レベル:トラウマ
現王妃様は、前王妃様への対抗心からか、前王妃様の庭園の隣に、より立派な庭園を造らせていた。
自分の力を見せつけるかのように比較できる場所にテーブルをセットしお茶会を開いていた。そして良くお茶会に招かれてたのが私だ。
あの頃は意気揚々と出かけていたがよくよく考えてみれば、あれは30歳近い王妃が10歳そこそこの公爵家令嬢をマウントしようとしていたのだ。
ゾッとする。
その姑根性に。
しかも、その現王妃が大好きなのが現王だ。
ますますゾッとする。
悪寒が止まらない。
そんな人達に今から会いに行くですって?
恐ろしい。
勘弁してほしい。
私は震えました。
その震えをどう受け取ったのか殿下は
「君には一度もこういうものを贈ったことはなかったな。これからは色々贈らせて欲しい。」
等と言っています。
いや、全然感動してないし。
恐怖に心震えているだけだし。
「不要にございます。」
最初が肝心です。
きっぱり私は断りました。
「遠慮はいらない。」
「遠慮ではございません。失礼ながらこの指輪も私には分不相応でございます。」
私は指輪を外し驚く殿下に差し出しました。
「この指輪は先に差し上げた方がいらっしゃったでしょう。その方はどうされたのですか?」
「そんな人はっ。」
私は殿下の言葉を遮った。
もう無礼などと遠慮もできない。
「いないとは仰らないで下さいませ。大切なお母様の形見の指輪にはリングケースがあったはず。その方にはケースと共に差し上げたのでしょう?」
殿下と話していると、どんどんゲームのスチルが思い出されていく。
あの庭で殿下がいわゆる箱パカをして主人公に指輪を差し出すスチルがあったのだ。
箱パカ主人公に対し、むき出し私。
格差を感じます。
「なぜ・・。」
殿下は絶句したように言葉を飲む。
”何故それを”とでも言いたいのだろうか?
「無礼を承知の上でお尋ねします。その方はどうされたのですか?」
「・・・そんな人はいない。」
父と同じ事を言う。
何も無かったことにするかのような、その言動。
しかし、私はそんな訳にいかない。
10歳の私が泣いている。
殿下が私を見てくれないと。
11歳の私が泣いている。
殿下が話しをしてくれないと
12歳の私が、13歳の私がそれぞれ泣いている。
そして、16歳の私は汚泥まみれで泣いている。
あれは自分で被ったのもあるけども、とにかく6年間の私が泣いているのだ。
殿下と向き合っていると、折角忘れていたのにどんどん思い出していくのだ。
あの時の気持ちが。
頑張っても頑張ってもダメだったあの空しさ、まさにトラウマレベル。




