曾てのボツ設定
主人公は今は平民に落ちていますが元は現王妃の血筋に遠く連なる者でした。
優秀な魔術師を多く排出したその一族は魔術師として国に勤めてました。
その中でもより優秀な人間が国を守る魔力の塊・・・魔力溜まりを管理する役目を担ってました。
色々な方法で集めた魔力を代々受け継がれた魔道具を使って注入し、増幅し、固定する。
王がその魔力をどう分配するかの相談を受け、使うのを補佐するのです。
もちろん不具合なども管理します。
まさに国の根幹を支える仕事です。
悪意を持った人間が就けば国が揺らぎます。
よって魔力量もさることながら性格が重視されてました。
正義感・倫理観が強い人間が選ばれていたのです。
そんな人が遠縁の娘が婚約破棄されると聞いてどう思うのか。
当然のように激しく抗議しました。
当時の管理者はそれなりなお年でしたが、子供はおりませんでした。
いえ、若かりし頃に結婚し子供を儲けていたのですが、仕事に没頭しすぎ夫婦仲にすれ違いが生じ離縁していたのです。
その際、子供は母についていき連絡は途絶えていたそうです。
前夫が王宮勤め、子供がその魔力を引き継いでいると知れるとトラブルになるのを恐れ、王宮は離縁する時、子供の魔力を封じることを命じました。
妻はそれを快諾し、口止め料込みの養育費は多額となりましたが、それを一括で受け取りその後、疎遠となりました。
その寂しさを埋めるように管理者は仕事に没頭し、遠縁の現王妃が生まれた時は本当の孫のように溺愛してきました。
こじらせた溺愛は激しい抗議という形で表現されました。
先王は何とかなだめようとしましたがその抗議は収まらずどんどん激化しました。
長年勤めていた間に溜まっていた鬱憤もあったのでしょうか。
私生活を犠牲にして管理者としての職務にのめり込んでいたのですから。
長く王国の基幹となる物を管理しているという万能感が管理者を勘違いさせてしまったのかもしれません。
抗議が突っぱねられ、プライドが大いに傷つけられた彼は引くに引けなくなったのでしょう。とうとう魔力溜まりの管理を盾にとる禁忌を犯しました。
彼は国の根幹を揺るがす賊として魔力と管理者の記憶を封じた上で平民に落とされました。結果、恋人の遠戚が平民に落とされたことに現王も抗議しました。
婚約破棄だけでも業腹なのに、気持ちをくんで抗議してくれた遠戚が犠牲になるのは若かりし現王には耐えられなかったのでしょう。
先王も婚約破棄させた負い目を感じたのでしょう。
現王妃の婚約破棄は覆りませんでしたが、更に慰謝料を上乗せし、平民となった元管理者にも配慮しました。財産等は没収されず、魔術に関する知識も封じませんでした。
また、一流の知識を生かして魔道具開発師として生計を立てることも黙認しました。
市井に降りると自由になった時間を使って離縁した妻子の行方を捜しました。
結果、妻子は市井で不遇な一生を終えた事がわかりました。
多めに与えた養育費は不埒な人間を引きつけたのでしょうか?
多くの人間が妻子に纏わり付き、お金を吸い上げられ、お金が無くなると同時に放り出されたとわかって管理者は落ち込みました。
自分が仕事にかまけずにもっと家庭を大事にしていたらそのような目に遭わせずに済んだのでは無いかと自分を責めました。
失望はしましたが、縁を辿ると町外れで暮らす孫娘を見つけることができました。
孫は伴侶を得て貧しいながらも楽しそうに暮らしていました。
寂しい独居老人として隣家に引っ越し、それとなく孫夫婦と接触でき管理者の彼はようやく安らぎの生活を得ることができました。王宮勤めと違って時間に追われることもなく、経済的にも困ることもありませんでした。
なにしろ、街は隣国の姫君を迎えると言うことで反発心もありながら好景気を迎えていました。新たな建物が建てられ、橋や道が整備されていきました。隣国との交易も活発になり物が豊かに手に入るようになりました。
管理者にも途絶える事無く仕事の依頼がありました。
切羽詰まって仕事をしなくてはならない訳ではありませんが、元々魔術に関する仕事は好きでしたし、その知識が評判を呼び依頼は引きも切らない状況になっていきました。
孫夫婦も好景気の波に乗って日雇いの仕事を繋ぎ貧しい生活を乗り切っていました。
毎日仕事に就けるようになった孫夫婦はもう少し落ち着いて仕事をしたい欲が出てきました。
その隙を突かれたのでしょうか?
