残念感留まらず。
先ほどの侍従の後ろに居並ぶのは王宮の制服を着た召使い達です。
私たちを見て、表情と姿勢はそのままにすぐさま視線を逸らしました。
まさかと思い、その後ろに目をやると王宮の通用門が見えました。
実に10数年ぶりの王宮です。
先ほど私が立ち上がった時に丁度到着したのでしょう。
道理であんなに簡単に足下が揺らいだ訳です。
私は殿下に抱き留められた事に慌てて気づきませんでしたが、何度か外から扉を開けて良いかの合図が送られていたのかもしれません。
殿下が「構わない。」と、私に仰ったことが扉を開ける許可となってしまったのでしょう。お陰で私がのし掛かる形で抱擁している姿が召使い達に晒されてしまったのです。
「離して下さいませ。」
「いや、このままで良い。」
殿下はあろうことか私を抱き上げ、そのまま馬車を降りてしまいました。
お姫様抱っこでの入場。
全く胸はときめきません。
きつい。
これは、本当にきつい。
好きでも無い人にされるときつい。
「自分で歩けます。」
「転んでしまうかもしれない。」
間髪言わず断られてしまいます。
「指輪を探さないと。」
「構わないと言った。」
切り口を変えてみましたがまたすぐさま断られてしまいます。
殿下は揺らぐことない足取りで王宮内を進みます。
私がいつも面会していた部屋を通り過ぎ、更に奥に入っていきます。
おそらく私室などがある場所でしょう。
今まで一度も足を踏み入れたことはありませんが、何となく雰囲気でわかりました。
そして嫌な予感に心が震えます。
案の定着いた部屋は見覚えのある物でした。
「今日から、ここが君の部屋だよ。」
殿下が私をソファーに座らせ優しげな声で言います。
すかさずメイドが現れお茶とお茶菓子を用意してくれました。
穏やかな表情の殿下に対して私の気持ちはだだ下がりです。
まず、目の前にあるお菓子、クッキーとチョコは思い出の月替わりお菓子です。数年間見続けたこれは私のトラウマを大いに刺激してくれます。
更に問題なのはこの部屋。
ここは王太子妃の部屋でしょう。
何故わかるのか。
あの乙女ゲーは全クリアした後に設定ラフが見れるようになるのですが、そこにあった王太子妃の部屋その物だったのです。
指輪に続き、またもやお下がりを渡してこようとするなんて・・・部屋の位置は変えられないにしろ内装を変えるくらいできるだろう。
やはり、この男相当な地雷踏みである。
私の中の殿下の評価はまた下がりました。
もしかして殿下は格好いいのにダメな子キャラだったのでしょうか。
マザコン、ダメ男。
そんな次期王は嫌だな。この国終わったな。
以前も思ったことがダメ押しされたような気持ちにもなろうものです。
残念感満載の私に対して殿下は満足気です。
更にそれが私の残念感に拍車をかけます。
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読んでくださって誠にありがとうございます
誤字脱字報告も本当に助かります。
僕も感想も励みになってますありがとうございます。とりあえず今週は1日3回更新ペースで行くと思います。




