酔っぱらい
殿下は疲れをにじませたまま
「ありがとう。」
と、言って会場までエスコートしてくれます。
殿下こそ休まれた方が宜しいのでは?と、言いたくなる程です。
ですが、さすがに殿下です。
会場に着くと疲れを微塵も見せない穏やかな笑みで各国大使と談笑し、廷臣達の話を聞いていきます。
その間、私への挨拶をしようとする人も、それとなくあしらってくれます。
先ほどの出来事や、殿下との結婚について込み入ったことを聞いてくる人、”聖女”と言って突然崇めてこようとする人には”彼女は疲れてますから”と、言って話を打ち切ってくれたりします。
挨拶に来る人の中にはどことなく覚えがある人もいて、考えて見ると私が歓楽街で働いていた時に視察に来た人達もいました。
その時の事にふれて一見じゃ無い親密さをアピールしようとする人達は更にばっさり話を切ってしまいます。
顔見知りなのか、その人達は怒るでも無く意味ありげな笑みを浮かべて「それでは又。」
と、言って引き下がってくれます。
何人も繰り返すと挨拶する人が途切れるようになりました。
周りを見てみても少し落ち着いているように見えます。
パーティは、あのような出来事の後の興奮もあったのか私が参加した時はまだ異様な盛り上がりを見せていましたが、夜も更けた今となっては興奮している人は減り、参加人数自体が少なくなっていました。
各国大使達はそれぞれの国に報告もあるでしょうし、廷臣達は次期王として正式に任命された殿下へどう取り入っていくかを考えていかなくてはならないでしょう。各人が生き残りをかけて行動を起こさなくてはなりません。
誰もじっとパーティを楽しんでいる場合ではないのです。
「もう、酔っ払いしか残ってないみたいだね。退場しようか。」
殿下がそっと私に囁きました。
そういう殿下の呼気も少し酒精が混じります。
お祝いのお酒を勧められ、殿下は立場上断れなかったからでしょう。
さり気なく私に勧められたものまで請け負ってくれたのでかなりの酒量になったのではないでしょうか。
パーティの主役が途中退場等良いのかと言う気持ちもありましたが、いい加減私も疲れていましたし、殿下の疲労も隠せない程になってます。そろそろ退場した方がお互いの為だと思いました。頷くと殿下はそっと私の手を引いて会場の隅へ連れて行き柱の横の壁を押しました。
隠し通路です。
私なんかに隠し通路を教えて良いのかと思いますが、殿下がこっそり退場するには此所を通った方が角が立たないのは理解できます。
私は殿下に逆らうことなく後をついていきました。
いくつかの角を曲がり、薄暗い通路を進んで出た先は先ほどの謁見の間でした。
明かりもなく人っ子一人いません。
殿下がカーテンを引くと月明かりが差し込みました。
壁など一部壊れた瓦礫が片隅に寄せてあります。
殿下は玉座の前の壇に直に腰掛けました。
私に横に座るように言います。
断ろうかと思いましたが
「嫌なら、あそこに座っても良いよ。」
と、玉座を指さされ、慌てて首を左右に振り殿下の横に腰掛けました。
「座っても良いのに。」
殿下は楽しそうに笑いました。
かなりお酒が回っているようです。
「そんな事できませんわ。」
「そうだね。君ならそういうと思った。」
「かなり酔っていらっしゃるようですわね。もう部屋にお戻りになったら。」
「うん、戻る前に少し酔いを覚まさないとね。」
言うと殿下は黙り込みました。




