表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

「本当にあった怖い話」シリーズ

鎮守

作者: 詩月 七夜

 とある地方の小さな村での話。


 人口千人にも満たないその村は、長い間、無医地区だった。

 そのため、村人達は通院に車を使い、わざわざ隣町へと通院する不便な環境にいた。

 そんな折り、村長の元へ、一人の男が訪れてきた。

 男は「医療法人●●会」を名乗り、こう切り出した。


「この村に病院をつくりたい」


 ただでさえ過疎化が進み、高齢者が多い小村である。

 好んで病院を出そうなどという奇特な医療法人などありはしない。

 村長をはじめ、村のお偉い方は諸手を上げて賛成し、村人達も反対する者は誰一人としていなかった。

 そうして、とんとん拍子で話は進み、遂に病院設立が決定する。

 が、ここで一つの問題が上がった。


 それは病院の建設地である。


 病院の敷地はそれなりの広さや地盤の固さなど、条件が必要だ。

 だが、村のほとんどは山林や田畑である。

 傾斜がきつかったり、地盤が緩かったり、なかなか条件に合う土地が見つからない。

 そんな中、ある候補地が見つかった。

 それが「鎮守の杜」だった。

 普通「鎮守」とは、特定の建造物や土地を守護するために祀られた神様である。

 現在では「氏神うじがみ」「産土神うぶずながみ」と同一視されることも多い。

 しかし、その杜は古いお宮があるだけだった。

 都会の人はなじみが薄いと思うが、普通、鎮守と言えば地元の人達が交代で神社当番を務め、お宮の掃除をしたり、お祭りの準備をしたりと、何かと人が関わっているものである。

 が、不思議なことに、その鎮守は「誰も近付いてはいけない」という決まりがあるだけで、特段人の手が加わった形跡もないものだった。

 ここを下見した結果、病院建設のための土壌や環境は問題なくクリア。

 村長もホッと胸を撫で下ろした。

 そして、いよいよ建設工事に着手するにあたり、問題のお宮をどうするかが話し合われた。

 とりたてて祭事などは行われていなかったが、何分古いお宮だ。

 そして、古くから禁忌の決まりもあるお宮である。

 何が祀られているかは分からないが、後で罰でも当たったら大変だということで、村人達からはお宮を移動する土地の準備と、神様に許しを乞う神事を行うべきだと意見が出た。

 しかし、その手間や費用を渋った村長は、あろうことか「工事を行う際にお宮も壊して、廃棄する」ということにしてしまった。

 村人達は誰しもそれに反感や不安を抱いたが、病院建設反対派と見なされ、村八分にされたらたまらない、と口をつぐんだ。

 そうして、長くあった杜は拓かれ、お宮も粉々に砕かれて廃棄されたのだった。


 工事は無事に終了し、やがて、立派な病院が完成した。

 当時の最新設備と、遠隔地まで通院しなくてよい利便性に村人達は喜び、村長も自分の手柄のように周囲に誇った。

 そして、誰もがお宮の事など忘れ去った。


 開院してから数年後。

 病院には、噂を聞きつけ、近隣の集落からも通院客が来るようになった。

 そして、村にも少しずつ活気が戻っていった。


 そんな折りの事である。

 病院で不可思議な事件が発生した。

 何でも、入院していた患者の一人が急に容態を悪くし、死亡してしまったのである。

 病院側は適正な処置を行っており、医療事故という証拠も見つからなかった。

 遺族も病院の風評に傷がつくことを恐れた村人達の圧迫に折れ、裁判等も起こさないでいた。

 が、その一年後、再び同じように死亡する患者が出て、流石に誰しもが不審に思い始めた。

 そして、患者二人が死亡した日付が、病院の着工日と全く同じだったことが発覚。

 村全体に「鎮守の祟りでは」という噂が広まったのである。

 これに憤慨したのが町長だった。

 妙な噂が広まり、自分の手柄に傷がつくことを恐れた村長は、身体を壊していた母親をその病院に無理矢理入院させた。

 祟りなどを信じていなかった村長は、何と身内を使って噂の根絶を図ろうとしたのである。

 母親は当初、入院を固辞していたが、来る日来る日も繰り返される説得や拝み倒しに遂に折れ、息子の言う通り、病院に入った。


 そうして、例の日が近付いてきた。

 誰しも、不吉な噂を囁き合い、村長の母親を不憫がった。

 他の患者は噂によって退院や転院しており、入院患者は村長の母親一人だったからだ。

 当の母親は、噂の恐怖に震え、生きた心地がしないまま、毎日手を合わせ、今はもうない鎮守様に謝罪した。

 そうして、遂にその日になった。

 一人、病室で心細さを噛み締めていた母親は、不意に院内が騒がしくなったのを感じた。

 何事かと思い、看護師に尋ねると「急患だ」という。

 更に驚くことに、その急患は何と村長本人だった。

 何でも、山道で車を走らせていた際、運転を誤って事故を起こしたらしい。

 辛うじて一命は取り留めたものの、重傷だった村長は、最も近く、入院患者もいないこの病院へと運ばれたそうだ。


 それを知った村長は、重症にも関わらず喚き始めたという。

 「あの病院は嫌だ」だの「殺される」だの、散々自分勝手なことを言い放ったようだが、他の病院までは到底間に合わないし、それこそ命にも関わる。

 無理矢理病院へ運び込まれた村長は、すぐに手術を施され、そのまま入院させられた。


 そして、その次の日。

 村長は無事に生きていた。

 そして、村長の母親もまた。


 これを知った村人は、誰しも「祟りはやはり、偶然だったのか」と思った。

 が、当の二人だけは違った。

 後に村長が、知り合いにこう漏らしたそうである。


 入院した夜、村長の夢枕に尊い身なりをした一人の老人が立った。

 その老人は、村長へこう告げたという。


「お前は連れていけぬ。お前の母親の徳に感謝せよ」


 村長自身、後で知ったらしいが、彼が入院した日、村長の母親は病の身でありながら、夜も寝ずに彼の病室の前でお祈りをしていたという。


「息子の代わりに、どうか私をお連れください」と。


 やがて、退院した村長は母親を連れて、自宅へと帰った。

 そして、私費を投じて、自分の土地を整備し、新しいお宮を建てて長く祀ったという。


 古い土地には、古い存在ものが今なお息づいている。

 それを時代遅れとして捨てていく時は、重々注意されたい。

 その存在がいかなるものか分からない場合は、特に。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 病院というテーマに加え、村の問題や風習も扱っているのがとても良かったです。 二転、三転したあとの、あの終わり方も好きです。ありがとうございました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