13 魔物と魔族は違います
「あー……ちょっとくるのが遅かったなぁ……お嬢さん以外全滅か……」
馬車に乗っていた人間たちの生死を確認していた騎士が呟く。
私はそんなことより、この後どうやって町へ行けばいいのか途方に暮れていた。
馬車は壊れてしまっているし、そもそも御者がいない。町までの道もわからないし……。
そんな私の様子を見て、騎士は私が同行者の死を悲しんでいると思ったようだ。
「お嬢さんは悪くない。不運だったんだ。でも、ちょっと話だけ聞きたいから、一緒に来てくれるか? 町まで送るから」
ありがたい!!
私がこくこくと頷くと、騎士がひょいと私を持ち上げて馬の上に座らせた。
「え?」
そしてすぐ後ろに騎士も乗ってくる。
なるほど。馬に乗っていくのね。
「団長ー。公私混同はダメですよー」
別の騎士が私の後ろにいる騎士に声をかける。
この騎士はダンチョーという名前なのね。変わった響きだわ。
「これも仕事だっつーの。しかし魔物狩りのついでに盗賊見つけるとはなぁ。しばらくしたら馬車が来るだろうから後は頼んだぞー」
「俺もそっちが良かったんですけどねぇ」
「たまには団長様に良い思いさせてくれよ」
ダンチョーは手に持っていた甲冑を騎士に向かって投げる。
「やっぱ公私混同してるじゃないですかぁ」
騎士はその甲冑を危なげなく受け取っている。
「いやいや仕事は仕事だろうが」
いまいち二人の会話の内容がわからないけれど、後から馬車が来るなら私はそっちでも良いのだけれど。
「んじゃま、お嬢さん行くぞ。舌噛むなよー」
後ろからお腹に腕が回され、それに驚いていると馬が走り出す。
勿論、馬に乗るのも初めてだった。
馬に乗って走るのって、こんなに楽しいものなのね。風を切る心地よさ、流れて行く景色、何もかもが新鮮で面白い。
魔界に戻ったら、お姉様に頼んで馬に乗る練習をさせてもらおうかしら。……本当はご主人様にお願いしたいけれど、それはきっと無理だろうから。
ご主人様のことを思い出して少し暗くなっていると、後ろから声をかけられる。
「ちゃんと姿勢正せ。危ねぇぞ」
私はハッとして背筋を伸ばす。
そのまましばらく馬に乗っていると、進行方向に町が見えてくる。
予定とはだいぶ違うけれど、ちゃんと隣町に辿り着けるみたいでよかった。
「改めまして、俺は第五騎士団の団長を務めるレオナルドだ。お嬢さんの名前は?」
「ラ……レイラです」
なんとダンチョーは名前ではなかった。
「うん、じゃあ馬車で何があったか教えてくれるか」
「はい……あの、いきなり馬車が止まって、ざわざわしていたら誰かが盗賊だって叫んで……」
私は見たままを伝える。
一通り喋り終えると、レオナルドは眉間にシワを寄せていた。
「じゃあレイラちゃんは、危うくあいつらの慰み者にされるところだったんだな……レイラちゃんだけでも助けられてよかった」
なぐさみもの……? 聞いたことのない言葉に首を傾げるけれど、あまり聞きすぎては怪しまれるかもと思って口を噤む。
「ほんじゃ、レイラちゃん、身分証見せてくれるか」
また身分証。私はバッグから仮の身分証を出して渡す。
「ん? これ仮の身分証じゃねぇか。レイラちゃん、どっから来たんだ?」
さすがに魔界と答えるわけにはいかない。
「えっと……すごく田舎の方から……」
「でもその鞄、マジックバッグだろ? 田舎でそんなの手に入るのか?」
「……これは、父親から譲り受けて……」
嘘はついていない。商人様が私を作ったのだから、多分商人様が私の父親なのだ。
「うーん……父親が冒険者かなんかだったのか?」
とりあえず頷いておく。
「なるほどなぁ。んで、その田舎からはるばるこんなとこまで一人で何しに来たんだ?」
「……勇者に会いたくて」
そう言うと、レオナルドは目を見開く。
「なんだ、あいつのファンか。なるほどなぁ……ほんっとあいつばっかモテやがって……」
「えっと……レオナルド……さんは、勇者の知り合いなのですか?」
