手に入れた
元陛下が椅子から立ち上がり私に手を差し出します。
私はその手を恭しく取り、引かれるままに進みます。
元陛下は私を玉座へと先導しました。
数ヶ月前、私はここに座る?と軽く聞かれ断りました。
でも今、躊躇することはありません。
平民服の裾をそっと広げゆっくりと優雅に見えるように腰掛けます。
見下ろす景色は混沌としています。
この先も何度ももっと混沌とした景色を見ていくことになるのでしょう。
私は深呼吸をしました。
元陛下が
「女王陛下、お言葉をどうぞ。」
と、言います。
玉座に座った私に気づいた宰相が
「その座を認めていない!」
と、叫びました。
元陛下が胸元から書類を引き抜き、それを投げました。
怪訝な顔で拾った宰相は、今度こそ表情を曇らせました。
「先ほど、プテリオン公爵より入手した書類の一部だ。」
その言葉に他の父親二人も、顔を青ざめさせます。
「公爵は、こんな物を陛下に譲渡したのですか?」
「正確には女王陛下にだ。」
それで全てを察したのでしょう。
宰相は黙り俯きました。
国を網羅していた情報網も、裏の社会を統べる力も、全て私が分捕った事になります。
それは彼らの首に鈴をつけたのと同意です。
親子の決別イベントをぶち壊したのは、ちょっぴり気が引けますが情に流されている時間はないのです。
三人が戦意を無くしたのを見た元陛下は王笏をポンと音がしそうな程、軽い仕草で渡してきます。
いつの間にか持ってこさせたのかもわかりませんし、その軽さはバトンリレーみたいです。それだけで、もう元陛下がこの地位に重きを置いていないのだと感じさせます。
その癖彼の目は心なしか潤んでいます。
私を玉座に座らせること、すなわち血統主義の強いこの国で全く関係ないしかも女性を王に戴かせた事で、きっと、母と自分をないがしろにした、この国の王族を貶めてやった。
くらいに思っているのかもしれません。
彼の行動の根幹は常に“お母さん”だった訳ですから。
私は彼の復讐に付き合わされた訳ですが、私も彼を利用しているのでお互い様です。
彼に向かって頷き口を開きます。
「皆の者。くだらぬ争いは止めよ。私はそのようなことに煩わされたくない。」
同時に魅了の道具を発動させました。
かなり精神力が削られているのか、皆が反射的に私の前に跪きます。
下げられた皆の頭を見下ろし私は感慨深い気持ちになりました。
これが本当の最後です。
まさしく三度目の正直。
私は連行されません。
私は退場しません。
表だって嘲笑されることもなく、幽閉されることもなく、拘束され殺されることもありません。
今まで翻弄される側でした。
それが嫌で、逃がれようともがいていました。
でもそれでは根本的解決には至りません。
私はずっと人の思惑に左右される存在のままでしょう。
抜け出す為にはどうすべきか。
取れる方法はいくつかあったでしょう。
その内の最も茨の道を選びました。
私はこの国から逃げません。
今まで生きてきたこの国が好きだからです。
これから起きること全ての責任を負います。
誰かに責任をなすりつけたりなどしません。
全ての矢面に立ちます。
今までの経験が私に覚悟を与えてくれました。
考えられる以上に沢山の問題が私の肩にのし掛かってくるでしょう。
それらを理解した上で私はこの道を進むと決めました。
この先、私と同じ思いをする人が減って欲しいその一心でです。
私は、この国を変革したいのです。
女性がもっと自立して活躍できる国に。
活躍までいかなくても、家の思惑での結婚を強制されたり、離婚して路頭に迷うことのないようにしたいのです。
最終的には女性だけでなく、社会的に弱い立場にある人等全ての民の自立を目指していくつもりです。
簡単な事ではないとはわかっています。
人々の常識を覆すことは浸透するまで時間がかかるでしょう。
でも、常識が変われば自ずと国の成り立ちも変わっていくでしょう。
中継ぎ王位とは口で言いましたが、文書で確約した訳ではありません。
これから先、王として務めていく間に、気持ちが変わる事もあるかも知れません。
女性だけでなく、全ての人が自立し意見を持つ社会を目指していけばいずれ王政自体が廃される事態になるかもしれません。
舵取りを間違えば流血を伴う革命が起きてしまうかもしれません。
それも、これも、全て私の采配次第。
全てを手に入れた独裁者気分に酔いしれます。
人の弱みを握り、魔道具で意思を操り、やっていることは父や主人公と同じ。
いや、更に酷いことでしょう。
私にはその自覚があります。
だから私は常に私の気持ちだけで動かないと肝に銘じなくてはなりません。
人の人生がかかっているのですから。
でも、今夜だけは、この瞬間だけは万能感に酔いしれても良いでしょうか?
