元SM令嬢が乙女ゲームの悪役令嬢に転生して、鞭で本気の悪役令嬢を目指します。〜ヒール(悪役)になって断罪され、平民になるのが目標です〜
とうとう来たよ!!
聖チュリアン学園、祝入学!
私の悪役令嬢人生が、幕をあけた...。
無事に悪役を演じきって見せようじゃないか。
下僕ども待ってなさい、わたくし悪役令嬢ネフェルティ・ヴァンキュレイトが華麗に見参っ!!
ぽんっぽぽん、ぽんっぽんっぽん。清々しく晴れ渡り雲が一つもない空に、花火が上がって白煙がゆらゆらと揺蕩ふ春。
学園の大聖堂には、今年の新入生である平民・貴族あわせて300人が集い、式典に参加していた。
その大聖堂にはステンドグラスが所狭しとはめてあり、光によって色鮮やかに輝き、神秘的な空間を演出していた。
これが、乙女ゲーム『聖なる光で、病んでる男の子を救っちゃうぞ☆』のオープニングである。
見たことある景色!
これぞまさしく乙女ゲームに転生しましたってテンプレね。
実は私には、前世日本人の記憶があるのよ。
没年33歳。激昂したお客さんに首絞められて、死んだ。
でもね、悲しくないの。
ちょうど、その時の仕事が年齢的に卒業しなきゃまずい雰囲気になってて自暴自棄になってたの。
大好きな仕事だったから、辞めたらどこでこの衝動を発散していいのか分からなくて....、ちょうどよかった感じ♪
きっと親にも生命保険が入ったはずだから、死んで親孝行出来たし、後悔は全くない。
でさ、わたし前世の職業、SMバーでSM嬢をしてたのよ。だから、33歳はちょっとね....
お嬢さんって年齢じゃないよねぇ。
死んだ日も仕事だったんだけど、被虐趣味の客だけくればいいのに、その日は頭の固い男が来ちゃってね。...大失敗。
まあ、前世の失敗は時効って事で横に置いとこう。
それでね、前世の嗜虐趣味の私にぴったりのゲームがこれだったわけ。
病んでる美青年が、ヒロインの聖なる魔法と聖女のような振る舞いのおかげで闇が晴れてハッピーエンドになるってお決まりのゲームだったんだけど、私は違う楽しみ方をしてたの。
ハッピーエンドと逆のことをひたすらしてバッドエンドにひたすら向かうという楽しみ方♪
病んでるからバッドエンドでは、被虐趣味の攻略キャラがヒロインになびかずに悪役令嬢に縛られたり叩かれちゃって、はぁはぁしちゃうのをひたすら観てた!
つまり私の推しがいる世界です!騎士科の犬がいるの。名前はなんだっけ?
『これより、聖チュリアン学園入学式を始めます。新入生代表、聖国第二王子ジュリアン・セントワール挨拶』
さらさらと煌くプラチナブロンド、緑の澄んだ切れ長の目、鼻は高くスッと通った異常に整った男が前に出てきた。老若男女が見惚れるというのはこの男のような容姿なんだろう。
まあ、私には関係ない。ただ単純に生物学上男なんだと思うだけだ。
私が男を判別するのは、クズかクズじゃないかだ!
この王子って私的にはクズじゃない。他の人の基準ならクズだけど。
うん、早く話終われ。私は、これから愛するクズ男つまり被虐趣味の犬を探しに行くんだ。
ちなみにこの王子の闇はね、人間のコレクターなの。気に入ったものは手元に置いておきたい所有欲が半端ない俺様王子。
バットエンドでは、ヒロインが監禁されて一生部屋から出れないの。
うん、監禁じゃあ萌えないよね。
せめて亀甲縛りで監禁くらいする程度がないとさぁ。
だから、こいつには興味ない。
ちなみに、ネフェルティはどの攻略対象にも悪役令嬢で登場してヒロインをいじめる。
ヒロインがルートを決定すると必ず私が婚約者になるからだ。
ヒロインにちょっと可愛い嫌味を言うだけで断罪されるお決まりルールだけど、私は私で私のクズ男を探すのが忙しいから無視する。
勝手にハッピーエンドを迎えておくれ。
強制力で断罪されても、問題なし。
身分剥奪のうえ隣国で平民になるだけ。
処刑されないなんて、ご褒美としか言いようがない。
どんな悪行をしても平民になるだけなら、叩きまくってグズ男をたくさん発掘してみようじゃないか!