「ん? ああ。俺も普段は王都にいるからな。何度か会ったことあんだよ。年も近くてね。最近魔王倒したってんで盛り上がってたんだが……早速新しい魔王が出てきて、しかも倒した奴より強いってんで勇者以外ほぼ全滅ってな。やっぱ魔族は一筋縄じゃいかねぇな」
話を聞いて、心臓がばくばくと大きく鼓動するのを感じる。ご主人様のことだ……。
「そしたらレイラちゃんはこれから王都に向かうのか?」
「あ……はい。王都に行けば会えるかもしれないので」
「なるほどなぁ。そしたらまずはちゃんとした身分証作っとかないと王都は入れねぇよ?」
「えっ……そうなのですか?」
「あぁ。最近は王都周辺はさっきみたいな盗賊が増えちまって警戒してんだよ。魔物も増えて困ってんのに……」
そう言えばさっきも魔物狩りがどうとか言っていたような。
人間界では魔物狩りが大変なのかしら。魔界では家畜として育てているし、魔物狩りは戦い慣れするための初級編なのに。まあ、私はやったことないのだけれど。
「全く、どれもこれも魔族のせいだよ」
突然魔族の話になって驚く。盗賊と魔物になぜ魔族が関係するのだろう。
「魔族……ですか?」
「ああ。あいつらが眷属の魔物を人間界に放ちやがるから、魔物がどんどん増えてってんだよ。そんで魔物に襲われて逃げた村や町の奴らが食い扶持をなくして盗賊に堕ちるんだ」
まさか!
だって魔族にとって魔物は食べ物だったり、戦いの練習相手だったりして、むしろどんどん数を増やそうとしているのに、それを人間界に移すなんてことするわけがない。むしろこっちに放って欲しいくらいのはず。
それに、魔物は魔族の眷属ではない。眷属化することはできるだろうけれど、眷属化した魔物をどうして側に置かず人間界に放つ必要があるのか。
なるほど、この誤解のせいで人間は魔界を攻めているのかもしれない。
魔界に戻ったら、商人様あたりに教えてあげれば良いかしら。
「あー。で、話戻すけど身分証作んなきゃ王都入れねぇから、ここらで作っておいた方がいいぞ」
それはさっきの話からわかるのだけれど。
「あの……身分証ってどこで作れるんですか?」
聞くと、レオナルドは目を丸く見開いた後、笑い出す。
「いやレイラちゃん……ほんっとすげぇ田舎から来たんだな。役所行って申請書類書いて、魔力検査さえすればすぐできるぞ」
やくしょ……って一体なんなのだろう。
それに……
「あの……私、字が書けなくて……」
「あー。そっかそっか。そんだけ田舎じゃ文字なんて使わなくていいだろうしなぁ。父親は教えてくれなかったのか」
「……父親は、あまり一緒にいなかったので」
商人様とは数日に一回、朝の短い時間にしか会わなかったから、これも嘘ではない。
「なるほどなぁ。そしたら俺がついてってやるよ。調書もできたしな。じゃ、早速いくか」
詰所とかいうところから連れ出され、大きな建物にたどり着く。多くの人が行き交う中をレオナルドは迷いなく縫うように歩き、私は慌ててそれを追う。
たどり着いた受付で言われるがままに質問に答え、魔力検査だと言われて水晶みたいなものに手をかざす。
「えっ。レイラちゃんすげえじゃん。三属性も魔法使えるじゃん。魔力量もそこらの魔法使いレベルに多いし。父親は結構有名な冒険者だったんじゃねぇか?」
「さぁ……田舎だったので……」
「そっかぁ。父親の名前聞いてもいいか?」
名前……。実は私は商人様の名前を知らない。ご主人様が、私が他の魔族を名前で呼ぶのを嫌がり、強引に呼ばせたレイ様以外の魔族の名前は教えてもらえなかった。
「……レイ、です」
「あー、知らねぇなぁ」
レイ様ごめんなさいと思いつつ、レイ様の名前を使った。
そうこうしているうちに身分証ができたようで受け取る。これで、王都に入れる。
「よし、そしたら昼飯でも食いにいくか」
ここでレオナルドとはお別れだと思っていたのに、今度はまた別の建物に連れて行かれる。
なんでこんなことに……。




