筋肉・肉・肉・頭・肉
「女性の仮面を奪い取ったことは失礼だったと思っている。そうだね、いっそ仮面をつけたまま謁見すると良いよ。それなら化粧を気にすることはない。これで問題は解決したね。さぁ、行こう。」
殿下はそう言うなり立ち上がると私の手を引っ張りました。
私は殿下の手を払おうと身をよじりました。
「自分の足で歩かないのなら、僕が抱き上げて連れて行くよ。」
そう言われて私は止まりました。
殿下は的確に嫌なことを言ってきます。
王命で参上するのに、殿下に抱き上げられて登場なんてありえません。
想像するだけで冷や汗がでてきます。
「理解が早くて助かるよ。」
従順になった私に殿下は満足そうに笑いました。
殿下が目配せをするとメイドがどこからともなく仮面を持ってきました。
私が着けていたのに似ています。
ですが、こちらの方が上等なのは素材からわかりました。
私は黙ってそれを着けました。
もうどうしようもありません。
「さあ、行こうか。」
殿下に手を引かれても私は抵抗する気も失せていました。
部屋を出ると騎士が待っていました。
その顔を見てげんなりします。
懐かしの攻略対象者、肉体派枠です。
10年前より筋肉をお育てになっています。
騎士団の服を着ていますが服越しにもよくわかりました。
確か彼は騎士団長の息子とかそんなんでした。
彼は殿下に連れられて現れた私を見て片膝をつき頭を垂れました。
「お久しぶりでございます。私の事を覚えていらっしゃいますか、私は・・」
「私に名乗りは不要でございます。」
私は彼の言葉を遮りました。
常識で考えればかなり無礼な行動です。
「私はただ殿下に連れてこられただけの人間です。」
怒り出すかと思いました。
きっと10年前の彼なら怒ったでしょう。
けれども、彼は
「無かったことにしてくださるのですか?さすがは慈愛の聖女。」
訳のわからない単語を言ってきます。
無かったことにする訳もないし、言ってる意味もわからない。
ただ単に名前を聞けば面倒な事になりそうだから断っただけなのに、良いように理解して目を潤ませている。
そう言えば、この人はポジティブ思考の上に思い込みの激しい人だった。
やはり脳筋です。
攻略対象の中にあって、難易度低めの、考えていることダダ漏れの、女なんていらない、筋肉があれば良いという枠なだけあります。
本当に萎えるわ~。
私が半眼になってしまうのを止められずにいると、殿下が私の手をギュッと握り直しました。
「時間が無い。ディアンヌの言う通りだ。いずれ機会を作ろう。」
”確か騎士団長の息子”は「はっ。」と、返答をすると立ち上がり私たちを先導し始めました。




