構うも構わないも、かまいます
「いえ、いらっしゃいました。王立学校の三年間仲睦まじくしていらした女性が。平民でありながらトップクラスの成績を収め、愛らしい仕草・物怖じしない性格・そしてかわいらしい容貌。全男子生徒が彼女に夢中でしたわ。殿下はその筆頭でしたわね。私思い出してきましたわ。ご友人方と一緒に彼女を囲んで楽しそうに過ごしていらっしゃいましたわ。彼女を取り合って拗ねたりもなさってましたわね。殿下とご結婚なさったのだと思っていましたわ。彼女はどうなったのですか?もしや、ご友人のどなたかと結婚されて、その穴埋めに私が使われるというのはご容赦頂きたいですわね。もう10年!10年経っていますもの。そう10年前、私の事をあの淫猥な場所で暮らすのがお似合いだと他ならない殿下達がお認め下さったのですもの。10年間の暮らしてみて今まで生きてきて一番幸せでしたわ。あそこでは誰も私のことを理由なく誹ったりしないですもの。訳のわからないしきたりとか、しがらみとかそんな物は全くありませんでしたわ。その日の酒代が無いとか、好みの食べ物がないとかくだらない理由で怒ったり笑ったり、それでも話せばわかる人が沢山いましたわ。私はあそこでは普通に会話ができました。殿下達の仰ったとおり、私はあそこで生活するのが合っているようですわ。ですから!そっとしておいてくださいませ。王宮に上がり、王に謁見賜るなどとんでも無いことでございます。」
話しながら興奮して言葉が止まらなくなってしまいました。
どこぞのホームドラマばりの長台詞です。
言い切ったら息が切れてしまいました。
本当はもっともっと言いたいことがありました。
だけども、感情が高ぶってどうしようもありませんでした。
「これも私には不要にございます!」
私はその勢いのまま立ち上がり、殿下に指輪を突きつけようとして、そしてバランスを崩しました。
それはそうです。
両手足に枷がついているのですから。
全く拘束感が無くてうっかり忘れていましたが、私は手足枷をつけさせられてました。
お高い貴人用のです。
貴人に配慮して、つけても見えない。
大人しくしていたら締め付けがない。
興奮して激しく動き出すと拘束する仕様の貴人用拘束具は素晴らしい技術力という噂は聞いたことがありました。
歓楽街の魔道具開発部員が興奮して話していたから覚えています。
実感しました。
本当に素晴らしい。
だって、座っているだけなら拘束されている感じが全くしませんでした。
うっかり忘れてしまってこの体たらくです。
お陰で殿下に向かって倒れ込み、殿下を下敷きにしそうになっています。
だけど、殿下は慌てず騒がす私を支えてくれました。
だけども、何故かぎゅっと私を抱きしめています。
初めての抱擁。
全然感慨はありません。
むしろ、”支えるなら普通にしてくれ、離してくれ”です。
私は離れようともがいて指輪を落としてしまいました。
「あっ。指輪が・・。」
さすがに青ざめました。
リングケース無しですが自称前王妃の形見です。
違ったとしても高価な物には変わりありません。
「構わない。」
殿下がそう言うと同時に扉が開きました。