私がクズな男が大好きだ!
大事なことなので、もう一度言うよ!殴られ蹴られるのが好きなクズ男がだ〜いすきだ!
ぁ、王子の演説終わった。よし、騎士科に向かおう。
**********
『これから騎士科の担任をするローガンだ。お前たちには、これから卒業までの間、兵法などの座学と、実践に向けての訓練をしてもらう。その成績によって各騎士団に配属される。であるからして必死に学園生活を送るように、以上。敬礼!』
ムキムキマッチョなミドルageのゴリラ教官がビシッと敬礼をした。
それに倣って私たちも敬礼をする。
右手を握りしめドンと胸にあて、左手は剣のつかに添えて足は揃える。
これがこの世界の騎士の敬礼である。
ざっと周りを見渡すと200人くらいの人員がいそうだ。この国は、隣国との争いが絶えず常に騎士を必要としている。需要と供給が成り立たないほどに騎士が死ぬからだ。
だが、騎士なればバカでかい富が得られる。
この学園を卒業すれば、司令官クラス以上の出世の道も開ける。逆に、ここで兵法・軍の運用法をしっかり学ばないといくら強くても、副司令官どまりで終わる。
故に入学試験は、熾烈を極める。
ここにいるのは座学と実戦で勝ち残った200人である。
当然私も受けて合格した。しかも、首席だ。
私は生まれた時から、隣国へ行っても傭兵として生計を立てるために力を欲して鍛錬していた。
ストイックに様々な武器を扱えるように切磋琢磨した。
同時に、我がヴァンキュレイト家は魔道の家門ゆえに魔術も学んだ。
体は小さくても、大人な頭脳をフルに使った。
効率よく学んだため、今では軽く最強だ!
だから、クズ男の判別は簡単になると思っている。
まず、訓練しながら相手を叩く!ひたすら叩く!意識が無くなる寸前まで叩く!
そうして意識を保とうと必死になるやつは、クズじゃないことがわかる。
クズはね、意識を失う瞬間に、花開くのだ!
恍惚とした表情をするのだ!
その一瞬を見逃さない。簡単だろう?
だから、私はどんなやつもボロ雑巾にできるくらい強くなった。故に最強。
「私の名は、ネフェルティ・ヴァンキュレイトだ。
ヴァンキュレイト家の令嬢だが、学園に入学した瞬間から騎士見習いとして振る舞う。
言葉も、綺麗には話さないからそのつもりで。
ちなみに令嬢と思ってかかってくると痛い目に合うぞ。魔術も使える私のお気に入りの武器は、レイピアと鞭だ。」
パァーンっとケインを振り落として威風堂々と自己紹介をした。
私の武器は、計3つ。
右腰に2個の鞭を携帯している。一つは縄の鞭:ブルウィップ。もう一つは棒状の鞭:ケイン。この2つを自由自在に操る戦闘スタイルだ。
まずブルウィップで相手をギュルっと拘束する。そのあと、時と場合によって武器を変える。
痛めつけたい時はケインで叩く!
死傷させたい時は、レイピアで突く!
これに魔術も加えると、私の死角はないと言える。
よし、クズを発掘するぞ!
