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17 なんだか面倒なことになってきました

 レオナルドとルミエールと食事をした日の翌日、朝食を終えた私は、宿屋の部屋でぼーっとしていた。


 今日一日何の予定もないのよね。でも、ここにいても仕方ないし……。


 昨日は結局、勇者が男だということに混乱して勇者のことを調べることができなかった。王都まであとどれくらいかかるかもまだわからないし、今日はそういうのを調べようかしら。


 でも、どうやって調べれば良いのかしら。

 私に文字は読めないから、手段は限られている。というか、人間に聞いてみるしかないのだけれど、一体誰に?


 ……レオナルドか、ルミエールしかいないのよね。


 とはいえ、彼らとは今日会えていない。朝食の時に会えるかと思っていたけれど、彼らはとっくに宿を出ていた。


 私が寝坊しちゃったのがいけないのだけれど。


 人間界へ来てから、疲れが溜まりやすい気がする。あの屋敷内しか知らなかった私にとって、外は何もかもが新鮮で、新鮮すぎて、頭に入ってくる情報が多すぎて疲れてしまうのだ。


 視線を動かすと、部屋の中は自由だとばかりに壁を動き回るトカゲが目に入る。


「うーん……でもここでじっとしているのは嫌だわ。とはいえ、道行く人間に聞いて回るのは、どうなのかしら? 商人様には魔族側だと人間に怪しまれないようにと言われたけれど、何をしたら怪しまれるのかわからないわ。ねぇ、トカゲちゃんどうしましょう?」


 トカゲはキキッと鳴くが、何を言っているかわからない。


 とりあえず、外に出てから考えよう。


 トカゲを服の中に隠して準備を整えてから宿屋から出ると、


「あ、レイラちゃんちょうど良かった」


 仕事をしているはずのレオナルドがいた。




「いやちょっと面倒なことになっちまってな」


 宿屋の食堂の机で向き合うレオナルドは眉間にシワを寄せている。


「昨日俺たちが魔物討伐部隊だったのは言っただろ?」


 そういえばそんなこと言っていた気がする。


「だから本来盗賊だとかの人間の犯罪者の取り締まりは俺たちの団では扱わねぇんだよ。それは第四騎士団の管轄なんだ。そんでどうやら……今日にもあの盗賊達の討伐が予定されていたらしいんだ」


 レオナルドは大きなため息をつく。

 私はいまいち何が問題なのかわからず首を傾げる。


「ちょうどこっち向かってたらしくてなぁ。昨日こっちが飛ばした連絡受けて怒って怒って……」


「あの……何で怒るんですか?」


「ん? ……まぁ、なんつーの? 縄張りを侵した的な、そんな感じよ」


「同じ騎士なのに?」


「……というか、同じ騎士だからこそだな。特に四と五はもともと仲悪りぃんだよ。……で、だ。ここからが本題なんだが」


 レオナルドが椅子に座り直す。


「さっきこの町に着いた奴らと口論になってな、俺らが昨日討伐したからレイラちゃんが助かったんだって言ったんだよ。そしたら、あいつ……レイラちゃんから事情を聞くって言い出して……もう調書作ったっつってんのに、俺の作った調書なんざ使えるかって……」


 つまり一体どういうことなのかしら。


「今はルミエールに足止めさせてるけど……これから奴がここにくる」


 だからそれはどういうことなの?




