語る
「お前達が私の存在を許せないのは知っている。それこそ子供の頃から身にしみている。
私を王として担ぐのも本音では認めたくないのだろう。だが、ここで、王宮で無益な争いをすれば政は滞り一番困るのは民だ。ここ数十年、戦はなく、国民の生活は安定してきた。その事実・・。」
「しかし!その災厄のせいで我が国は混乱した。」
誰かがまた口を挟みます。
ご丁寧に陛下の腕にいる主人公を指さしてます。
本当に無礼な人達です。
いくら陛下の話が長いからと言って遮るなんて・・・ちょっとありがたいですけど、無礼な事には変わりありません。
「そうだ。聖女様のお陰で持ちこたえたが、あの時は酷かった。」
「ウチの領も損害を受けた。」
その時の怒りを思い出したのか口々に不満が出てきます。
外野ほど文句を言う。
その典型でしょう。
実際に、記録読んでも重臣達が何かをしたとかの記載はありませんでした。
主語の無い対抗策の記載はありました。
概ね最前線で処理に当たっていたのは陛下達です。
そんな所まで功績を記されない不遇に同情は・・・しません。
自業自得ですからね。
強制力があったとは言え、自分で起こしたことの処理をしただけです。
多分一番被害を受けたのは私です。
本当に腹が立ってきました。
「お黙りなさい!陛下が話している途中でしょう。この国の者は礼儀を忘れてしまったのですか?」
一瞬沈黙が襲いました。
誰?この女。
って空気です。
そして10秒ほどの沈黙の後、
「せ・・聖女さま・・・?」
「声は聖女様だ。」
「お顔が??」
ボソボソと動揺の声が聞こえます。
忘れてました。
私は一人散策の為にノーメイク変装の上、地面に転がされたので顔に擦り傷、服は砂埃の平民服でした。
「顔がどうかしましたの?」
敢えて冷たく言い放ちました。
「い、いえ・・。」
「御髪が乱れておられ・・。」
途端に風見鶏達の声が乱れます。
さっきまで陛下を敵にしようと同じ方向を向き始めていたのに、くるくる回り始めました。
「貴方達は見た目で惑わされすぎです。私の顔や格好がどうでも良いことではありませんか?それよりも、今、この場で何をすべきなのか考え行動に移す者はいないのですか?」
「聖女様・・。」
私の言葉に皆、目を泳がせ、そしてハッとしたよう顔をして口を開きました。
「しかし、”アレ”を連れ出しています。」
「私たちを騙していたのですよ。今まで。」
「そうだ。」
「聖女様も騙されて無理矢理婚姻させられたと専らの噂です。」
「お労しい。」
何か陛下が騙した対象が重臣達から私に変わってきました。
確かにラブラブとかは程遠いですが、仲悪いかと言ったら・・・悪いかも知れません。
過去の事を引きずり、最近は良いように使われてモヤモヤしてはいますがお互いの目標の為に手を結んでいただけ。
ビジネスパートナーのような物です。
それなりに取り繕っていたつもりですが、余り効果は無かったようです。
「王位に就くために聖女様を利用したのでしょう?」
「そうだ。我らが聖女様をないがしろにする王は廃位されるべきだ。」
少し放置している間に風見鶏の向きが一致し始めました。
陛下が今度は断罪式を迎えています。
やだ、なんかちょっといい気味・・・。
じゃない。
陛下の破滅は私の破滅に繋がるのです。
公爵家を出て、父を切った私には帰る先はありません。
男だったら何とでもなったでしょうが、この世界では女一人で生きていくのは難しいのです。
履歴、公爵令嬢、王妃、特技なし、では採用先はありません。
主人公みたいに魔力があれば、まだ敗者復活戦枠があるのでしょうけど。
私はないのです。
悪役令嬢ツブシがきかないな。
その一言です。
「私は別に王位など望んでいない。」
陛下の声が場内に響きました。
既に腕には主人公はいません。
そっと周りを見てみると、騎士団長息子と王宮魔術師長息子が主人公を運んでいます。
どうやら現場の処理が終わってこちらに戻ってきたようです。
そのまま隠し扉の方に向かっていくので、どこかの部屋で休ませるのでしょう。
こっそり入ってきて、こっそり出て行く。
裏方仕事が板に付きすぎです。
陛下は視線の端で動きを確認しながら口を開きます。
「一度たりとも望んだことはない。」
更に続けた言葉に、言い返そうとした重臣達が口をパクパクさせます。
「別に廃位となっても良いのだ、私は。」
陛下は重臣達を全員見回して言いました。
「私の望みはただ一つ。
母が望まれたこの国の平穏だ。
その為に私に犠牲となれと言うのなら喜んでなろう。
この身一つどこへでも行こう。」
場内の重臣達の口からヒュッと言う音がします。
吸った口のまま顔が止まっています。
陛下はこんな時にもマザコン発言ですが、そこは彼らには重要ではないのでしょう。
重要なのは自分たちの利益・立場です。
どうすれば自分たちが損をしないか、自分の領と家族を守れるか、ぐるぐる必死で考えている顔をしています。




