詰め甘さん。
「でも、何故・・今更。」
「それは、君が上手に隠れていたからさ。他にも小賢しい動きがあってね。・・・お前に乗せられて街道や我が領を整備したのを後悔したくらいだよ。」
「それは・・・どうも。」
「まぁ、整備したお陰で国も、我が領も恩恵を得ているから文句ばかり言えないがな。」
父が怒っています。
元元締めの情報操作の効果にビビってしまいます。
「やっと、出てきたと思ったらそんな格好をして嘆かわしいね。次期王妃が・・・。まぁ良い。後で王宮から迎えが来る。」
何だか不穏な単語が聞こえましたがまるっと無視することにしました。
とにかく拒否。
それに尽きます。
「いやです。」
「嫌でも何でも決定事項だ。身を清めて待っていたまえ。」
父は立ち上がってしまった。
そうだ、こういう人だった。
昔から自分の用件だけ言って居なくなる人だった。
「待って下さい。主人公・・・じゃない。名前も覚えてないけれどあの子はどうなりました?」
「しゅじんこう?誰の事を言っているんだ?」
父は知らんぷりを決め込むみたいですが、そういう訳にはいきません。
私だって知りたくないのですが、状況が変わってきたのですから。
「殿下とその取り巻きが夢中になってた子です。」
私の言葉に”ふふん。”
と、父が鼻で笑う。
私は少し嫌な気持ちになった。
「いいか?学生時代の気の迷いなんてたいしたことではない。そもそも何も無かったんだ。君はこの10年、市井に下り自分の身を呈してこの国一番の歓楽街を整備し繁栄させ、結果国を潤した。その為に婚期が遅れただけだ。」
「・・・えぇぇぇぇ~~~~~~。」
公爵令嬢らしからぬ声が出てしまいました。
仕方がありません。もう10年社交界から遠ざかっているのです。
「何だね。その返答は。もう平民ではないのだ。ちゃんとわきまえなさい。」
すぐさま父に訂正をされてしまいました。
「余計な時間を使ってしまったな。もう殿下達がいらっしゃるだろう。いっそのこと、その格好で出迎えると良い。献身的に働いていたという演出になるだろう。」
「嫌です。そんなの困ります。」
「私たちは個人の感情で動けない。今更そんな事を言うべきでは無い。だから詰めが甘いのだよ。10年前学園を後にする時、報告書をご友人の家に送ったね?その時は気分が良かったかもしれない。だが、長期的に見れば悪手だったな。あれで、彼らは我が家に貸し一つだ。更に同罪で殿下から手を引けなくなった。そして報告書の原本を持つお前を探し続けることになった。」
「あれで、全部です。あんなの持っていたくないですわ!」
「人間という物は・・特に貴族にそんな言い訳は効かない。自分が安心できる答えを手に入れるまで追求する。そうでなければ生き残れない。まぁ、それだけお前の報告書が秀逸だったんだろうな。確かに素晴らしい映像だったよ。アングルとか悪意を感じる程に・・・。当人は羞恥でさぞ打ちのめされたことだろう。」
父は何を思いだしたのかクククッと笑った。
私はゾッとした。