**********
入学から2ヶ月ほどたったある日。
「ネフィ!!辞めてぇぇ。僕は、君みたいに強くないんだ。死んじゃうよ〜!うわぁぁぁぁっ!」と弱虫エドが訓練場を逃げ惑っていた。
「エドワード!男なら向かってこい!鞭も使ってないんだぞ!」
「嘘だよ、ネフィ!君の左手にブルウィップがあるじゃないか!ひぃぃっ、パシンパシン言ってるぅぅ。怪我するよ、いや今日で僕の人生が終わるぅぅ!!」
大量の涙と鼻水を垂らしながら全力疾走だ。
「貴様が逃げるからだ!打ち合いでは使わない。待て、性根を鍛え直してやる!」
ブルウィップを振り回して、エドをカウボーイのように捕まえた。
「ぎゃぁぁぁぁっ、捕まった。ネフィが相手じゃなければ、いくらでも打ち合いするよ!待って待って!ハリ〜、助けてぇぇぇ」
訓練場にエドの悲鳴が響き渡った。
「...エド、諦めよう。抵抗しても、結局救護所に行くのは変わらないんだ。それが今になるか、後になるかの違いだ....」
ハリソンは、眼鏡を指でクイっと上げて諭した。
「ハリー??君は剣を構えるだけで、すぐ意識を飛ばすじゃないか!?
僕は、ネフィの打撃を食らっても意識がなかなか飛ばないんだっ!!何度も死線を越えるんだぞ!恐怖しかないっ!」
プルプルしながらもエドは、覚悟を決めて剣を構えた。
ザンっ ぐえぇっ!
ドスっ ごふぉっ!
バキっ ................ ぱたん
「「「おぉぉ、二発耐えたぞ、さすがエドワード。」」」周りは拍手喝采だ。
えいさっ、ほいさっと、男たちがエドを救護所に運び込んだ。
はぁ、予定が狂った。なぜ、こうなったし?
そもそも、被虐趣味な推しメンを探しに騎士科に来たはずなのに、...いない....。
名前は覚えてないけど何度も見たから容姿は覚えてる。
腰まである灰色の髪、氷のような寒々しい瞳、すらっとした体。
武器はバスタードソード。器用に片手と両手を使って使いこなしていた...サブ武器としてタガーを用いていて、眉間にシワを寄せているのが印象的だった。
200人もいるので見落としていたのかと思ってたが、いない。
髪型を変えたのかと思って、灰色髪の男を注視してみたがいなかった。
バグ??
私が魔道科に行かなかったから、シナリオが変わった?
だからって、攻略対象がまるっと居なくなるのはどうなのか。
容姿と武器が完全に変わったとしても、基本の闇設定を根っこの部分に残している奴はいるんじゃないかと、小さな希望を持って打ち合い稽古をしてみたが、見つからなかった。
正しくは見つけられない。
私が強すぎて、どいつもこいつも1撃で完璧な失神をするからだ....
その中で1撃で失神しないやつが2人居たので、友人となって観察してみた。
エドワードは、何発か耐えるが本気で恐怖しているので違うことが判明。ただの臆病者で痛みに強いだけだ。
ハリソンは、構えた瞬間威圧もしてないのに失神される。なんだかわからないやつだった。
失神したやつに攻撃はできないし、判別不可である。学園に入学できたこと自体謎である....
そうそう、この2ヶ月で分かったこともある。
私の嗜虐趣味が、性的欲求じゃないんじゃと思い始めた。
いわゆるヤンキーの、喧嘩が好きっていう部類だったんじゃないかと。
いわゆる猟奇趣味?
ここにいる男たちを毎日一撃で沈めるだけでも、心がみたされつつあることに気づいたんだ。
前世では、か弱い女が、安全に殴れるってところがSMバーだった。
それ故に、自分は叩くことに性的欲求があると思っていたのかもしれない。まあ、最後は殺されて安全ではなかったがね...。
こうなってくると、ヒロインはちゃんと入学してるのかも不安だ。騎士科の犬がいないと言うことは、シナリオが変わってることは明らかだ。
世界が違う?だが、人形コレクターは、いたもんなぁ....。
私は断罪され平民になりたい。貴族堅苦しい。
どうなる、私のヒール人生!?
**********
初秋、木々が色づきノスタルジックな雰囲気の中庭にクズ王子がいた。
その横に、黒髪の庇護欲掻き立てる女が居た。
あー、あれか?ヒロインは?
