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12 とりあえず王都に向かうのです

 部屋に日の光が入ってきて目が覚める。


「んーっ」


 人間界へ来て二日目。なんだか、もっと長い時間いる気がするわ。


 着替えてから部屋を出た私は、トントンと一定のリズムで階段を降りる。

 朝食は一階で食べられると聞いたけれど、人間の朝食ってどんなものなのだろう。


「あらお嬢さん早いのね。おはよう。ほら、そこ座っててちょうだい。朝食持ってきてあげる」


「おはようございます」


 昨日会った人間に促されて席に座る。他の席には誰もおらず、私が一番乗りのようだ。


「はい、どうぞ」


 人間が持ってきた朝食は、私にも馴染み深いものだった。

 目玉焼きと、腸詰と、野菜のスープとパンね。コカトリスの卵にしては黄身が小さいような気がするけれど、人間界のコカトリスは小さいのかしら。


 不思議に思いながら食べると、味も少し違う。

 同じようなものなのに、やっぱりちょっと違うのね。これも美味しいけれど、私はいつもの方が好きだなぁ。


 そう思いながらも手を止めることなく食べ進む。昨日は部屋に入ってすぐに寝てしまったから、とてもお腹が空いていた。


「ふぅ……ごちそうさまでした」


 食べ終わるころには他の席にもちらほら人間が座っていた。


「お嬢さん足りたかい? おかわりもあるよ」


「大丈夫です。ごちそうさまです」


 私は断ってから立ち上がる。今日こそ乗合馬車に乗るのだ。そのまま宿屋を出ようとしてハッとする。


「あの、乗合馬車ってどこですか?」




 宿屋の人間に道を教えてもらったため、乗合馬車の乗り場はすぐに見つけられた。

 まだ朝早いのに、既に何人かの人間が馬車を待っていた。

 私もそこに紛れ込み、これからのことを考える。


 勢いで人間界に来ちゃったけれど、こんな感じで勇者に会えるのかしら。

 でも、少なくともここには来ないみたいだし、進むしかないのよね。


 とりあえず王都を目指して、その後のことはその時考えよう。


 考え事をしていると、馬車が乗り場にやってきた。

 料金を支払ってから。他の人間に倣って馬車に乗る。

 馬車に乗るのも初めてだからわくわくしてしまう。


 しばらくしてから馬車が動き出す。ガタゴトガタゴトと、予想以上に揺れる。

 こんなに揺れるんじゃ、お尻が痛くなりそうだわ。




 結構な時間馬車で揺られているのに、一向に着かない。そういえば、隣の町は遠いようなことを聞いたなと思い出す。

 まだまだかかるのかなと思っていたら唐突に馬車が止まった。御者の人間が休憩です、と馬車の中の人間達に声をかける。


 その声を合図に、人間達はぞろぞろと外へ出る。私も出た方がいいのだろうと思ってそれに続く。


 人間達は外へ出て、伸びをしたり、肩を叩いたりしている。確かに窮屈だったものね、と思って不自然にならないよう、同じような動きをする。


 しばらくそうしていると、御者がそろそろ出発しますとまた声をかけてくる。

 他の人間に続いて馬車に乗る。はぁ、あとどれくらいなのかしら。


 退屈でぼーっとしていると、だんだん眠くなってきた。昨日たくさん寝たのにな、と思っていたら、突然馬車が止まる。


 また休憩? まだそんなに経っていないと思うのだけれど……。

 訝しく思っていたのは私だけではなかったようで、周りがざわざわ騒ぎ出す。


「盗賊だ!!」


 誰かが叫ぶ。馬車はガタンと大きく揺れ、悲鳴が上がる。御者台を見ると、そこには御者がおらず、代わりに赤いものが散っていた。


 さて、どうしましょう。


 馬車の中にいた何人かの人間がパニックになったのか外へ出て逃げようとする。当然斬り捨てられている。


 その他の人間達は、扉を閉めてぶるぶると震えている。


