踊る私。
「それは、私の手によるものではありません。」
やったのは庭師さん達だ。とっても乗り気だった。
早朝、昼休憩、時間外問わず、刑事かと思うほどの張り込みようだった。
情報の連携も素晴らしかった。
あの時はそんなに同情してくれて嬉しい、と思っていたけども、ただ単に鬱憤が溜まっていただけかもしれない。
「誰の手に寄るかは問題じゃ無い。最終的に責任を取るのは指示した人間だ。その映像を使うと決めたのもお前だろう。」
「それは返す言葉がありません。・・・けど。」
全部映像を送った訳じゃ無い。動画のどこを切り取って報告書に添付するかを選ぶ際に私情が入りまくったのも事実です。
「もう、今更じゃないですか?」
「そう思うなら自分で言いなさい。あぁ、もういらっしゃったようだよ。」
ザワザワと騒がしい気配が外からします。
窓に駆け寄り外を見ると、立派な馬車が、停まっています。
エルが慌てて駆け寄り、馬車から降りてきた人と押し問答をしているのが見えました。
あれは、あの姿は。
「・・・・殿下だ。」
10年経って、26歳となった殿下は少年の甘さがそぎ落とされた少し陰のある男性になっていました。
それでもあの頃の面影はありました。
乙女ゲームの攻略対象者だったのが頷ける並外れた美しさは健在でした。
見惚れてしまって、思わず口から出た言葉に、ハッとしました。
すぐ逃げようと隠し扉に向かいました。
こういう高級娼館ではいざという時に逃げられる仕掛けがしてあるのです。
ですが、それは叶いませんでした。
父に手を捕まれてしまったからです。
そして、父は私の手を引っ張って何と入り口まで、そう殿下の前に引きずり出したのです。
「殿下、念願の再会に父親が同席する無礼をお許し下さい。娘は10年の間にすっかり礼儀を忘れてしまったようです。」
「構わない。面会の場を設けてもらって公爵には感謝している。仮面を外してくれないかディアンヌ・・・。いや、ゆっくり話をしたいから中に入れてもらえないだろうか。」
「申し訳ございませんが、部屋は空いてません。」
エルが割り込むように答えました。
不敬になるのかもしれませんが、エルも私と同じくこの街を統べる立場です。
「先ほど私が面会した部屋が空いてるだろう。ディアンヌ案内しなさい。いや、私が案内しましょう。どうぞこちらへ。」
父が有無を言わせず私の腕を再び引っ張りました。
「エル!同席して!」
諦めつつもせめてもの抵抗に私はエルを呼びました。
「二人だけで話したい。」
と、希望する殿下に対し、父は
「とにかく部屋に行きましょう。それから退室させれば宜しいのでは?」
等と返しています。
もう全て父の掌で踊らされています。
先ほどの話しの途中で父が帰ろうとしたのも私を油断させる為だったのでしょう。
父は帰ろうとすれば私の問いかけも無視する人でしたから。
私の話に付き合う振りをして時間を稼いでいたのでしょう。




