表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/8

ふと我に返り






 ヒロトが魔王とともに風呂に入った後、三人がそれぞれのベッドに入り、静かになった頃、それは悶え苦しんでいた。


 「っっっっっっっっっっっっっっっっっ‼︎‼︎‼︎」


 ベッドの布団の中で、枕を両手で抱え込むようにして顔を押し付け、呻いている様はまさに狂気そのもの。

 しかし、自ら窒息死しようとしているように見えるのはあながち間違いではない。

 なぜなら、



 ──── なんなんだっ‼︎‼︎‼︎ 今日一日の私は一体なんだったのだぁああああ‼︎‼︎‼︎ ────



 枕に埋もれて見えない頬を真っ赤に染めているアレクシアは、ふと一人になった拍子に思い出した醜態の数々に恥ずかしさが耐久限界を突破してしまい、悶えているのだ。

 穴があったら入りたいという形容がすんなり胸に落ちる有様だった。


 ──── 私は騎士っ‼︎‼︎ 身を退いたとは言えっ、誇りあるジュゼラノ騎士団の第一大隊分隊長っ‼︎‼︎ それがっ、あろうことかっ、あのようなっ‼︎‼︎‼︎ ────


 自分を落ち着かせようとして、言い聞かせていたアレクシアだったが、墓穴を掘るがごとく意識を記憶に落とし込んだ瞬間、フラッシュバックした光景に再び悶絶する。

 叩きつけるように顔面を枕に押し付けるも、それでも羞恥心を紛らわせられなかったアレクシアは衝動的に足をばたつかせた。


 「な、なぜなのだ……………………」


 しはらくジタバタしてどうにか恥ずかしさの波が引いていくと、アレクシアは顔を上げて、ぜぇぜぇ、と荒い息を吐きながら、(ひと)()ちた。

 ヒロトと一緒にいたとき、なんの違和感もなく、まるでもとからそんな関係であったように接していることが果てしなく不思議だった。

 自分はいつも騎士として恥ずべきことがないように心がけてきた。

 それは騎士団を自ら辞めてからもである。


 ──── であるというのにっ、あれではまるで乙女ではないかっ‼︎‼︎‼︎ ────


 今度は怒りと恥ずかしさから、顔を枕に押し付けた。


 ──── なぜなのだっ‼︎‼︎ なぜあのようなことをっ‼︎‼︎ ────


 しかし、アレクシアには何もわからなかった。

 思い出す場面は当然自分の視点ものである。

 だが、言動がまるで別人のようで、記憶にある光景は、赤の他人の記憶なのではないかと思うほどだった。


 ヒロトを見た瞬間、衝動的に駆け寄って抱きついたのは誰だ。

 それで、ヒロトに突き放されてなかったこととして扱われて急に不安のどん底に落ちたのは誰だ。

 自分より龍の死骸を優先するヒロトに腹を立てたのは誰だ。

 ヒロトのセリフに自分の汗が臭っていると勝手に思い込んで、疑心暗鬼になっていたのは誰だ。

 鎧を外すところをヒロトに見られて恥ずかしがったのは誰だ。

 風呂場でなぜかヒロトが入ってきたらどうしようという夢物語に気を取られて、ヒロトが脱衣所に入ってきたことに気付かず、慌てふためいたのは誰だ。

 風呂から出たときソファで寝ていたヒロトの無防備な寝顔を思わず凝視していたのは誰だ。

 からかわていることなど明白なヒロトのセリフにも感情を(あらわ)にして反論していたのは誰だ。

 そして、何と張り合ったのかもわからず、こーひーを飲んで吹き出したのは誰だ。

 ヒロトが自分の危機に現れて救ってくれたのは自分の心の声が届いたのではと、馬鹿げたことを考え、否定されて落ち込んだのは誰だ。

 ヒロトにおぶってもらえると思った途端無意識にはしゃいだが、すぐに自分は重いのでないかと思い至り、やめたのは誰だ。

 何も言ってないにもかかわらず、ヒロトに連れて行かれた場所が串焼き屋だったことや魔王にするようにされたことに不満を抱いたのは誰だ。

 童心に帰ったようにスイーツをぼうばったことをヒロトに指摘されて、罰が悪そうに言い訳したのは誰だ。

 寝ることになったときに、ヒロトが魔王に言ったことに過剰に反応したことが恥ずかしくて強く当たってしまったのは誰だ。




 ──── そして、今、それら全部を思い出して、悶絶しているのは誰だ。





 「……………………ヒロト」


 アレクシアは壁の向こうにいるであろう青年の名を口にした。

 同じ年齢で、おどけた笑顔がよく似合う彼を前にすると、普段の自分がまるで偽りの姿だったかのように、心の仕組みを組み替えられたように振る舞ってしまう。

 以前はこんなことはなかった。


 ──── ………………………………きっと、疲れているのだ ────


 (あて)もなく歩き続け、誰とも言葉を交わさず、見知らぬ土地を徘徊しているうちに龍に出くわし、疲労困憊となるまで戦ったのだ。

 ポーションを飲んだとはいえ、完全に回復していないのかもしれない。


 ──── 寝れば、きっと、いや必ず、普段の自分に戻っているはずだ……………………そうでないと、困るのだ ────

 

 アレクシアは心中で(ささや)くとゆっくりと瞼を閉じて、まもなくして彼女は自分でも忘れた日々を夢に見た。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