調子に乗ったツケ
起きたと言うと正しくないでしょう。
正しくはずっと起きていたのだと思います。
元元締めが私の耳に入らないように隠してくれていたのでしょう。
その証拠に私とエルが実務について、すぐに知りました。
と、いうか血相変えてエルが教えてくれました。
王太子殿下とその取り巻きが私を探していると。
よくよく考えればそうなる可能性もあったのにすっかり忘れてしまってました。
私は最後に彼らの各家庭に、素敵なお手紙を送りつけてしまったのですから。
彼らにしてみれば文句の一つでも言いたいのかもしれません。
私と彼らの被害率を考えると一回の反撃で文句を言うなんて器が小さいとしか言いようがありませんけども、今まで傷つけられた事の無い人たちというのは打たれ弱いのかもしれませんね。
そう言えばあの主人公と言う名の社交家さんと誰がくっついたのでしょうか。
王太子殿下が結婚したという話は聞いたことがないので取り巻きの誰かだとは思います。
さぞかし、押し付け合いという泥仕合が各名家で起きたと想像できますが、これっぽっちも興味がもてません。
これが吹っ切れているということなのでしょう。
彼らが不幸でも幸せでも、「そう。」としか言いようがありません。
正直な所、探されているなんて本当迷惑です。
だから、私はこれまで通り表面的には知らんぷりをすることにしました。
そのために元締めに私の事をどのように処理したか確認しました。
今まで見つかってないと言うことは、その方法を踏襲すれば良いでしょう。もしくはその方法をベースに更に注意をしていけば良いと考えました。
結果は、私、死亡処理をされていました。
ここに来た初日、水濡れの私を王子達は見ています。
その後風邪を引いて死亡し、平民なので共同墓地に埋葬したと書類上処理をし、その後探しに来た人たちにはその書類を見せて対応したそうです。
その後、ほとぼりが冷めた頃を見計らってプテリオン公爵領で年格好の似た女性を旅行させ、そちらに捜査の手が伸びたら撤収させ、数年経った頃、他国への街道を歩かせたりと定期的に情報操作を行ったということでした。
公爵領や、街道が整備されていて女一人でも歩けるようになっていたので簡単だったと元締めに言われ、あの頃の苦労が報われたように感じました。
巡り巡って自分で自分を助けた事実は私を勇気づけました。
今、私がする苦労も将来の私を助けてくれるでしょうか?
そう信じて進むしかありません。
気持ちを新たに、私は変装をすることにしました。
変装というより男装をすることにしました。
長かった髪を肩口くらいまで切り、結い上げず後ろで一つに結ぶだけにし、格好も男の物を身につけました。
エルが小柄だったので、並ぶとそれほど違和感はありませんでした。
顔は仮面をつけているので私とわかる人は、身内以外はほとんどいないと思います。
後は何が出来るか追い追い考えていこうと思っていた所へ街一番の高級娼館の特等室から呼び出しがありました。
お客が責任者を出せと言っていると言うのです。
責任者とは館主ですが、館主の裁量以上の難題をふっかけられる場合や、やっかいな相手の場合に元締めが呼ばれることがあります。
滅多に無いことに、部屋に向かうとそこに居たのは、元父であるプテリオン公爵閣下でした。彼はソファーセットにふんぞり返るようにして座っていました。
 




