15 一方その頃2
「……何を言っているのですか。貴方は今魔王なのですよ? そして、今は勇者からの襲撃をうけているのですよ? こんな状態で人間界へ行くなど……ダメに決まっているでしょう」
ルドラは呆れたように言う。
「勇者が来ても、余は勇者を傷つけることができない。であれば、余がいなくても同じだろう」
「開き直らないでください。それでも、玉座を空にするわけにはいかないでしょう」
「……王の器たる者はまだ見つからないのか」
新たな魔王の器さえ見つければ、余はライラのところへ行ける。ついでに人間界をライラと共に巡るのも楽しそうだ。
「そう簡単に見つかりませんよ……」
「全く……最初っからそうやってライラちゃんを大事にしてればライラちゃんだって人間界になんか行かなかったのに」
サーシャが余を責める。返す言葉もなく、唇を噛む。
「まっ。安心して頂戴な。私がライラちゃんのところに行くつもりだから」
「……お前が?」
「そーよ? ついでに久しぶりに人間の精気をたんまりもらってくるわ」
サーシャはペロリと舌を出して唇を舐める。
「許さぬ。ライラの情操教育に悪い」
よりによって淫魔族のサーシャがライラの側に行くなど。まだライラは十歳なのだ。変なことを教えられては困る。
「まぁ……確かにサーシャはねぇよ」
レイもここは余と同じ意見のようだ。
「っつーわけで、俺が」
「レイも許さぬ。お前はライラに馴れ馴れしすぎる。お前がずっと側にいたらライラはストレスで体調を崩してしまう」
レイもだめだ。此奴はすぐにライラにべたべたと触る。きっとライラは嫌がっているはずだ。
「……はぁ……やはり私しかいないようですね」
「何言ってんのよトカゲ野郎。あんたその鱗隠せないんでしょ。一発で魔族バレするわよ」
ルドラは本来器用なのだが、なぜか人間に扮することができない。
「……やはり余が」
「それはダメだと先ほど言ったはずですが」
誰がライラのところへ行くか決まらず四人で睨み合う。
「……ていうか、トカゲ野郎の眷属がついてるんだから、トカゲ野郎がそこに転移してすぐライラちゃん確保してもう一度転移すれば済むんじゃないの?」
「できますが、それが人の多い場所だったら魔族が人間を誘拐した事例として人間側に魔界へ攻め入る大義名分を与えることになります。人間の中にも魔族との戦いに反対している層もいるというのですから、それは最終手段にするべきでは? いくら人間が弱いとはいえ、勇者のような存在もいるのです。下手に対立構造を煽るのは控えた方が賢明でしょう」
コンコン。
結論が出ず膠着状態が続く中、部屋の扉がノックされた。
「ご主人様。ダグラス様がお見えです」
「……入れ」
扉が開くと、ダグラスが駆けるように入ってくる。
「ああ……魔王様ご無事で……」
ダグラスは余の顔を見てその場にくず折れる。
大袈裟なやつだ。
「そうだ。ダグラスがいるではないですか」
ルドラが思いついたように言う。
ダグラスはきょとんとした顔でルドラを見る。
「実は今ライラ様が人間界へ行っているのですが」
「はぁ!? 一体なんでそんなことに」
「それもこれもぜーんぶそこのクソ野郎のせいなんだけど」
「サーシャ殿……魔王様をクソ野郎などと……」
「魔王様をクソ野郎って言うくらいクソ野郎なことしたのよそこのクソ野郎は」
サーシャよ……今回は余に非があるゆえ不問とするが、今度余をそのように呼んだら許さぬからな。余は嘆息して怒りを鎮めた。
「まあそれでですね、ライラ様を守る……というか連れ戻すというか……誰かが人間界へ行こう、という話をしていたのですが」
「誰が行くか全然決まんねーんだわ」
「はぁ……」
「さすがに魔王様が行くわけにはいかないでしょー? 不在の間に勇者がきたら大混乱だし。私は淫魔族だからダメとかいうし、レイもライラ様にストレスを与えるからダメだし、トカゲ野郎は鱗隠せないからダメだし」
「……今の感じだとやっぱ俺が一番適任じゃねーか? なんだよストレスって」
「レイは絶対許さん」
ダグラスは目を泳がせ困惑した顔をしている。
「ですからダグラス」
ルドラがダグラスに向けて微笑む。
「貴方が適任だと思うのですよ」
「え!? いやでも私も勇者が襲撃してきたときのために魔界を離れるわけには……」
「貴方が不在の間は私が代わりましょう。これでも、攻撃魔法も得意なのですよ」
ダグラスが余の顔を見る。途方に暮れたような顔をしている。なるほど、余に反対して欲しいとみえる。ならば。
「うむ。余もダグラスが適任と考える」
ダグラスは余の裏切りに絶望した顔をする。
許せ、ダグラス。喜び勇んでライラの元へ行こうとする奴など、ライラに近づけたくないのだ。
ライラを説得し、寄り道せず魔界に連れ帰ってくれそうなのは、ダグラスしかいないのだ。




