~プロローグ~
初めまして神崎うさぎです。プロローグは設定やら主人公の人物像の説明などです。
帝国歴560年
一人の赤ん坊がこの年生まれた。
白金の髪に、瞳の色は色素の薄いグレーの瞳。
そして何よりもその子は神々しかった。
人々はまだ知らない。
遥か遠い未来、この子が歴史に名を残す史上最悪の皇帝になることを。
この世界はディアース。
10の大陸からなる世界で、その内3大大陸と呼ばれる大陸は他の2~3倍の面積を誇る。
1つは北に位置する鉱石資源は豊富だが大陸中が荒野と小規模の山が多く人が住みづらい大陸カザリナ。
もう1つは南に位置する肥沃な土地が多い大陸アーネスト。
そしてカザリナ大陸とアーネスト大陸の中央に位置し、北側と南側が聳え立つ巨大山脈に囲まれた大陸ドューラ。
カザリナ大陸には魔族と言われる魔に支配されたと言われる、「魔物」と人が合わさった様な亜人と呼ばれる人が住んでいる。
アーネスト大陸には小規模な国が密集し人族以外にも獣人や精霊族であるエルフ、ドワーフなどの多種多様な人種が連邦と呼ばれる物を形成している。
ドューラ大陸。
この大陸では国はアルカディア帝国と言う国しか存在しない。
500年以上前は沢山の国々があったが、戦乱の世を経て当時のまだ王国であった帝国が、戦争で疲弊した国を併合していき今の帝国を形作ったと言われている。
大陸の北、南側が山脈に囲まれて西と東は海に面している寒暖の緩やかな土地で、肥沃な大地ではないが穏やかな気候の為暮らしやすい大陸である。
北、南が山脈に守られていて防衛や戦略的にも安全な土地だ。
人口は帝国全土で約300万人。
帝都エンディミオンの人口は15万人ほど。
他の各地の大都市は10万人ほどだ。
その中でも大都市は6つある。
そんなアルカディア帝国は世界三大大国の一つであり、このドューラ大陸を掌握している。
しかし現在、帝国歴760年までの200年の間にその様は大分変化していた。
帝都の某酒場。
ここに目深に外套を被った男がやって来た。
まだ時間も6時頃、酒場が混むには早い時間だ。
外套を目深に被ったその男はテーブル席ではなく、カウンター席に座ると、店の店長に注文する。
「店長。葡萄酒と何か適当に貰えますか?」
「あいよ。あんた、この辺りじゃ見ない顔だが旅人か冒険者か?」
男の詳しい顔つきまではわからないまでも、鼻から下はここらでは見ない肌の色をしていたため店長は気になって聞いてみた。
「まぁ、そんなところです。まだ時間も早いし少し聞きたいことがあるんですが付き合ってもらえますか?」
まだ店の中は空だったので店長も別に構わないぞと言って何が聞きたいのか尋ねた。
「いや大したことじゃないんですけどね。僕って冒険者だからいろんな国を渡り歩くんですけど、その行った国のこと知りたくてよく聞いたり調べたりするんです。だから店長にはこの国が変わり始めた200年ほどの歴史を聞きたいんですよ。」
「なんだ、そんなことか。それなら構わないぞ。」
そう言って店長は目の前の男に葡萄酒と適当な料理の皿を差し出した。
「この国じゃ誰も知らない奴はいないんじゃねぇかな。なんたってこの200年でこの国は大分変わったらしいからな。」
そして店長は語り初めた。
帝国歴560年、その年に第3皇子であるネロ・オルリア・アルカディアはこの世に生を受けた。
当時、現皇帝の御子は第1皇子、第2皇子に第1皇女、第2皇女、第3皇女、第4皇女にネロの7人がいた。
ネロが生まれた時点で第1皇子は16歳で10年後には立太子されるだろうとも言われていた。
なにせネロが生まれた時、当時の皇帝は47歳だったのだから。
ネロは変わった子として認識されていた。
生まれてから3年程は普通だったのだが、話せるようになるとネロはよく変わった行動を取るようになっていった。
皇帝も末っ子のネロには甘く、第1、第2皇子とは別に英才教育よりも時間にゆとりを持って教育、または欲しがった物は伝えろなどと甘やかした。
ネロは賢い子であった。
5歳の時、当時では考えられない「遺伝子」について研究したいと説明を交えて側妃である母に伝えると、その話は皇帝にも伝わりその歳で大人顔の負け聡明さと賢さに驚き、ネロの為に研究施設を建設した。
それから度々ネロは研究施設に引きこもる様になったがその賢さと聡明さ故か、勉学や礼儀作法は年齢の割には完璧だった。
それ故、父である皇帝はますます末っ子であるネロを可愛がるようになる。
第1皇子は将来の皇帝、第2皇子はそのスペア。
皇女達は主要な大貴族や諸外国に嫁ぐことを考えればネロにはなんの役割がなかったことも、厳しく教育せず甘やかすことに至った経緯かもしれないが、それはその当時の皇帝にしかわからないことである。
