独裁、情報統制
「えぇぇっぇっ!!」
「卒業してから一年くらい経っていたかな。だけど、僕たちは魅了を解かれて誰も”アレ”と会話以外の接触をしていない。エルは学校時代に逃げて接触を断っていたから対象じゃない。一つ一つ消していったら・・・なんて事しなくても監視カメラが写していたよ。現場を。」
「誰だったの?」
「誰だと思う?」
殿下は軽い口調で言います。
まるで”年いくつだと思う?当ててみて?”みたいな感じです。
「誰?わからないわ。」
「だろうね。だって父だったから。」
「あ~、王様。それはわからないわ・・・・。ぇえええっ。」
「ホラ、前世の記憶あるから、本音を言うと僕たちじゃ子供過ぎて物足りなかったらしいよ。エルは一番最初に様子見で仕掛けていっただけって言っていたかな。ノートに書いてあったのかな。もう覚えてないけど。」
そんな試食品みたいな扱いをされるなんて・・・。
それは、ぐいぐい来る女の子が嫌いになるでしょう。
主人公は手段を選ばないタイプでしたから。
私はエルに同情しました。
「父もその場の空気に飲まれやすい人だから。大方”アレ”の力を手に入れたら先王の影響下から抜けられるとでも思ったんじゃないかな。王妃の火遊びへの意趣返しもあったんだろうね。」
ご自分の父親だと言うのにずいぶんと冷めた評価です。
「王妃様とは相愛でいらしたのでしょう?」
「熱しやすく冷めやすいと言う意味では相互理解者だろうね。お互いに権力を握ろうとしてしたと言う点ではやはり相愛なのかな。」
乾いた笑いが物悲しいです。
「本筋に戻ろう。結局”アレ”は子を宿していなかった。だけど、その騒ぎは王宮の知れるところとなった。王妃にも知れた。権力争いに愛憎劇が絡み王宮は荒れたよ。王と王妃は自分達こそ被害者だと訴えた。”アレ”にそそのかされたんだとね。勝手だよね。
時流が変わったことに”アレ”は気づかなかった。自分が主人公と信じているのだから。追われる側になるなんて信じられなかったんだろう。例え物語の中で主人公であったとしても、話は終わっているんだ。万能では無くなったことに気づくべきだった。」
「追われたの?でも・・。」
「そうだよ。追い詰められた者は確固たる力を求める。いや、歴史は繰り返す・・かな。王と王妃の庇護を無くした”アレ”は自分の一番の力を手にしようとした。本来は玉座の下に隠されていた魔力の塊を自分の管理下に置こうとして・・・失敗した。取り込まれてしまったんだ。」
殿下は玉座を見上げました。
「玉座はその塊を抑えておく魔道具だったんだけど、その時壊れてしまってね。魔力の塊は宙に浮いたまま動かなくなった。”アレ”も意思の疎通は取れない物に・・・いや、違うな、中から気まぐれに国を操作しようとしたんだ。ここから各重要施設に魔力が供給されていたんだけど、それは”アレ”が取り込まれてから遮断された。その代わり”アレ”が気まぐれに操作できるようにしてしまったんだ。自分の気に入らないこと等を関知するとさっきみたいに暴走する。”アレ”を何とか取り出そうとしたよ。けれど、普段は一部の人にしか”アレ”は、見えなかった。”アレ”の物語に出ている人だけが見えるんだ。”アレ”の気に障る事が起きるとね、攻撃が始まるだろう。そうすると物語外の人も見えるようになる。攻撃を防ぎながら、”アレ”を外に出す方法が見つからなくてずっと手をこまねいていた。魔力が供給されなくなって国も混乱した。国民の生活に支障が出ないようにするだけで精一杯の日々がずっと続いたんだ。」
私は頷いた。