ゲームでは黒髪の後ろ姿で顔がなかったが、現実では顔があった。
そりゃそうか、顔がなきゃホラーだ。
遠見の魔術で視てみると、くりっとした黒い瞳とさらりと伸ばした絹糸のような黒い髪、鼻の穴は小さい(これ大事!北島サブ○ーのような鼻では台無しだ。)、口はあひる口。
うん、可愛い。
これは、王子ルートか?これは俄然ヒールにならないと王子妃になってしまう。
「ハリソン、あのクズお...、第二王子の横にいる女生徒知っているか?」
横にいるハリソンに、私は尋ねてみた。
「うん、クズは不敬だよ。言い直しても意味がないところまで言っちゃったね。」
エドが失笑した。
「.......目が悪いから、近くに行かないとはっきり見えないが、黒髪で王子の周りにいる女性は多分マリーナという新興商家の娘だと思う...」
顎に手を当ててハリソンが情報を話し出した。
「王子と一緒の文官科に所属していて、最初は接触はなかったんだがな。
たまたま、春と夏の課外授業の班が一緒になって話すことが多くなったらしい。秋になった最近は、度々一緒にいることが増えたようだ。
だが、今のところベタベタすることはなく良い友人ってところか。」
ハリソンが現状を教えてくれた。
ふむふむ、ヒロインのハッピーエンドを試したことがないから、全くといって攻略進行度合いがわからん!
婚約者に指名されてから考えよう。ケ・セラ・セラ〜
ある日の訓練場で今日もエドと鬼ごっこをしていた時に、余所者がきた。
「いやぁぁぁぁぁっ、こないでネフィぃ!
僕は、こないだも五発くらって救護所に行ったばかりぃぃ。ネフィは、もう騎士団に入ってもいいんじゃないかなぁ!?
学園には、相手できる人いないよぉ。
ヒイっ!鞭ぃぃ。それズルイからっ!」
パシンパシンとブルウィップを振るうが、全てエドに避けられる。
チッ。逃げ足が早くなってる。
「「「せぇのっ。エドワードぉぉ、今日も頑張れぇ!」」」
周りの有象無象がうるさい。全力で捕まえてやる....
ん!?
どぉぉんっ。!
爆煙が上がって、砂埃の中から人が出てきた。
『騎士科のくせに魔術を使う女ゴリラはどこだ〜!!』と叫ぶ魔導科の制服を着た男が出てきた。
魔術を使うゴリラは私のことかっ!?
許すまじ!
「ゴリラとは、私、ネフェルティ・ヴァンキュレイトのことか?」
ケインをビシッと突きつけて、相手を威圧する。
「私のどこが、ゴリラだ?
この出るとこは出て、引き締まるべきとこは、きゅっとなったボンテージがめちゃくちゃ似合う肉体美をゴリラだと?」
ネフィは、体から怒りのあまりオーラが漏れる。
「名を名乗れ!痴れ者!」
パシーッン!!
鞭をしならせ、打撃音を響かせた。
すると、ローブのフードをぱさりととって顔をさらした男が、名を告げた。
「俺は、魔導科デイビット・サーキュリットだ。俺と勝負しろ!」
男が決闘を申し出た。
ネフェルティは、その顔と名前を聞いてハッとした。
「お前は、根暗サイコパス野郎!」
思わず全力で叫んだ。
攻略対象!!
こいつは人体実験に手を出して魔術の限界研究をするやつで、バッドエンドではヒロインを人体実験に使い続けるという頭がいかれてる自己中心野郎だ!
なぜ、サイコパスは居るのに、騎士科の犬がいないのだっ!!理不尽だ!
「俺は、根暗じゃない。サイコパスでもねぇ!お前に何がわかる!」
「夜な夜な新しい魔術を動物や昆虫にかけて、高笑いしている奴が、根暗でもサイコパスでもないと?笑止千万!」
「な、なぜそれを知っている!?
もういい、俺から攻撃を仕掛ける!
もう誰にも魔導科首席なのに騎士科首席に魔術で勝てない残念野郎とは言わせない!俺の魔術を受けてみろ!」とデイビットが魔術を構築し出した。
空に特大の魔法陣が光り輝いて、今まさに行使されようとしたとき...