新しい事業の口車に乗せられ、なけなしのお金を巻き上げられてしまいました。
更に事業の借金の形に旦那さんは連れて行かれ、ショックで孫娘は倒れてしまいました。
管理者は気づかなかった自分を責め、そして回り回って王族へ私怨を抱きました。
自分が離婚する羽目になったのは王宮で管理者として勤めていたからだ。
妻子が不遇の一生を送る羽目になったのは王宮からの口止め金のせいで養育費が大金になったからだ。
子供が魔力を封じられなかったら自分でトラブルを回避できたかもしれないのに、それを妨げたのは王宮だ。
孫夫婦が騙されたのは、この好景気を引き起こした隣国の姫の輿入れのせいだ。
全ての現況は王族にある。
そう考えるようになりました。
完全なる逆恨みです。
呪詛を呟きながら、娘の看病をし、王族への復讐を果たす研究を続ける日々を送る内に孫娘のお腹が段々大きくなっていきました。
孫娘は子を宿していたのです。
夫が連れ去られたショックもあったのか悪阻は治まることなく続きました。
希ですが出産まで悪阻が続く場合があります。
孫娘はまさにそれに当てはまりました。
食事も満足に取れないまま、栄養不足の状態で早産に至りました。
赤子は小さいながらも無事に生まれましたが、孫娘は産後の回復が悪くそのまま帰らぬ人となりました。
赤子は女の子でした。
管理者は大事に大事にその子を育てました。
それが主人公です。
主人公は困窮すること無く、宮廷の常識・儀式の知識も身につけることができ、又魔術の英才教育を受けることができました。
比べてみれば、公爵令嬢である私より恵まれた教育環境だったかもしれません。
目覚める前の私は我が儘で自業自得でしたが、目覚めた後は希望しても中々教育を受けさせてもらえませんでした。
そしてこれが重要なのですが、主人公は私と違って魔力が無いわけではありません。
封じられているだけです。
王宮魔術師の手による封じ込めは簡単に解除できませんが、管理者には十分な知識がありました。
そして、魔道具を作る能力も時間もありました。
研究を続け主人公が12の時に封じられた魔力を解放することに成功しました。
管理者は魔力制御の基本を教え込んだ後、力尽きたように世を去りました。
最後に困ったら現王妃を頼るように、そして王宮の秘密を知り、本当の管理者たる人物は自分だと名乗るようにと告げて。
つまり、王宮が命じた魔力溜まりの管理者の知識を封じる処置は効果が無かったのです。
長い間、管理については代々一族の誰かが受け継いできたのです。
責任感の強いいわゆる頑固者が引き継いできたのです。
他人に管理を委ねるなど耐えられないと思うような人間達です。
そういう人間達は慎重です。
いつか王が正常な判断を下せなくなった際、管理を良からぬ者に奪われてしまった時、それを取り戻せるように色々な措置が取ってあったのです。
ですが、簡単に取り戻せるようならば王宮にバレてしまいます。
色々煩雑な手順を踏まなければ取り戻せないようになっていました。
その為のヒントが王立学校に隠されていました。
主人公は現王妃様の伝手を頼りました。
現王妃様はお手並み拝見とばかりに王立学校への入学を許可しました。
”言うことが本当なら学校の不具合を収めて見せてみよ。”
と、いうことです。
入学後は攻略対象者と仲を深めその手を借りて学校に起きている不具合を直しつつ、王宮の秘密に迫るヒントを手に入れていきます。
主人公が13歳で入学する頃には、魔力溜まりや設備の管理者が変わって15年程度経過している計算になります。
慣れない新人管理者は勝手がわからず、運営する設備も十分に手入れがされていない状態での15年。
家電なら故障・買い換えの時期は過ぎているような状態。
下手したら2回買い換えしててもおかしくありません。
そんな設備をだましだまし使っていた状況に現れた主人公。
彼女は教え込まれた知識を元に設備を直してしまいます。
時に狭い所に入り込んで攻略対象者と密着したり、閉じ込められてドキドキしたりしながら魔力を注入し直していってしまいます。
殿下達攻略対象者達にしてみれば主人公は救世主です。
学校に生じた不備も生徒会役員の処理案件です。
ですが、上手く対応できなかったのです。
なぜなら、経年劣化もありながら前管理者の仕掛けも作用していたからです。
前管理者は自分の手が離れてから長い時間が経つとランダムに故障したり正常に動いたりするように仕掛けを施していました。
給湯器のお湯が出たり出なかったりみたいな些細な物から自動扉の鍵が突然閉まり閉じ込められてしまうというような物まで、いくつも仕掛けを施していたのです。
動力は魔力です。
それが上手く流れない。
その流れを上手く操作できるのが貴族としての義務であり、高位貴族となればそれは顕著になります。
魔力が無くとも施された文言を読み取り、効率的に流れ、作動するように調整する。
まるでシステムの後ろで流れているプログラミング言語のように。
複雑になればなるほど、知識やセンスが必要となります。
それを手に入れる為に皆躍起になります。
知りうる知識や技術も囲い込もうとします。
そうして高位貴族は自分の地位を守ってきました。
魔力を上手く操作できることは力となるのですから、当然でしょう。
殿下達攻略対象者達も幼い頃より、その事を学ばされてきました。
国政を担う前の言わば練習として、言わば実習の場として学校運営があると言っても過言ではありません。
それが、出来ないとなれば殿下や攻略対象者達の将来性にも疑問を持つ輩が現れるでしょう。
殿下達はさぞかし慌てたことでしょう。
何とかしたくても、うかつに相談できる所もありません。
殿下達の失脚を望む人達がどこに潜んでいるかも知れないのですから。
そんな困り果てた所に現れた主人公。
問題を解決し、尚且つそれぞれが持つ悩みやトラウマにも親身に相談にのり、励ましてくれます。
まさに救世主。
救国の聖女。




