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冬のある日、俺、花沢海斗は突然交通事故で死んでしまった。
などということはなく、今日も元気にアルバイトに励んでいる。親にはせっかく専門学校まで行かせてもらったが、就職活動に失敗してその後もだらだらと実家住まいでアルバイトに精を出す毎日だ。ちなみに今はスーパーのレジをやっているが、驚くほどやりがいはない。誇りをもってレジを打っている方には申し訳ないが、俺には向いていなかったのだろう。卒業して数年は就職してほしそうだった両親も、諦めているのか最近は特に何も言ってこない。
そんなだから家族内でも運転手として扱われることも多いが、俺はおおむね納得している。運転をすること自体は嫌いではないし、両親と違って毎日酒を飲みたいとも思わないからだ。ただ、妹のそらには最近いらっとすることが増えてきた。何故なら、俺や家族が妹の学校や遊びの迎えに行くことを明らかに当然と思っているようなのだ。休みの日の夕方に突然迎えに来いと言われることもしばしばで、それに対してお礼を言われることもない。
今日もそんな突然の出動で、面倒だと思いながらも嫌いにはなれない妹を隣に乗せて、家までの道を走らせている。あと2か月もすると中学校の卒業を控えている妹は、最近特に遊びに出かけることが増えてきた。図書館で勉強などと言っているが、迎えに行く先が図書館ではないためばればれだ。 親に言えばそらは叱られるだろうが、わざわざ俺から言うことでもないと思い、特に告げ口もしないでいる。
「それでね、りみは4月になったら家族で札幌に引っ越して札幌の高校に通うんだって」
「りみちゃんって、幼稚園からいっしょだった子か?」
「そうだよ。札幌うらやましいなあ」
「別にここだってそう不便ではないだろ」
「お兄ちゃん何言ってんの?札幌より寒いし雪多いし、うちの方なんか一時間に一本しかバスないじゃん!」
不満をこぼすそらに相槌を打ちながら、雪が降る薄暗い夕方の道を走らせていく。会社帰りの人が多いのか、多くの車が連なる長めの坂を上って下れば家に到着だ。何故か晴れている坂の向こう側とそちらに向かう車達を見て、
(冬から逃げているみたいだな)
なんてポエミーなことを考えながら、俺達が乗っている車も同じように坂を上っていく。坂のてっぺんからさあ下ろうかという時、あたりが急に激しく光った。思わず目をつぶって反射的にブレーキを踏んでしまう。
「おにいちゃん…?」
そらの声に我にかえり、目を開けた。すると夏場は畑で、この季節は雪原が広がっているはずの車の外は、何故か一面森になっていた。それも、なんだか見たことがないような木みたいだ。
さっきまで前後にいたはずの車はどこにもいなくなっており、しかも景色も変わっている。一瞬事故にでも遭ったのかと思ったが、それにしてはやけに現実的な気もする。そらとは普通に会話ができているし、車内は何も変わっていないのだ。
「ねえ、お兄ちゃん、ここどこ…?」
「うーん…」
いくら生意気でもかわいい妹が不安そうにしているのを見て、しっかりせねばと思い直した。