パッーーーーーンっ!
魔法陣が斬り裂かれ、一閃された。
「何が起きた!?なぜ魔法陣が崩れた?」とデイビットは初めてのことで動揺した。
「なに、簡単なことだ。
魔力を纏わせた鞭で切断して、魔術を破壊しただけだ。それを防ぐための守りの陣が足りなかったお前の力不足だ。
ちなみに惚けてる場合じゃないぞ。魔法陣を棄却した反動で、エネルギーがお前に帰ってくるぞ。」
霧散した魔法陣の場所に、渦が生まれてエネルギーが集束し出した。
集束し終わった途端に弾丸のようにデビットに向かう。
ドッカーンっ!
「うぐぅっ」
エネルギーを受け止めきれなくて、吹っ飛ぶ。
ガッシャーンっ!! ガラガラガラ...
壁が崩れた...
デイビットは、訓練場の壁まで飛ばされて失神した。
「実戦が足りないぞ研究馬鹿。部屋にこもってないで鍛錬しろ。」と私は気を失ってるデイビットに吐き捨てた。
それからは、事あるごとににデイビットが現れるようになった。
「今日は守りの陣も構築した魔法陣を用意してきたぞ、魔王!くらえ!!」
パシっーーーッン!
ブルウィップで即一閃。
「遅い!守りの陣も入れることで発動までが長い!
構築途中で棄却され放題だ!出直せ!」
また別の日、
「今日こそ、勝負だ!魔女め!」
デイビットが魔法陣を描き始めたところで...
ベシっ!とケインで叩く。
「遅い!コンマ秒で構築発動をしろ!
対騎士なら、待ってはくれないぞ!
構築中に間合いに入れる!鍛錬が足りない!」
また別の日、
「今日こそ、勝負だ!魔獣め!....いてぇっ!」
ブンっ、バッシーーーン!
「せめて人に例えろ、根暗サイコパスめ!
心臓が意識せずに動くごとく魔術も自然に出るようにしろ。まだまだ鍛錬が足りない。」
なぜかデイビットが毎日毎日飽きずに挑んでくる...。被虐趣味ではないが、打たれ強いど根性男だった。
しかも、日々鍛錬をお日様の元でしているため根暗っぽさがなくなり、研究より実戦派になったためサイコパスでもない。
私が、シナリオを変えちまったぁぁぁぁっ!!
**********
冬が明けて、最終学年に進んだ春。
とうとう私は第二王子の婚約者になった。
ヒロインは、王子ルートなんだね。頑張って、監禁回避しておくれ。
「...なあ、ネフィ。お前、本当にキラキラ王子と婚約したのか?」
ハリソンが、訓練場に向かいながら聞いてきた。
「えっ、ネフィ。王子妃になるの?なれるの?騎士団に入るんじゃなかったの?えっ、熊も素手で昏倒させる王子妃ってなに?」
ケインで、エドをパシっと叩いてやった。
「痛いよぅ!すぐ鞭が出る王子妃なんて子供の夢が壊れるよ。」とシクシク、エドが泣き始めた。
「打診じゃなくて、王命だったからな。ヴァンキュレイト家として断れなかった。ただし、条件は付けて譲歩してもらった。」
「...どんな条件をつけたんだ?」
「王子妃になっても騎士団に席を置く。軍内部から王族としての責務を果たすと条件をつけて、納得してもらった。」と肩をすくめて説明した。
「...そうか。キラキラ王子と話は合うのか?」
「その王子な、春期休暇の時に屋敷に来たんだが....。」と私は回想し出した。
**********
「お嬢様ぁぁぁぁっ!大変です。ジュリアン殿下がいらっしゃいまぢた!」とメイドがものすごい勢いで走ってきた。
「はぁ?先ぶれなしで?」
私は、ありえない事態に困惑した。普通は、先ぶれののち、しばらくたってから訪れる。常識だ。
「どうしましょう?わたくし今、汗まみれよ。もういらっしゃってるんだよね?困ったわ〜。」
こてんと、首を傾げながら困り顔をしてみた。
セリフは棒読みである.....。
屋敷にいるときは令嬢モードの話し方である。オンオフは大事だよね!
