行く・行かない。
本当に母の「あなたおバカちゃんだからお話ししたくないわ。」の台詞が頭の中で蘇ります。
あぁ、私はバカだなぁ。
と、自己嫌悪する中、まだまだ続く詰問ショー。
長いな!今までお話ししたことなかったから知らなかったけど、殿下は話が長いタイプだ。着替えが誤魔化されて良いが、これはどうなるのかしら?
そんな私の杞憂は突然のノックで打ち消されました。
外から
「お支度は調いましたでしょうか?謁見の間で皆様お待ちです。」
と、言う声が聞こえたのです。
私は掌を上にしてお手上げポーズを取ってしまいました。
本当あり得ません。
まさかの時間切れです。
「私、参りません。このような格好では陛下にお目にかかれませんわ。」
はっきり言いました。
もうね、格好も格好だし、すっぴんなんですよ。
すっぴんの私って本当にあっさりしてるんですよ。
どっちかっていうと現世の私に近い。
顔の平たい一族ですよ。
美男美女の父母からすると私が異分子じゃないかってくらいです。
「化粧もしておりませんし、見苦しいだけですわ。それに、」
殿下は私の言葉を遮りました。
「そのままで良い!何も装わなくて良い。今証明されたじゃないか。僕たちは何も取り繕わない方が良い。」
「何それ。」
あっ、心の声が出てしまいました。
「それは余りにもこじつけというものでしょう。」
心の声がとまりません。
「子供の頃の行き違いなど今となっては終わったこと。陛下に謁見賜るのに装うのは最低限の礼儀です。このままでは私も、私をお連れになる殿下も礼儀知らずと思われてしまいますわ。」
「終わったこと・・か。君はもう完全に吹っ切れているんだね。」
「えぇ。全ては過去のことでございます。私は今を生きているのですわ。」
きっぱりと言い切りました。
なんだか気持ちがすっきりとしました。
殿下は過去を引きずっているのかもしれません。
私は現在を生きています。
過去も現在も私と殿下の心は違う場所にあるのです。
また、室外からノックがされました。
「いかがされましたか?お支度がまだのようでしたらば、陛下にそのようにお伝えして参ります。」
再び聞く声に聞き覚えがあるような気がしました。
「いや、不要だ。今行く。」
「だから!行かないって申し上げましたでしょう!?」
もう半ギレですよ。
私、この10年で結構切れやすくなりました。
「いや、行くんだ。王命だよ。君は断れない。そうだろう?」
ぐうの音もでません。
16歳まで貴族令嬢として生きてきた私には王命に逆らえば、どのような目に遭うのか十分すぎる程わかっています。
「重ねて申し上げますがこのような格好では無礼にあたります。それにこの顔では私とはわからないでしょう?殿下もお悩みのご様子でしたし。」
さり気なく嫌みを返しました。
 




