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岩橋さんは女の子同士でカラオケ、俺は和彦と二人で

 昼休みが終わると当然の事ながら午後の授業が始まる。今日の午後一の授業は現国だ。何だってまた一番眠たい時間にこんな眠たい授業を聞かなきゃならんのだ……もっとも数学だろうが英語だろうが眠たいものは眠たいんだけどな。


 半分寝ながら授業を聞いていると一人の女子の名前が呼ばれた。どうやら朗読に当てられた様だ。まあ、俺には関係無いかと引き続きぼーっとしていたのだが、奇妙な事に朗読の声が聞こえてこない。チラッと見てみると、当てられた藤崎さんが教科書を手にあたふたしているではないか。


 あーあ、かわいそうに。きっと藤崎さんも寝てたんだな……と俺は思ったが、藤崎さんは落ち着きを取り戻し、すらすらと朗読を始めた。なかなか朗読を始めない藤崎さんに一時は渋い顔をしていた先生だったが、無事朗読を始めた事でなんとか機嫌を損ねずに済んだ様だ。良かった良かった。


 授業が終わると藤崎さんが岩橋さんに話かけた。


「サンキュー。助かったよ、岩橋さん」


 どうやら、と言うよりやっぱり藤崎さんの隣に座っている岩橋さんが読む場所をこっそり教えてあげたらしい。以前の、いや昨日までの岩橋さんなら声をかけるのが恥ずかしくて見て見ぬフリをしていただろう。勇気を出したんだな、岩橋さん。引っ込み思案な自分を変えようと頑張ってるんだ。


「ううん、でも気を付けてね。授業中はいつ当てられるかわからないから」


「えへっ、その時はまたお願いね」


「もう、しょうがないなぁ」


 岩橋さんと藤崎さんが笑顔で会話している! これは凄い進歩だ。きっと由美ちゃんの後押しが効いてるんだろうな。でも、何か岩橋さんが離れて行ってしまう様な気がして少し寂しい気持ちになったりもする。ああ、やっぱり俺って小者なんだなぁ。


 そんなうちに授業が終わり、放課後となった。


「明男、帰ろうぜ」


 和彦がいつもの様に一緒に帰ろうと誘ってきた。だが、いつもと少し違う。そう、由美ちゃんの姿が隣に無かったのだ。


「あれっ、由美ちゃんは?」


 思わず聞いてしまった俺に和彦は答えた。


「ああ、今日は女同士でカラオケ寄って帰るんだと。もちろん岩橋さんも誘ってな」


 和彦が顎で示した方を見ると、由美ちゃんはニッコリ笑って親指を立てた。その横で岩橋さんも口元に嬉しそうな笑みを湛えている。さすがは由美ちゃん、この機に一気に岩橋さんと友達の距離を縮めようとしてくれているのだ。


「岩橋さんと一緒に帰りたいだろうが、今日のところは我慢しろ」


 和彦はニヤニヤしながら言った。やっぱりコイツ、エスパーじゃないのか? って、そりゃ解るよな……


 和彦と二人で帰るのは久しぶりだ。俺と和彦は一年から同じクラスだったのだが、二年になって同じクラスになった由美ちゃんがすぐに和彦に告白したんだったっけ。由美ちゃん、多分一年の時から和彦の事をチェックしてたんだろうな。あーあ、モテる男は羨ましいね。もっともその『モテる男』和彦の彼女となった由美ちゃんのおかげで俺の思惑通りに事は運んでいるのだからもの凄く感謝しているんだが。


 そんな事を考えていると和彦が口を開いた。


「お前と二人で帰るのも久しぶりだなぁ」


 やっぱコイツ、エスパーだよ! って、エスパーじゃ無くてもそう思うか。実際その通りだもんな。


「ああ、そうだな。俺も今、そう思ってた」


 くどい様だが、二人共そっちの気は全く無い。和彦には彼女がいるし、俺にだって気になる女の子はいる。もちろん岩橋さんだ……こないだ先輩に振られたばっかりなんだけどな。

 えっ、節操が無いって? そんな事は無いぞ。なんたって俺は健康な男子高校生なんだから、一つの恋が破れれば新しい恋を求めるのは自然な事だろ?


 恋と言えば、俺は以前から和彦に聞きたい事が一つあった。今って、それを聞くチャンスじゃないか? そう判断した俺は思い切って和彦に尋ねてみた。


「なあ和彦、一つ聞いて良いか?」


「何だよ、いきなりだな」


「由美ちゃんに告白された時って、どんな風に思った?」


 なんてバカな質問をしてしまったんだ、俺は。だが、和彦は真面目に答えてくれた。


「どんなって……そりゃお前、嬉しかったに決まってるじゃないか。告白されたのなんか初めてだったからな」


「そっか……」


 和彦は女の子に告白されたのは由美ちゃんが初めてだったらしい。俺としては和彦の事だ、数多の女の子に告白され、悪い言い方をすれば『取っ替え引っ変え』なんて事も有り得ると思っていたのだが、予想外の答えに俺はせっかく答えてくれた和彦に対してそんな言葉しか返せなかった。すると和彦は真面目な顔で言ってきた。


「なんだ? そっか、お前、岩橋さんに告白する時の事を考えてるんだな」


 確かにそれもある。しかし、悪いが和彦の答えは半分以上参考にならない。いや、信じられないとかそういうのじゃ無い。俺が思ったのは、由美ちゃんみたいな可愛い女の子が告白してきたら男としては嬉しいのは当然だ。しかし俺みたいな背の低い、顔も勉強もスポーツも秀でた所が無い男に告白されたところで女の子が嬉しいかどうか……という事だ。まして実際俺は先輩に告白して玉砕したばかりなのだ。



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