そうこうしてるうちに、鍛錬場に殿下が現れた。
「急な訪問申し訳ない。」
「ヴァンキュレイト嬢、はじめまして。ジュリアン・セントワールだ。」と眉間に皺をよせながら王子が挨拶をした。
「お初にお目もじかかります。ヴァンキュレイト家が娘ネフェルティです。殿下は息災であられますか?(頭正常か?いきなりくるとは、俺様至上主義すぎるだろう。)」と、スカートではないので略式のカーテシーをした。
きっと、美しいものが好きな男だからこの私の格好は嫌悪の対象だろうなぁ。
汗まみれ、髪ボサボサ、土つきまくりの3連コンボだし。あぁ、どんどん顔がしかめられてく....
「ああ。今日は、あなたに言いたいことがあってきた。この婚約は、王命で決まったもので愛はない。
今後もあなたとは、愛を育めない。学園であっても、声はかけないでほしい。
それだけ伝えにきた。では失礼。」と殿下は言いたいことだけ言ってすぐに帰っていった。
**********
「ってなことがあって、婚約者の肩書がある他人になった。卒業後は騎士団に入り浸るから、これからもよろしく!」と二人の肩をバシバシ叩いた。
するとエドが、こそこそ声を潜めて
「えっ、王子って不能なの?愛し合わないの?子供どうするの?」と直球で聞いてきた。
「...多分、愛人を作るんじゃないか?同性愛者ではないみたいだから。」とハリソンも声を潜めて訝しげた。
うん、ハリソン正解!マリーナを愛人で置いて、婚外子として育てると思う。
私が、シナリオ通り断罪されたらマリーナが王子妃になるね。
どっちにしろ、騎士か傭兵になるところは変わらないから合法的に蹴れるし、叩ける。
ケセラセラだね。
と、この時は思っていたが夏になると状況が変わってしまった。
**********
春が終わり、本格的な夏が来る初夏。この時期聖国では感謝祭が開催される。
全ての神に感謝を示し、3日3晩踊り明け暮れる。
貴族は、中日に舞踏会が開かれ聖国中の貴族が集まる。
一大イベントに当然、私も参加する。
しかも今回は婚約者として殿下のパートナーだ...。なに喋ったらいいんだろうか....。
しかも、こないだマリーナがイチャモンつけてきたんだよぉ。
『私のジュリアンを貸してあげてるだけだからねっ!!』ってさ。
それ、私の役割だからっ、小言や嫌味を言うのは悪役令嬢の役目だからっ!?ってびっくりしてるうちに去っていったよ。
もうさ、ストレスでさ.....、私のための下僕もいないしさ。
学園も休みで、全力で叩ける奴もいないしさ、本当嫌.....。
舞踏会当日になって、朝から磨かれる私。
てかてかモチモチしてる....。
特に剣が当たって荒れてるところが、ほぼ無くなった。メイドすごい!
コルセットも前世ボンテージを着てた私には慣れたもの。これを着てても、全力で戦えるよ。ふふふん♪
さて、服を着るか。
今日の私の装いは、スリットがガッツリはいったマーメイドラインの赤いスカート。スリット部分のはレースを重ねて卑猥な感じを抑える。首はホルターネックで肩と背中をガッツリ出して。手袋は、なし。ショールは、両中指に指輪のようにはめたものを肩にかけて羽織った。腕の動きに合わせてショールがふわりと舞う設計で、織姫みたいだ。髪はゆるくサイドにまとめてみた。
一応殿下の色をいれてるよ、赤地に銀糸の刺繍と髪にアイビーの葉っぱを編み込んでね。
太腿には、隠して鞭を一つ仕込んだ。精神安定剤である。
ぁ、殿下迎えにきた。いざ、地獄の舞踏会へ...
