事後処理
わぁぁぁっ。
と、大歓声が湧き上がりました。
婚姻の宣言も、退位の宣言の時にも歓声が上がりましたがこの比ではありません。
中には絶叫し、涙する人もいるくらいでした。
主人公は私がしているのとは違って重罪人がかけられる厳つい手足枷をつけられ、直に触れないように呪符の刻まれた布にくるまれて連れ去られていきました。
王は壇上に戻ると再び王笏を振り上げました。
「長年、我が国・近隣諸国を悩ませていた事象が今解決したことを宣言する。」
再び歓喜の声が会場を満たしました。
程なくして救護部隊が現れました。
気分の悪くなった者は数人出ましたが、幸い怪我人はいませんでした。
謁見の間はシールドがすぐ張られたとは言え、一部破損箇所もありました。
その場に居続ける訳にはいかず大広間へと案内されました。
皆口々に、今起きた事を話し興奮が収まらない様子です。
落ち着かせる為にお茶が振る舞われる話になっていましたが、興奮冷めやらぬ為、急遽、慰労パーティが催される事になりました。
急遽のはずが何故か既に会場の準備はされており、休みたい方には休憩室も設けられていました。
不思議に思いましたが、王宮の召使いとは迅速に動けるのかもしれません。
どちらにしろ私は関係ありませんから。
ここまでは相手のペースに乗せられ思いっきり巻き込まれ感がありますが、とにかく疲れました。付き合わされたので休んでもバチはあたらないでしょう。
私が休みたいと望めば、先ほどまでのごり押しは無くあっさりと手足枷を外され浴室付きの個室が与えられました。
先ほどの王太子妃の部屋では無く、こぢんまりとした部屋でした。
メイドも誰もいません。
私はホッとしてゆっくりと湯を浴び、用意されていたシンプルな紺色のドレスを身につけました。久しぶりにドレスを着るのは気が引けましたが、身につけていた男物の服は埃を被っていて湯上がり後に着る気分にはなれませんでした。
ドレスは一人で着れる構造であったこと、何より私の好きな色で、素材もさわり心地も良く着たい誘惑に負けてしまいました。
着てみると思った以上に自分の体型に合っていて、このままソファーに横になって休んでしまおうかと思うくらい寛げるものでした。
横になったら寝てしまう。
寝てしまったら泊まりになってしまう。
まだ事の顛末も聞いていないのにどうしよう。
何より指輪を嵌めたままです。
いつ返そうかしら。
パーティが終わるのは深夜でしょう。もしかしたら夜通しするかもしれません。
仮面は取ってしまったし、誰かに言付けようにもスッピンでは厳しい物があります。
私は化粧台に座り、薄化粧をほどこしました。
化粧も本当に久しぶりです。
ですが、昔一生懸命努力したせいでしょうか、意識しなくても化粧はそこそこのレベルまでできました。
準備はできましたが、自ら廊下に出て誰かを探すのも違う気がします。
悩みつつもソファーに座り、ぼんやりしていると部屋の扉がノックされました。
「入っても良いだろうか?」
迷って返答が遅れると殿下の声がしました。
「はい。どうぞ。」
メイドもいないので私がドアを開けます。
殿下も一人で立っていました。
 