 外から聞こえる声からすると、盗賊とやらはそれなりの人数がいそうだった。トカゲに頼ろうかしら……でもそうしたら私が魔界から来たことがバレてしまうかもしれない。


 悩んでいると、ガンッと扉が何かで叩かれる。馬車の中は悲鳴で満たされるが、誰も何もすることができない。何度かそれが続き、ついにバキリと扉が壊れてしまった。


「ほら、お前ら金出せ。そしたら命は助けてやるかもしんねぇぞ」


 なんだか気分が悪くなるような、品のない雰囲気の人間の男が、馬車内の私達に話しかけてくる。


 本当にお金を払ったら助けてくれるのかしら。

 自分がどうすべきかわからなくて様子を見ようと思っていたら、中にいた人間の一人が布袋を出して盗賊に懇願する。


「かっ……金ならここに……! 命だけは助け……っ」


 布袋を強引に奪った盗賊は、ニヤリと笑って人間の胸を剣で貫いた。周りからまた悲鳴が上がる。


「なぁーんて、嘘に決まってんだろ! ほら、とっとと金出せ! 命は助けてやんねぇけどなぁ」


 助けてくれないのになんでお金を出さないといけないのか。


「お、若い女もいるじゃねぇか。お嬢ちゃんは大事に連れ帰ってあげるからなぁ」


 ……私のことだろうか。こっちを見ているから私のことなのだろう。

 若い女は連れて行く、というのはなぜなのだろうか。よくわからないけれど、連れて行かれるのは困る。私は王都にいかないといけないのに。


 黙っていると、中まで入ってきた盗賊が私の腕を掴んで馬車の外に引き摺り出す。

 次々と盗賊が中に入り、他の人間のことも引き摺り出している。金を奪い、その身を貫き。


 魔界は弱肉強食だけれど、人間界もそうだったのね。私以外に若い女はいなかったようで、馬車にいた私以外の人間は全員殺されてしまった。


「お嬢ちゃんは恐怖で喋れなくなったのかなぁ?」


 ゲハゲハと品のない人間が笑う。


 盗賊以外の人間がいないのなら、多分、大丈夫よね。


 私が服の中に隠れていたトカゲに盗賊の排除を命じようとした時、


「やべぇ! 騎士が来たぞ! なんでこんな田舎に……!」


 にわかに盗賊達が騒ぎ出す。騎士……騎士?


「……ちっ。おいお嬢ちゃんこっちに」


 私の腕を引っ張る盗賊の頭を弓矢が貫いた。そのまま盗賊はべしゃっと倒れる。


 驚いていると、あっという間に騎士と呼ばれた人間たちが盗賊を取り囲む。全身鎧で、見分けがつかない。


 騎士……はこちらの味方でいいのよね。今の状況だと。


 本来魔族の敵である人間の騎士が、今は自分の味方であることに混乱していると、今度は別の盗賊に後ろから羽交い締めにされ喉にナイフを当てられた。


「ひ……ひひっ……ほら、それ以上近づいたらこのお嬢ちゃんの首掻っ切るぞー」


 さすがに油断しすぎてしまった。騎士達がじり……とこちらをうかがっている。

 目を動かして周りを確認すると、他の盗賊は全員捕まっているか死んでいるようだった。


 うん、一人ならいける! 練習の成果を見せる時だわ。


 私は踵で思い切り盗賊の足の甲を踏みつけた。


「ぎっ……」


 腕の拘束が緩んだ瞬間、するりと拘束から抜け出して騎士の方へ駆ける。


「んのやろっ……」


 盗賊が私を追ってくる気配がしたけれど、私が駆け出した瞬間、騎士の一人も駆け出して私とすれ違うようにして最後の盗賊を斬り捨てた。


 それに気付いて私は止まろうと思ったけれど、勢い余って前へつんのめる。


 あ、転ぶ。


「おっと」


 地面とぶつかることを覚悟した私のお腹に手が回ってきて衝突を免れる。

 どうやら、最後の盗賊を斬り捨てた騎士が助けてくれたようだ。


「あ……ありがとうございます」


 お礼を言うと、騎士が甲冑を片手で外してからニッと笑う。


「どういたしまして、お嬢さん」

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