「久しぶりだな、ヴァンキュレイト嬢。今日は、一緒にいることを我慢してやる。空気でいろ。」と、相変わらずの俺様殿下が振り返った。
「!!!っ」
びっくりしてるなぁ〜、着飾ると私女王さまだもん。美しいだろう?ふふん、空気だから無視。
微笑で返事を返した。
「...ヴァンキュレイト嬢。ヴァンキュレイト嬢!」
うるさいなぁ、私今空気だから返事できないの!さっきから殿下話しかけすぎ、うざっ。
「返事をしないか!」と、怒られちゃった。
「...空気でいろとおっしゃられたので返事ができませんでした...なんでございましょう?」と微笑を保ったまま殿下を見ずに返事をした。
「お前の名前は長い!愛称で呼びたい。愛称はなんだ?」
んー?王子釣れた?ヤダなぁー。
「...学友たちは、ネフィと呼んでくれてますが、殿下はお前で結構ですよ。愛称など恐れ多いです。」
「そうか、ではネフィと呼ぶ。」と殿下が宣った。
いや、呼ぶなしっ!仲良くしたくもないわ!さっきから、騎士科仲間たちが驚愕の目でこっちを見てるのに、仲良くなんて出来るか!
「...........殿下のお好きに......。」私は諦めた。
宴もたけなわになり、そろそろ終わりが見えてきた時入り口付近が騒がしくなった。
耳をすましてみると、ドドドという地響きとたまにボカッという打撃音がする。なんだろう??
『牛追い祭りの闘牛が、コースを外れて王宮内に入ってきてます!皆さん、避難してください!』と侍従たちが、避難を促し出した。
なぜ、魔導士を出さないんだ!アホの集まりか!っと思ってたら、牛に反魔の布が顔と体にかかっていた。
ーー魔道士のローブか.....厄介なものひっかけてるな。くそっ、騎士の剣じゃ致命傷にならないじゃないかっ!ーー
「殿下、お側を離れます。牛を止めてきます。」と姿勢を低くして人並みを駆け抜けた。
太腿から鞭をだし、牛の正面に回り込みショットっ!
牛の脚に、鞭が絡んだところを確認して放り投げる!
くっ、自分に身体強化と、鞭に軽減の魔術を施してあるが重いぃぃ!
ドッカーン!!
牛がひっくり返ってのびた。
牛に素早く近づき魔導士のローブをひっぺがえして、拘束の魔術を発動した。
無事に捕らえたが、この後貴族の間で私のことを「牛使い」と揶揄されて呼ばれることになった。解せぬ...。
**********
そんなこんなで断罪される卒業パティーがやってきた。
相変わらず推しの犬がいないままの卒業であった。
根暗サイコパスは、活発なド根性魔導士になった。
王子は一時期「ネフィ、ネフィ。」とくっついてくることが多くなり、それと同時にマリーナがキャンキャン吠えた。
私は、クズ下僕の犬は欲しいが、こんな犬はいらない。
とりあえず、マリーナを鞭で威嚇して撃退していた。
でも、マリーナは頑張ったみたいだ。せっせと私の悪口を王子に伝えて、王子の気持ちを維持したようだ。
そして今日、ようやく断罪されるのでは?っと、今か今かと待っている。
ぁっ、きたよ。不貞王子とマリーナが近づいてきた!王様もこっち見てるね、バッチリだ!
「ネフィ....。今日も美しいな...。」と、褒め出した。
はぁ!?横見て、横見て!マリーナが般若になってる。
「ありがとうございます。殿下も麗しいですわ。」
さらに「マリーナさんも可愛いですね。」と付け加えた。(ほら、王子の横に可愛い妖精がいるよ!私じゃなくて横の子褒めて!)
「そうだな、マリーナは可愛い。性格も可愛くてマリーナの聖なる魔法は温かいんだ。」
不貞王子が苦しそうに話し出した。
「今まで少しの間だが、言葉をネフィと交わしたがマリーナのような気持ちが持てなかった。心が満たされないんだ。このまま結婚しても、君を愛してあげれない。だから婚約を解消してほしい。」
んんっ!!?破棄じゃなくて解消?えっ!?ごめん、想定外。頭真っ白になっちゃったよ....
