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レベル概念の世界にいったらランクを上げる事になった  作者: シグアルト
第二話「ゴブリンエクスプローラー」
18/18

フェイズ2「神速丸の日常」

ミドルシーンの前の自由行動シーン

ほぼ神速丸の中の人のアイデアで構成されています。

 

 ────ここはアトランタル村のはずれ、人通りのまばらな裏路地


 その区域の建物の一角では、男達の熱気が渦巻いていた。


「いけっ!いけっ!!次こそ6の目だ!!!」

「馬鹿野郎!!そう何度も出るかよ!次こそ俺の勝ちだ!!」

「頼む・・・・・頼むぞぉ!!」


 三者三様の言葉を上げるもその圧力は凄まじく、温度の上昇したその部屋で男達は額の汗を拭いながら一点を見つめる。

 部屋の周囲を円状に取り囲んだ男達の中心にあるのは茶碗に入った3個のサイコロ、いわゆる「チンチロリン」である。

 元々この村には作物の収穫期が終わった農民達の息抜きとして簡易的な賭博場が存在していた。普段は閉鎖されているこの場は、此度に起こった異変によりストレスのたまった村民達の憩いの場として機能していた。

 しかしそれも初期の頃のみでたまたま村に滞在していた商人達の手により賭け事の意味合いが重要視され、またたまたま滞在していた賭博の強いならず者達が起こすギャンブルの魅力に賭場の刺激という者に耐性のない村民たちはたちまち魅了され、今では懐に余裕のある者たちによる激戦の場へと変貌し少なくない資金が動いている。

 そんな賭博場に一人の異形が紛れ込んでいた────────



「・・・っ!よっしゃあ、456だ!賭け金の二倍を貰おうか!!」

「マジかよ吾郎・・・お前、今日はツキがよすぎねぇか?」

「フッフッフ、俺の時代がついに来たのかもな。この調子なら負け分を取り戻せるかもしれねぇぜ」

「言ってろ、最後にはいつもスカンピンになって帰るくせによ」

「今日はいつもの吾郎様とは違うんだよ。まぁ見てろ、次も勝ちの出目を出して・・・」


「ぉぉぉぉ、兄ちゃん。随分稼いでるじゃねぇか。ちょっと幸運分けてくれってばよぉ」


「ん?何だよ、今いいとこ・・・・・うわぁ!!!何だこいつは?!」

「何だ吾郎、知らないのか?最近この賭場に現れる”黄色い悪魔”神速丸さんさ。毎回勝利してこの賭場を出てるもんだから中々の有名人なんだぜ」

「毎回勝利して・・・・・?マジかよ、生粋のギャンブラーじゃねぇか」

「だが神速丸さんよ、そろそろ大丈夫なのか?勝ち金はそれ程多くないとはいえ毎回勝っちゃ胴元に睨まれるぜ」

「胴元ぉ、何だそりゃあ・・・・?」



 神速丸の言葉に反応するかのように部屋の奥の扉が開かれ全身黒ずくめの男達が入ってくる。

 周囲の人間を品定めしているかのような傲岸不遜な態度、にも関わらず賭博に興じていた男達は顔を伏せまるで嵐が過ぎ去るのをじっと待つかのように制止していた。

 普段は空気を読むことを(あえて)放棄している神速丸にも、それが賭場の男達が言っていた胴元であろう事は予想がついた。



「あれが胴元だ。そんじょそこらの冒険者ですらアイツ等には適わねぇ。高位の階級(ランク)持ちも多数抱えてるって噂だぜ」

「・・・・・・・ッ」

「お前も気をつけろよ、吾郎。・・・ってオイ、軽く白目向いてんじゃねぇか。大丈夫か?」



 男は知り合いと思われる吾郎と呼ばれる男を介抱する。

 一流の冒険者すら警戒する程の圧力を持つ黒服集団に周囲の男達はたじたじであった。

 なおそんな最中、神速丸はというと────────






「この目にう~つるもの~は~♪遠い日の真夏のかげろ~~♪」



 歌を口ずさみながら先程倒れた男が稼いだ資金をポケットへと詰め込んでいた・・・・






 ◇◇◇





 神速丸が(奪い取った資金で)賭場に興じ数時間が経過した。

 何度か負ける場面があったものの重要な場面では連勝し、神速丸は青褪めた表情へと変わっていく男達を尻目に順調に勝ちを重ねていた。



「やぁやぁ、君が神速丸君だったね。随分と稼いでいるようじゃないか」

「んん?なんだぁ、俺様の幸運にあやかりたいってか?俺様は幸運の女神に微笑まれているからなぁ」

「そうだね、その運にあやからせてくれないかな?次の君の親番で全額をかけて勝負しないかい?」

「全額だとぉ・・・・?いいだろう、かかってきなさいな」

「ありがとう、折角だし3本勝負にしないかい?すぐに決着がついたら面白くないだろう」

「何でもいい、さっさときんしゃい」




 ざわ・・・・・

       ざわ・・・・・



 周囲の男達が自然と一歩引き二人の勝負の場が自然と整えられていく。

 神速丸は知る由もない事ではあったがチョウ=ハンと呼ばれるこの男もまた、この賭場において荒稼ぎをしている男であった。

 剛運任せの神速丸と違い、巧みな話術とここ一番にのみ見せる神がかり的な幸運により周囲の男達からかなりの額を奪い取っていた。

 彼等を遠巻きに見つめる胴元も静観を決める、度重なる荒稼ぎにより対応を考えていた二人が潰しあうのだ。邪魔する理由はない。


 チョウと呼ばれる男自身もまたその雰囲気を感じ取り内心安堵する。

 連日連勝で目立ちすぎてしまった、そろそろこの賭場からの引き上げねばならない。

 だが最後にあと一度だけ大勝負をしたかったチョウは、神速丸の事を獲物を見つけた猟師のごとき笑みで見つめていた。



(フッフッフ、随分な自信家だ。こういう相手こそ隙だらけで『アレ』に嵌まり易い)



