一のときは第五騎士団を頼むと言われ、参加が認められなかったとのこと。


「団長は……自分が生きて帰れないかもしれないと、なんとなく気づいていたんだと思う」


 結果は惨敗。新たに立った魔王によるたった一撃の魔法で壊滅。勇者は戻ってきたが、ボロボロの状態で今も療養中だという。


「……団長も、副団長も……俺らを可愛がってくれた先輩達も……全員、一瞬で死んだんだ」


 レオナルドの隣でルミエールは目を閉じている。


「でも……それは仕方ない。こんな仕事だ、いつ死ぬかなんてわからない。団長達だって覚悟の上だろう。最後まで騎士を全うした団長達を俺は尊敬している。……でも……あいつは……あいつだけは……」


 そこまで言ってレオナルドは口を引き結ぶ。ギリ、と歯を食いしばる音が聞こえた。


「……第四騎士団の団長は、そんな団長達を馬鹿にしたんです。なんだ、戦闘力の高さを誇っていたくせに、何もできずに死んだのか。役立たずだな、と」


 ルミエールがレオナルドの話の続きを引き継ぐ。そしてゆっくり開かれた瞳には、怒りが滲んでいた。


「勇者様さえ……勇者様さえ、もう再起不能ではないかと言われるくらいボロボロなのですよ。前回の魔王の時にも大きな怪我を負っていましたが、傷さえ治せば大丈夫でした。けれど、今回は身体だけでなく、精神的なショックで……。そんな、そんな敵に立ち向かっただけでも、どれだけ勇敢なことか! あいつは、行ってもいないくせに、団長達を侮辱したのです」


 ルミエールは一息で言うと、ふう、と息を吐く。


「……んでまぁ、俺があいつをぶん殴っちまってな。これがまた見事に吹っ飛んだんだわ」


 レオナルドが少しだけ口角を上げて笑う。


「そんで……なんだ、その役立たずより弱い俺の一撃にやられたのか、じゃあお前はなんなんだろうな、って言っちまってなぁ」


「いやぁ、爽快でしたねぇ」


 一転してニヤニヤし始めるルミエール。

 しかし、それはまずいのではないだろうか。

 私の思っていることが分かったのか、ルミエールが頷く。


「……ま、お察しの通り、そのことを大層根に持たれていましてねぇ。実際今回の魔界遠征は第五騎士団にとって失態ということになってまして……その件も含めて我々の立場は悪いのです」


「次の遠征で挽回しないといけねぇな」


 私はなんと言っていいかわからなかった。


 食事を終えたあとはまた馬に乗って進む。でも、私はなんだか景色を楽しむ気にはなれなかった。

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