チキンハート
そりゃあ、公爵令嬢時はきれいに化粧してました。
アイラインくっきりの、ビューラーで睫をかっちりあげ、マスカラもばっちりでした。
くっきり、かっちり、ばっちりの私が、ぼんやりになっているのですから。
しかし、これを逆手に取るのもありかもしれません。
「侍従様『お人違いかと存じます。お引き取り下さい。』と、お伝え下さい。」
私は、人違い作戦を決行しました。
侍従は、両手を組んで目を閉じてしまっています。
私からのアイコンタクトを受け取らない作戦のようです。
賄賂を受け取っておきながら、なんということでしょう。
侍従をにらみ付けるように見る私に対して殿下は父の方を見ています。
あちらはアイコンタクトが出来るようです。
本当に、なんということでしょう。
その上、
「公爵、彼女はディアンヌ嬢で間違いありませんね。」
なんて面通しをしてきました。
「えぇ、私の愛娘です。」
しれっとそんな心にも思ってない事を言ってきます。
「やはり、こんな変装までして僕から離れようとするとは・・・。」
ショックを受けた顔をされて、私の方がショックでした。
変装じゃないし!元に戻っただけだし!
「侍従様『変装ではございません。生まれた時からこの顔です。』と、お伝え下さい。」
侍従はもう目を閉じたまま顔をプルプル左右に振っています。
どうやら、賄賂効果は切れてしまったようです。
費用対効果が低すぎたな。
なんて思っていたら
「もうそんな茶番はやめろ!!」
と、殿下に怒鳴られてしまいました。
更にカッチーンときてしまいました。
もう、私は虐げられて大人しく俯いていた公爵令嬢じゃありません。
この10年の間、平民として歓楽街で生きてきたのです。
陰に隠れていたとはいえ、お姉さん達に怒られ、酔っ払いに怒鳴られたことだってあります。最初は怖かったですが、今となっては慣れましたし、平気になりました。
高圧的にこられると反射的に対抗したくなるようになるまでに・・・。
そう、敢えて相手の嫌がる事を言いたくなる性格になってしまったのです。
私の口は
「ごめんね。でもツンツンするの良くないゾッ。」
と、いう言葉を勝手に吐き出しました。
懐かしの主人公ちゃんの台詞です。
26歳、ぼんやり顔の女が言うにはきつい台詞ですが、頭に血が上っていたので勝手に口が動いてしまったのです。
そう、勝手にです。
でも少しだけ残っていたチキン心のせいか視線は完全に横に向けたまま小声でです。




