気持ちが追いつかない
「王妃は我々の調査が迫ってきているのに気づいた。断罪される前にクーデターを起こそうとした。そして、”アレ”を切り札として使おうとしたんだ。だけど、上手くいかなかった。”アレ”は僕たちと仲良くなって楽しく暮らしたい。それだけだった。だけど実際はそんな事はできない。誰かを選ばなければいけない。僕は地盤が弱いしマザコンだ。」
「ぉぉっ。」
自分で自分の事をマザコンって言う王子初めて見た。
公爵令嬢の常識が飛び完全に前世のノリの声が出てしまいました。
殿下は面白そうな物を見る目で私の顔を覗き込んできた。
「僕の言葉じゃ無いよ。”アレ”の表現によるとだよ。」
殿下はまた笑った。
「宰相の息子は理詰めで面白くない。騎士団長の息子も筋肉バカ。王宮魔術師の息子は研究バカ。」
殿下は指折り言う。
主人公端的で酷いな・・・。
でも、その表現法、嫌いじゃ無い。
むしろ好きな部類です、
初めて主人公に好感を持ってしまいました。
これが愛され主人公の力か・・・。主人公恐ろしい子!
「君の兄上はルートが開かなかった。ティエルローズには逃げられた。」
「あっ・・あのティエルローズって?」
新しい名前の登場にびっくりです。
「自称、君の同僚で友人のエルの事だよ。」
「えぇぇぇっ。まさかエルって攻略対象者だったの?しかもエルローズじゃなくてティエルローズって名前だったなんて。」
「そう言えば君同級生の名前全然覚えてなかったね。」
同級生の名前どころか攻略対象者たる殿下の側近達の名前もうろ覚えです。長いんですもの・・・とは言えず、ただ頷いて見せました。
「僕はそのお陰で色々わかったから助かったよ。」
殿下はにっこり笑います。
「エルを探して密偵を放ったら、君にたどり着いた。ノートのお陰だ。」
主人公め、余計な事を。
上がった好感度が急降下です。
私の気持ちが顔に出たのでしょう。
殿下は軽く肩をすくめて見せた。
そして、
「ノートを見せてあげたいけど、重要書類扱いだからダメだな。・・・そうだ、僕と結婚したら王妃特権で見れるよ。」
クスクス笑いながらぶっ込んできます。
「いえ、それはお断りします。あっ指輪返します。」
私は指輪を抜こうとしました。
「言わなかった?今はポケットが無いって。」
「あぁ、そうでしたね。って別に手で持っていけばいいじゃありませんか。もう誰もいないのですもの。」
「うん。でもね。ここに居るためには王族の証であるその指輪をしてないと弾かれてしまうんだ。魔術で封鎖されているからね。今、君は婚約者で母の形見の特別な指輪をしてるからここに居られるんだよ。」
「そうですか。特殊な指輪なんですね。」
「そう。それが僕を守ってくれた。」
殿下は私の指に嵌まっている指輪の石を撫でた。
「前に君が言っていた通りこれを”アレ”に渡したことがある。どうしても渡さなければいけないって言う気持ちになってね。だけど、この指輪は返ってくるんだ。」
「返ってくる?」
「相応しくない相手だと思ったら戻ってくる魔術がかけられているんだよ。見せしめ試写会した次の日には戻ってきた。後、学校でも口説こうとする度に指輪が光って警告してきた。お陰で僕の映像は皆のよりは恥ずかしくなかった。母に感謝したね。・・・あぁ、こういうところがマザコンって言われるのかな。」
確かに殿下の映像を編集しようとした時は、密着しないなぁ。あんまり押さない人だなぁ。ゲームではもう少し積極的だったのにと思っていた。
それがマザコン指輪のお陰だったとは。
知らない事実が色々出てきて驚くことばかりです。
「まだ話続くけど大丈夫?」
「絶対最後まで聞きます。」
「そう。じゃあ、驚くと思うけど覚悟してね。」
殿下の笑顔が怖いです。
「そうこうしている内に”アレ”が妊娠してるって言い出したんだ。」




