人ごとじゃない
本当にギリギリでした。
主に、私の精神力がです。
まかり間違って重臣のオジサン達に主人公ばりに恋されたらどうしようかとヒヤヒヤが止まりませんでした。
多分大丈夫。
きっと大丈夫。
私が紙一重感を隠して自分に言い聞かせている横で全然気にしてない人達がドヤっています。
「魔術師長こそ気づかれなかったのですか?国の為に僕は正規の手続きを踏んで使用許可を得ています。」
息子はさり気なく、”気づかなかった”事を強調し責めています。
以前、自分が主人公の魅了の術に気づかず責められた事への意趣返しでしょうか。
ドヤ顔で父親に使用許可書を突き出しています。
”試験使用”許可申請書をです。
人生かけた本番で試験使用。
転送ポッドも試験使用。
試験使用が多すぎて、雑じゃないかこの計画と思った覚えがあります。
でも書類通っちゃったので雑なのは体制なんだと思います。
魔術師長はその書類をじっと見据え言葉を無くしていました。
こちらの親子の決まり手も書類です。
が、魔術師長は手を出し、その書類を破棄しようとし始めました。
なんとも低俗で醜い争いが続いております。
更にその横では
「お前は、騎士団員を私事に使ったな!」
と、無駄に大きい声が場内に響きました。
騎士団長です。
号令をかける勢いで息子に怒っています。
怒ってはいますが、ちょっとピントがずれています。
私事には使っていません。
王都の警護に回しました。
都で問題が起きて欲しくなかったので、どんどん巡回に回しました。
治安維持強化週間とかスローガンを掲げまして、聖女(笑)である私も出発前にどこかの部所への依願のついでに騎士団に寄り『留守中王都を守るのは貴方達です。』みたいな激励をした所、皆喜んで巡回してくれたみたいです。
回りすぎて詰め所に人がいなくなるくらい励んだ成果は現れ、王都はもの凄く静かだったと、そんな訳です。
素敵なシフト表を組んだのは宰相息子です。
私たちがポッドを通る時に騎士団員が戻ってこられないようにトラップを組んだのは魔術師長息子です。
そんな訳で私事ではないのです。
国民の安寧の為に皆業務に励みました。
宿場町の制圧に騎士団を一個小隊動かしましたが、王・王妃が行方不明になった事件を解決する為の措置ですから私事にはあたりません。
ですが、騎士団長はわかってません。
騎士団長もシフト表に押印しているのにも関わらずです。
他の二人に倣って騎士団長息子も書類を出していますが脳筋枠には書類は効果は薄そうです。
脳筋だけじゃありません、頭脳派枠の二人も納得してません。
未だやりあっています。
やっぱりこの三人は厄介でした。
他の重臣のように言いくるめることもできない。
意思が強すぎて、魅了の魔道具は効果ない。
魔道具を別としても、計画段階から難敵だとわかっていたので、王位譲渡書類が出来るまでは隔離する作戦をとって本当に良かったです。
隔離と言っても過去、学校で自動ロックが勝手にかかり対象者と閉じ込められる密室イベントを、そのまま元攻略対象者の父達に転用しただけです。
仕掛けを発動させたのは主人公です。
騎士団長息子にそんな器用なことはできません。
全員一つの部屋に誘導して纏めてドンと閉じ込める。
結構高度な駆け引きが必要となる作業ですから、無理でしょう。
ただ扉を肉弾でこじ開けようとするのを抑えドアを補強して時間稼ぎをする仕事を振りました。
肉体労働です。
ドア越しとは言え肉と肉の戦いは熱かったと思います。
お陰で、良い年したおっさん同士で閉じ込められた部屋はドキドキイベントではなく、いらだちイベントになり、汗まみれ引いては親父臭が充満したことでしょう。
ご愁傷様です。
結果的に小さな事からコツコツざまぁするみたいな事になりましたが、本意ではありません。
開発された魅了魔道具が完全で誰にでも効果があれば、謁見の間に全員集めて一度で片が付いたのにと思うと本当に面倒でした。
何故回りくどく、相手の様子を見ながら話さなければならないのか。
精神的な負担が半端なかったです。
騎士団長の息子も他の二人と違ってあの時点から罵倒されていたでしょうから精神的負担は相当なものだったでしょう。
不器用な彼が敬愛する親の罵倒に耐えながらドアを補強してから移動。宿場町の制圧の指揮、戻ってきて謁見の間に集合なんて出来るのか賭けでした。
でも、身体能力を考えたら他の二人に振ることはできませんでした。
移動や、制圧などやること多すぎて本当に大変だったと思います。
ですが、今、彼は私たちの期待に応えてここにいるのです。
寡黙な彼は宰相息子のように弁は立たないでしょう。
魔術師長息子のように親を斜に構えて見れないでしょう。
けれども行動で示しました。
今のところ効果は薄そうですが・・・。
親子の確執、それからの決別の形はそれぞれ家庭の数だけあるのでしょう。
決着はついていませんが、袂を分かつと意思表示をしているのですから、これが彼らの巣立ち、親離れの儀式みたいなもの。
これを乗り越えて彼らは本当の意味で独り立ちできるのでしょうか。
独り立ちしてもらわないと私も困ります。
私の手足となって働いてもらわないといけませんから。
そういう私も人を見守っている場合ではありません。