ネロが9歳になる頃、ネロは母を通してまた我儘を言った。
曰くその我儘は誰も立ち入ることのない、大きな倉庫が欲しいとのことだった。
その我儘は翌日皇帝に伝わり、その程度なんとでもなると言うかのようにすぐに倉庫の建設と倉庫専用の小さな警備隊が設立された。
皇帝は見られたくないもの、研究に使う素材を置いとく為だろう等と子供視点で考えていたが、今にして思うとそれはとんでもない間違いであっただろう。
ネロが11歳になったある日、58歳である皇帝は老いを感じ始めたのか第1皇子を立太子した。
そのこと自体は当時でもよく噂されていた事だし、国を上げての祝賀パレードなどその年はとても賑わったという。
5年という歳月が流れた。
ネロ16歳。
この頃になってネロの容姿にも変化が現れた。
瞳には幾何学模様の紋章。
そして当時は噂程度だったが、背中には白亜の一対の翼が生えているなど。
容姿も相まってよく天使が舞い降りたなどと噂されていた。
そしてその頃になってネロはよく皇帝や母などにもお忍びで遠くの地まで行くようになった。
さらに月日が流れネロが20歳になった帝国歴580年。
皇太子であった第1皇子が毒殺された。
享年36歳であった。
この報せはあっという間に国中を駆け巡り、この頃にはほとんど寝たきりであった皇帝は、その報せを受けた時そのあまりのショックで病気を患ってしまう。
半年後皇帝が崩御し、スペアであった第2皇子に皇帝のお鉢が回ってきて戴冠したが国中は第2皇子が皇帝になるための謀略ではなどとざわめいていた。
当時第2皇子は33歳であった。
そしてネロの方でも、ある超大な計画が始動した時であった。
これは語られていないことだが、ネロには人に言えない秘密があった。
それは「天使」であると言う事と「転生者」であると言う事。
ネロの前世は日本と言う国で生まれ育った人間だった。
しかしある日何が原因かはわからないが死んでしまったネロはそこで神と言う存在に出会う。
曰く、この世界には神が3人いる。
曰く、2人の神と敵対し、負けた神は力を大幅に削られ身動きが取れない。
曰く、残った力を使い転生者を見繕い、人の魂を持った天使を創造することでディアースに直接送り込み干渉出来るということ。
曰く、信仰を力の源とする神の為に、信仰を広めて欲しいとのこと。
曰く、この世界の絶対神になる為に力を取り戻さなければいけないこと。
その神はエル・デウスと名乗った。
そしてネロに信仰を広める使命を与えた代わりに二つの異能を与えた。
一つは不老の異能。
これはあくまで不老であって不死ではないとエル・デウスは説明した。
もう一つは加護を与えること。
与えられた生物は加護を得る代わりに魔力をほんの微量ながらもネロに吸収される。
この加護を受けた生物は手の甲や額、体のわかりやすい所に幾何学の紋章が現れ、膂力や魔力、健康状態などが向上するらしい。
そしてこの加護は自由に解くこともできる。
エル・デウスはネロを地上に送り出す際いくら天使と言えども身体能力や魔力は平均程度で生まれると伝え、同時にこの異能を使えば強力な力になるとも伝えた。
ちなみにこの世界では魔力がある。
それ即ち、魔法や魔術も存在すると言う事。
魔法は相応の魔力を使って無詠唱でイメージを具現化するのに対し、魔術は魔法陣や詠唱などで魔力の消費を効率的にして魔法を発動させるものだ。
人間は魔力が少ない為にいかに少ない魔力で魔法を発動させられるかを考えた結果、魔術を編み出したらしい。
だが魔法も万能ではなく、例えばどんな大魔法であってもミサイルの様に大陸を超えて攻撃なんて真似は出来ない。
あくまで目視できる範囲内で無ければいけないという制約はあるらしい。
ネロは5歳になるまでの間、いかにして効率よく信仰を広め、魔力を集めれるか考えた。
結果新たな人種を作り教育、加護を与えるという結論に至った。
それはこれから計画を行う為にも強力な軍隊が必要だからという理由もあった為だ。
幸いと言うべきかネロは大国の王族、それも第3皇子という立ち位置で生まれた為自由に出来る時間は沢山あった。
強力な人種を作るに当たって、ネロは前世の知識である遺伝子とゲノムについて研究した。
まず肉体面では魔族である竜人の遺伝子を、魔力面では精霊族であるエルフの遺伝子をそして何よりも繁殖力が強く数を増やすために人族の遺伝子をベースに研究した。
王族の権力を使えば優秀な冒険者を雇い、竜人やエルフを1人や2人捕らえることは容易かった。
人族に関してもより優秀な個体の奴隷を選んで素体にした。