「では、最初の命令を下す。」
私は王笏を振り上げ口を開きました。
魔法少女のステッキ気分です。
長い長い夜が終わりを迎えています。
謁見の間には朝日が差し込み始め、ノーメイク、ノー魔力な私に天然のエフェクト効果を与えてくれます。
テンションがガンガン上がっていきます。
薄い顔に満面の笑顔が浮かぶのが止められません。
多幸感に包まれて、こうして私の “ざまぁ 失敗 テンプレ 悪役令嬢 ”の物語は終わりました。
振り返ってみれば“ざまぁ”は出来たような出来てないようなモヤッとした感じになってしまいました。相手を押さえつける為に私も王位という重荷を負ってしまいましたし、テンプレ悪役令嬢も失敗したようなものです。
かわいらしく誰かの腕の中でにっこりなんてできませんでした。
仕事も恋いも上手くいく!前世知識でチート、万能!とはなりませんでした。
そう考えると、やっぱりテンプレ悪役令嬢的には失敗なんでしょう。
“ざまぁ”も、“テンプレ悪役令嬢”も失敗。
失敗だらけです。
でも、私は、もうこれで良いのだと思っています。
一応、まだ26歳ですし、自分の自由になる法律もこれから作れば良いですし、自由になった後の保証体制も自分で作れます。
言うほど簡単じゃないとわかっています。
沢山、沢山もがいて苦しんで私は自分の道を切り開いていくのです。
そんな青臭い理念で胸いっぱいなのですから、他のことが入る余地はありません。
なんちゃってですが、天下を取ったどー!と心の中で叫んで今までの私にケリをつけたいと思います。
これから、“天下取った元悪役令嬢自立を目指す”の物語が始まるのですから。
本当に、本当に長い間、ご静聴ありがとうございました。
感情にまかせて、話しましたので色々お聞き苦しい点あった事、ご容赦下さいませ。
もしかしたら、また小さな事件など呟きにくるかもしれません。
その時、またお会いできたら幸いです。
<完>
蛇足ですが、数年後、このクーデター込みの事件は国史に記されました。
陛下が泥を被ると仰ったので、何故か“アレンの変”として。
首謀者は今、私の片腕として働いています。
えぇ、一抜けはさせません。
だって、この人、私を盾に自分が自由になろうとしてたんですもの。
権力あげるよ。この国、君の自由にしちゃいなよ。
それが僕の贖罪なんて言いながら、私に全部押しつけて逃亡するつもりだったんですよ。
諸国漫遊なんて、それ私がやりたかったことの一つです。
だから、下働きでこき使ってやります。
自由になるのは私が先です。
そう思っていたら、下働きは下働きで、何だか楽しそうなのです。
「君に命令されると求められているんだなって実感できるよ。」
なんて鳥肌台詞を言ってきます。
私を好きという設定はもう終わりで良いのですが、何故か一人で続けています。
更に蛇足ですが、女王となった私に箔をつけるためアレアレ昏倒事件も国史に記されました。
“ディアンヌ・プテリオンは神の啓示を受け昏倒した。その時から人が変わったように民の為に働いた”のですって。
「私の“アレアレ昏倒事件”から始まって、“アレ事件”の次が“アレンの変”・・・。“アレ”ばっかりで後生の学生に恨まれそう。」
私の呟きに
「覚えやすくていいんじゃない?」
当人は笑っていました。
何はともあれ本人が幸せそうなら泥を被るのも悪くないな・・・。
と、リアルで泥を被った(自ら被りにいった)私は思うのです。
<了>




