【閑話】ダグラスの受難
あれよあれよと決まった人間界行き。
仕方ない。俺のような青二才が魔王様の命に逆らえるわけがない。むしろ光栄だと思うべきことなのだ。俺はルドラ殿に眷属をお借りして、ライラ様がいるであろう町の近くへ転移した。
しかし自然と出てくるため息を抑えることはできず、大きく息を吐きながら町の入り口へ向かった。
勇者に会うために人間界に来るなど、ライラ様は何を考えているのか。
いや、話は聞いた。混乱した魔王様が酷い言葉を放ったことは聞いた。何せ俺はそれが混乱した魔王様の失言で、ライラ様の帰りを待ち望んでいると伝えた上で、ライラ様と共に魔界へ帰るという役目を担っているのだから。
「人間界へ来るなど……いつぶりだろうか」
おそらくライラ様がいるであろう町の中へ入り、大通りに来てからトカゲに出番だと合図する。
キキッと鳴いたトカゲの目線の先を見ると、まさに建物からライラ様が出てくるところだった。
すぐに見つけられてよかったと安堵し、そちらへ向かって歩き出そうとしてぎょっとする。
ライラ様に続いて二人の人間の男が出てきたのだ。
しかもあの服装は、見たことがある。
勇者が率いていた数千の兵のうち、勇者近くに配置されていた人間が着ていたものとよく似ているのだ。
だとしたら、あいつらは魔族の敵ではないのか?
ただの人間であれば知り合いを装って近付いてライラ様を連れ出せば良いが、魔族の敵だとすると慎重にならざるを得ない。
というのも、もしかしたらあいつらは俺が魔族であると見抜くかもしれないからだ。
人間は魔族と違って繁殖力が高く、大人数で結託して様々な新しいものを開発しているという。魔族にもルドラ殿のように研究好きな者たちがいるため、魔族の発明品が人間のそれに劣っているということはないだろうが、あいつらが何を持っているかは未知数だ。
仕方なく俺は少し距離をとってライラ様達の後をついて行く。どこかで別れるだろうと、そう思っていたのだが。
「……同じ宿に泊まっているのか……」
ライラ様と人間二人は同じ建物に消えていった。
「……魔王様になんて報告すればいいのだろう」
「なんだと……?」
宿を取り、部屋に結界を張ってから連絡魔道具で魔王様に連絡をした。
ライラ様が、敵と同じ格好をした人間の男二人と一緒にいたことを報告すると、魔道具越しだというのに気圧されそうな声が聞こえてきた。
「殺せ」
「……ここは人間界ですからそういう訳には」
「バレないように殺しちゃいなさいよー」
魔王様と話しているはずだったのに、女の声が紛れ込んでくる。これはサーシャ殿だろう。
「……そういう訳には」
「ライラちゃんを誑かしてる人間なんざ万死に値するだろ。俺も許可する、殺せ」
これはレイ殿か。魔王様たちはずっとあの屋敷で俺の連絡を待っていたというのか。
「……殺しましょう」
ルドラ殿まで。
「……俺の任務に人間の殺害は入っていません」
面と向かって言われていたら断れなかっただろう。しかし、今は魔道具越しだから、何とか反論できた。
「ライラに害なす人間を見逃すというのか、ダグラス」
「いえ、見た限りライラ様に害をなしている様子はありませんでした」
「ライラは人間が近くにいるだけで具合を悪くするのだ」
そんなわけがないだろう。ライラ様は生まれてからずっとあの屋敷にいたのだから、人間に接したことなどあるわけがない。
普段は誰よりも冷静で威厳のある魔王様の発言が残念すぎる。
「……常にその二人と行動しているわけではないでしょう。離れた隙を見てライラ様に接触します。人間を殺すのは簡単ですが、もしライラ様が相手の人間を悪しからず思っていた場合、嫌われてしまうかもしれませんよ」
「ぐっ……」
魔道具越しに悔しそうに唸る声が聞こえてきた。見事に四人分。ため息をつきたいのを我慢して飲み込む。
俺は、この短時間で魔王様達の扱い方がわかった気がした。
しかし、俺の予想に反し、なかなかライラ様と接触する機会を得ることはできなった。