 宿に戻ってきたルミエールは、眉を下げて申し訳なさそうな顔をしている。

 その横には、なんだか神経質そうな顔をした人間の男がいる。


「君が、レイラさんかね」


 神経質そうな人間はジロジロと私を眺める。なんだか気分が悪いわ。


「はい、そうですけれど……」


「昨日は大変だったそうだね。この野蛮な奴らから失礼なことはされていないかね」


「はい……むしろ、だいぶよくしていただいたかと」


 ご飯もご馳走してもらったし。

 そう言うと、人間はふんっと鼻を鳴らしてレオナルドを睨む。


「第五騎士団は民間人に取り入るのはうまいようだな」


「あぁん? ……あぁ、第四騎士団の団長さんは民間人に嫌われてそうだもんなぁ」


「っ……貴様……! ……はん、第五騎士団は民間人に媚を売ってばかりで腑抜けているから、勇者様の役にも立てず無駄死にする羽目になったのではないか?」


「っ……てめぇ……!」


 目の前で睨み合う二人に困惑していると、いつの間にか私の隣にきていたルミエールが耳打ちしてくる。


「……巻き込んでしまってすみませんねぇ。なんとか収めますからしばしお待ちを……」


 そう言って、ルミエールはパンっと大きく手を叩く。


「こんなところで言い合いしてどうなさるんですか。盗賊のことなら先ほどお渡しした報告書が全てです。レイラさんは昨日のことがトラウマになっていて、昨日の調書すら無理して作成に応じてくださったのです。ですよね? レイラさん」


 ルミエールに有無を言わさない目を向けられ、困惑しながらもその圧に負けて頷く。


「はい……」


「第四騎士団の皆様が仕事熱心でいらっしゃるのは存じておりますが、こんなか弱いお嬢さんに無理させてまでもう一度、一からの調書作成に応じさせるおつもりなんですかねぇ?」


「……ちっ」


「とはいえ、第四騎士団は我らが団長自ら作成した調書に不安があるようです。ですので、ご確認いただいた上で不足している部分があれば、書面にてお問い合わせください。必要なことだけ、レイラさんの無理のない範囲で、追加でお聞きしましょう。質問する人間が変わればレイラさんのご負担も大きいでしょうから、我らが団長が責任を持ってご対応いたします」


 よろしいですかね? と言ってルミエールは微笑む。それは一瞬見惚れてしまう程綺麗な笑みだったけれど、どこか凄みのあるものだった。

 第四騎士団の団長は、苦虫を噛み潰したような顔をして、もう一度舌打ちしてから去っていった。不機嫌そうに足音を大きく鳴らしながら。


「……さて、レイラさん、お騒がせして申し訳ありませんでした。……団長、お気持ちはわかりますが、挑発に乗らないでください。あのクズには何言っても意味がないんですから」


「……悪い。血が上った」


 私はいまいち自分の置かれている状況がわからない。


「あの……別にもう一度協力するのは問題なかったのですが……」


「……普通の相手ならそれでいいんですけどねぇ。あいつは根っからのクズなんですよねぇ。レイラさんから話を聞いたということにして、第五騎士団の不手際を捏造するくらい平気でやります」


「そんなの私が否定すれば……」


「否定したって、レイラさんは第五騎士団に脅されている、とでも主張するでしょうね。ああいう奴とは関わらないのが正解なのですよ」


 そう言って私に向き合ったルミエールは私に頭を下げた。


「ですので、こんなこと頼むのはどうかと思うのですが、第四騎士団の奴らが接触してきても、思い出したくないと言って応じないでいただけますか。……今、第五騎士団の立場はあまりよくないのです」


 私は一瞬悩んだ。

 私にとって、レオナルドもルミエールもさっきの人間も、何も変わらない。三人とも、ご主人様の敵になりうる人間という点で全く同じなのだ。

 深く関わればボロが出るかもしれないから、人間と必要以上に仲良くなるつもりなんてない。第五騎士団の立場が悪いなら、第四騎士団と繋がりを持った方が勇者に近づけるかもしれない。

 けれど、何となく、さっきの人間のことが嫌だと思った。何となく、二人に肩入れしたくなってしまった。

 きっと、これはあれだろう。私はこの二人にご飯をご馳走になったし、勇者のことも教えてもらった。だから、恩を感じているのだ。


「わかりました。そのようにします」


 私の答えを聞いて顔を上げたルミエールは、ほっとした顔をしていた。

 しかし、その後爆弾を落とす。


「ということで、きっと第四騎士団から後ほど重箱の隅をつつくようなねちっこい書面が届くでしょうから、レイラさん、その際聞き取りできるよう、しばらく俺たちと行動を共にしていただけませんか? 目的地は同じなようですし」


「……え?」


 なんだか、面倒なことになってきました。

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