「え〜、殿下。婚約、...解消ですか??破棄でなく?そうですね、解消できるなら了承しますが、王命でしたから王様にうかがってみないと私からはなにもいえません。」ととりあえず一般論を伝えてみた。
ジュリアンは、王様の方を向いて
「父上!!私は、ここにいるマリーナを愛してます。マリーナと結婚がしたいです。聖なる魔法ももっているマリーナは王族にふさわしい価値があります!ヴァンキュレイト嬢との婚約を解消してください。」と堂々と叫んだ。
周りの常識人たちはドン引きだ。
「ならぬ!!!そんな理由ではヴァンキュレイト嬢との婚約は解消できない。令嬢自身に、何か瑕疵がない限り許すことができない。」
そりゃそうだ、王様正解よ。だが、不貞王子は私の悪行を喋り出した。
「ならば、証明してみます!ヴァンキュレイト嬢は、度々学園のものを壊し、多大な損害を与えています。」
あー、デイビッドが所構わず勝負してくるから壁とか美術品っぽいものが壊れるんだよなぁ。
「嫌がるものに無理やり鞭を振るって暴虐無人の行いを日々繰り返している。」
それは、エドとの鬼ごっこだなぁ。確かに毎日している....。
「マリーナに、いきなり手をあげたこともある。」
んんっ?それは...あー、蚊がとまったから退治してやった時のかな。それともキャンキャン言ってるのを鞭で撃退したことかな?
「このようなものが王子妃になったら、品位が落ちます。」とジュリアンは進言した。
「それは、誠のことか?ヴァンキュレイト嬢よ。」
私は、身をかがめて首を垂らしながら肯定した。
「全て事実であります。(それに至った過程が説明されてないがね。)私には、どうも荒っぽいことが好きなきらいがありまして、騎士団こそが私の天職だと思っております。そのことで王家の品格を落としてしまうことに考えが至りませんでした。よければ、このまま婚約を解消させていただきたく存じます。」
「うむ、わかった。では、婚約を解消とする。だが、息子よ、マリーナとの結婚は協議が必要だ。それはわかるな?」と静かに王はジュリアンに諭した。
「さて、ヴァンキュレイト嬢。こちらからの解消であるので何か一つ願いを聞こう。何かあるか?」と王が聞いてきた。
きた〜!!きたよ!!この時が!言っちゃう?いうでしょ!今でしょ!?
「過分な措置をいただけて、大変恐縮でございます。ですが、ひとつだけ叶うならばわたくしの爵位を無くしていただきたく存じます。」と、進言すると周りがざわついた。
「何故、爵位を?」
「はい、私は先日の感謝祭で『牛使い』と揶揄されてしまいました。そして、この度の婚約解消にて、貴族としての価値が失われたと思われます。
私は、幸せな結婚をジュリアンさまのように希望しております。貴族の方と結婚は難しいでしょう。故に、平民になり市井にくだりたいと思っております。」と悲しそうな顔を全力でつくった。
「あい、わかった。ヴァンキュレイト嬢の爵位を無くそう。
ただし、平民として今後この国の騎士団に士官することを命ずる。他国に行くことは許されない。これは王命だ。皆のもの覚えておくがいい。」
なんかいいように、上手くいった。
この国の王様と王子が、若干大丈夫か心配になったが、ケセラセラ〜。
こうして私の令嬢人生は、幕を引いた。これからは騎士として気楽に生きて行こうと思う。
鞭があれば、私は生きていける!これからも合法的に振るうだろう!
その後....
「うわぁぁぁぁっ、やめてよ〜。ネフィぃぃ!痛い、痛い、痛い。僕、これでも隊長だよ!そこそこ強いんだよっ!ネフィ一人で隣国を滅ぼせられるんじゃないかなぁ!?ぎゃぁぁぁぁっ!!」と騎士団にエドの悲鳴が毎日響き渡っていた。
終わり