地味であることをアピールする。
皆と初めて穏やかに他愛の無い話をします。
立場柄、苦手な人とも他愛の無い話をして場を繋ぐことは慣れています。
ですが、私が心地よく過ごせるように皆が気遣いをしてくれます。
乙女ゲーのヒロインはこんな思いをしているのだと実感すると、初めての体験に心が揺れてしまいます。
簡素ながらもさすがに宮廷の料理は素晴らしい味でした。
おいしい食事に、楽しい会話。
食後のお茶を頂きながら、主人公の事は気になるけども、こんな終わりもいいかもしれないなどと思っていたら殿下がサラッと、
「皆への苦手意識は無くなった?」
と、聞いてきました。
「えぇ、そうですわね。」
学生時代と違って仕事についての会話は共感できるし楽しいものでした。
完全にわだかまりはなくならないけれども、社会人としては諾というしかないでしょう。
「騙されてたとかいう気持ちも?」
「もう、終わったことですもの。」
そう、もう終わった事だ。いつまでも引きずられて貴重な時間を無駄にしたくない。
「無理矢理連れてこられたことも?」
それは、昨日のことだけに色々不満に思うけれども、国の危機であれば仕方がなかったのだと思うしかない。
「国の為に必要だったのだと理解してますわ。」
「危険な目に合わせられたことも?」
「でも、皆様が守って下さいましたわ。」
あの場で私は居ただけだ。
いや、スッピンを晒して主人公に衝撃を与える役だった。
そういう意味では身を切りました。
結構痛かったです。
けど、もう終わったことです。
男性方に花を持たそう。
その方がすんなり終わりそうです。
今後の事を考えて私は安全策を取ります。
だって、私は復権したとしても26歳行き遅れ令嬢です。
令嬢って案外力はないのです。
「そう、良かった。」
殿下は穏やかな顔をしています。
だから、油断してました。
あんなに痛い目見るとわかっていたのに。
殿下はサラッとした会話を続けた後に、本当に更にさり気なく、”良い天気だね”くらいのさりげ無さで
「じゃあ、誰か選べる?」
と、言ってきました。
「はっ?・・・えっ?・・・選ぶ?」
「誰と結婚する?」
「誰とも・・しま」
「それは無理。」
”せん”と続ける前にきっぱりと殿下が遮り、皆が首振り人形のように頭を縦揺れさせています。
「む・・むりっていうのが無理ですけども・・。」
「よぉく考えてごらん。君は”救国の聖女”と崇められている。」
「今日の新聞を届けさせましょう。」
宰相息子が言うと魔術師長の息子が頷きパンと手を叩いた。私の前に新聞が数部現れた。どれも、一面に私の写真。表題が目に痛い。
「昨日のパーティの時のだね。これで国民に顔が知れてしまったね。」
「酷い!」
「警備の面からも顔が知れていた方が良い。」
ボソリと騎士団長の息子が言います。
「君は、今まで名前だけ知られた存在だった。見学と称して他国から使者が来ていたかも知れないが、中には拉致を企んでいた輩もいた。今回の事でますます他国は君をほしがるだろう。知れずに拉致される訳にはいかない。それにね、さっきは言えなかったけど”アレ”が『あの地味顔!』って寝言を言っていたから、万が一を考えて君を保護したい。もう君を市井に帰す訳にはいかない。ティエルローズそれは了承してもらえるかい。」
エルは”アレ”の話を聞く度に顔を青ざめさせ、殿下の言葉に大きく頷いた。
私の意思関係無しに私の処遇が決まっていくのが耐えられない。
いや、今までも私は皆に踊らされていたのだろう。
エルですら、元締めだって知ってて私を騙していたのだ。
「保護と結婚が同義になる意味がわかりませんわ。」
「僕たちは全員独身なんだ。本来結婚しているだろう年齢だ。」
「どうぞ、お好きに結婚なされば良いですわ。」
「つれないな。皆、君を憎からず思っていて、公私ともに君を支えたいと思っているんだ。」
「私は地味顔ですわよ。結婚する気になれますの?化粧を取ったらわからないくらいですもの。」
殿下は私の顔を見てわからなかったくらいだ。皆もわからないに違いない。