 チンチロリン♪(サイコロの転がす音)

「よっしゃあ、5の出目じゃあ!!」

「「「「おおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」



 チョウが思案している間に神速丸がサイコロを振る、出た目は5。

 チンチロはサイコロを3個振り出目の組み合わせにより強さが決定する。

 1,2,3の出目、4,5,6の出目を除けば強さは1の出目が弱く数字が大きくなる毎に強い出目となる。

 つまり5の出目に対して勝利するには4,5,6もしくは6の出目を出すしかない。ほぼ8割は勝ちを拾える目だ、周囲が沸くのも無理がない事であった。



(なるほど、ここ一番で5の出目を出すとはこのガキ・・・・いやガキか?よくわからんなコイツ

 まぁいい、相当な修羅場をくぐってきている。”運命力(フェイト)”を味方に付けたかのようだ)

(普通なら厳しい場面だろうが・・・・ワシにはこの秘密兵器がある!)



 ざわ・・・・!

        ざわ・・・・・!



 チョウの放つ異様な空気にそれまで沸いていた観客の熱が急速に冷えていく。

 そしてチョウはその手に持っていたサイコロを握り締め・・・・・茶碗へと投入した!




 チンチロリン♪(サイコロの転がす音)

 神速丸が茶碗の中を覗き込む、出た目は────────────



















 ────────1,2,3(大失敗)

「ぶふぅぅぅっぅぅっ!!!」



 チョウの熱の入った一投にも関わらず出た目はよりによって最弱の出目。

 傍若無人な神速丸とはいえども僅かに抱いていた緊張感が急速に緩まり思わず噴出してしまう。



「・・・おやおや、ここでこんな出目が出てしまうとはね」

「ひ、ひ、ひふみ?!ヒッヒッヒ!」

「どうしたんだい、神速丸くん?まるでワシが1,2,3の出目を出したかのような反応をして。

 よぅくサイコロの出目をみてごらん?」

「へ?・・・・・ふぁっ?!」

「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」



 空元気かと思い馬鹿にしようとした神速丸は周囲の男達の歓声がサイコロの出目に注目されている事に気付き再び視線をチョウが投げたサイコロへと落とす。

 そこにあった出目は先程見た1,2,3ではなく4の出目に変わっていた。




 ざわ・・・・・・




 神速丸は混乱していた。まるで背後から隠密中の相手に攻撃された時の様な薄ら寒さすら感じた。

 先程見た出目は確かに1,2,3だった筈。それが何故・・・・!

 だが混乱の極みにあったのは相対しているチョウも同様であった。


(どういう事だ!?ワシは出目を操作してなお奴には勝てないというのか!?)


 言うまでもなく出目が変わったのはチョウの仕掛けたイカサマであった。

 正確には彼の持つ固有スキル「4,5,6サイ」の効果であった。己が振るサイコロの出目は決して1,2,3が出ない様になる超限定的スキルであった。

 命のやり取りを行う戦いなどにおいて強力な切り札となる運命力(フェイト)が必要となるにもかかわらずあまりに使い道に乏しい能力。だがチョウはその力を十全に奮える場を整えた・・・・・筈であった。

 だがその力を上回るは、圧倒的神速丸!




(まさかワシのスキルを上回る運を見せ付けるとは・・・油断ならん!)

「ま、まぁ・・・最初は華を持たせてあげないとね」


 狼狽した心を抑えつけながらもチョウは飄々と神速丸に微笑み一回目の負けを認める。

 絶対的な能力を持つ身であるが100%の勝利を呼び込める力ではない、そう思い3回勝負と保険をかけた事がまさにここで生きた。

 彼の慎重すぎるともいえる性格が産んだ活路である。






 ざわ・・・・・

       ざわ・・・・・・




 2回戦、3回戦は共にチョウが勝利した。

 1回戦目の敗北からチョウは慢心も驕りも捨て、ただ必死に勝利を願った。

その執念が彼の持つ運命力(フェイト)を覚醒させ勝利をもぎ取ろうとし、神速丸も呼応するかのように運命力(フェイト)を解放する。

 一村民でしかないチョウと違い神速丸の持つ運命力(フェイト)は生死を分けた戦いの中ですら活路を開く切り札の筈なのだが、賭博の熱という魔物はそんな判断力すら彼から奪い取っていた。もしくはこんなくだらない勝負にすら全力投球するのが神速丸という男なのかもしれない────




「Oh・・・・・God is dead」

「ワシの、勝ちのようだね。じゃあ負け分として3000G貰おうか」



 意味不明な言葉を並べつつ魂の抜けた神速丸から賭け金を巻き上げようと近付くチョウ。


「・・・オオオオオオェェェェェォオオェ」

「・・・へ?ぶほぉぉぉぉっ?!


 すると神速丸は天に召されたような顔をして金に手をつけようとしたチョウの顔面を殴りつけた。

 賭博の才能はあるが階級(ランク)を持たないチョウはその拳を避ける事ができず賭博場の外まで吹き飛んでしまった。

 即座に反応する胴元の黒服集団達。そんな彼等に向かっても意味不明な言葉を叫びつつ暴れる神速丸。

 やがて階級(ランク)を持った黒服達に神速丸は捕まり────────









「・・・何をしているんですか、神速丸様」

「Oh、ワタシ ナニモ シテイナイ」



 賭けの負け金に加え釈放金をシャドウ丸が支払い、神速丸は出所するのであった。

今話は本編4030字

一話につき4~8千字を目安にしていきたいと思います

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