失敗は多かったがこの世界には魔法や魔術がある。
ネロ自身、魔力は人間の平均程度といっても少ない方ではないので研究に使う魔術は必死に勉強した。
ちなみに魔力は生まれた段階で既にその最大値がほぼ決まっているらしい。
大人になるにつれて多少は増えるようだが。
例えば「拡大」と「切取る」の魔術。
この二つは初級魔術に分類される魔術で、「拡大」は読んで字のごとく魔力の込め具合で対象を拡大することができる。
「切取る」の魔術も同じ初級魔術で鋏のような役割を果たす魔術である。
これも魔力の込め具合で切れる範囲や細さが変わるので、遺伝子を切り離すのによく使った。
そして1番手こずったのが「複合」の魔術。
これは物をくっつけたり混ぜ合わせたりできる。
中級魔術の中では消費魔力も少ないが、そう1日に何十回も連発できないので、時間が掛かった。
今上げた魔術は全て無属性の魔術だ。
他にも属性は火、水、土、風、光、闇と存在する。
そして失敗しながらも試行錯誤した結果9歳になる頃には、新たな人種が誕生したのだった。
そしてこの人種には竜人程ではなくとも身体の頑強さと強靭さ、高い魔力とエルフの通常寿命の500歳には届かないが150歳ほどの寿命を手にいれた。
ネロは既存の人族を旧人類、自らが想像した人族を新人類と名付けたのだった。
新人類はとても特徴的な見た目をしていた。
まず目に付くのは容姿が整ってること、全体的に金髪やグレーなどの色素の薄い髪色などが多く、耳の形も若干縦に長い。
これは精霊族であるエルフが基本的に皆、端整な顔立ちで色素の薄い髪であること、そして耳の形が縦長で特徴的なのを受け継いだ為だろう。
そして、もう一つは瞳が金色で良く見ると瞳孔が縦長なこと。
これは竜人の特徴だ。
本来の魔族である竜人は体に薄い龍の鱗を纏い、金色の瞳の中の瞳孔は縦長で角まで生えている。
人族をベースに作ったお陰か、鱗や角が生えると言うことは無かったが、瞳の特徴はそのまま受け継いだらしい。
そしてこの二つの種族は強力な種族だが、繁殖力が弱いことでも有名だ。
だがそこも、人族をベースにしているので充分カバーできるレベルに仕上がっている。
11歳になった頃、我儘を言って建ててもらった立派な倉庫にネロは極秘理にある装置を設置していた。
それはより早く生物を成長させるための、言うなれば成長促進装置であった。
見た目は教室ほどの大きさで培養液の水槽とその外側に色々な機器が装着されている。
この機器は培養液を新しいものに循環させたり、最低限ではあるが常識やネロを主と脳に直接インプットさせる学習装置である。
この学習装置がもしなければ、体が大きいのに脳は赤ん坊というちぐはぐな状況になりかねない。
金もかかったし、何よりも見られたら不味いこの装置を作ったのは早急に新人類の数を増やすためである。
普通に子供が出来てその子供が大人になるまで〜と待っていると何年かかるか分かったものではない。
だが、この装置を使えばあらかじめ試作してあった新人類の男女の精と卵を受精させたものをこの培養液の水槽に沈めるだけで、たった半年で15歳程度まで成長する。
維持にもとても金がかかる装置だったが、そこは素直に母親に甘えさせてもらったのだった。
ネロが16歳になりある程度の外出が許されるようになると、まず真っ先に行ったのは廃村を探し出すことだった。
このまま新人類を増やし続けても今のネロでは管理しきれないからである。
そこでネロが見つけた廃村は帝都から2日ほど離れたところにある山の麓の廃村である。
なんでも下級とは言え魔物が出ることで徐々に人が寄り付かなくなったとか。
だが所詮は下級の魔物。
新人類は普通の人族とは比べ物にならない強さを保持してるのでまず死んでしまうなんてことはないだろう。
この時点でネロの元には100人ほどの新人類が居たのだった。
本当ならばこの5年で1000に近い新人類が誕生しているはずだが、ネロは細心の注意を払ってあえて人数を増やさなかったのだ。
さらにこの時初めて気づいたのだったが、天使の加護は目視できる範囲内であれば1度に加護を与えることができるらしい。
将来はこの加護を与えた時に現れる幾何学模様を使ってもっとわかりやすく、旧人類と新人類を区別するつもりでネロはいた。
その後もネロは魔物が出るために廃村になってしまった村を2つほど探し出し、20歳になる頃には成長促進装置の効果もあってか、新人類は1000人ほどにまで数を増やしていた。
もちろん反逆を防ぐため、自然に生まれた子供にはネロが主であることを刷り込むよう新人類に命令してある。
ネロの理想は第二次世界大戦直前の天皇を至高とした軍国教育を施していた日本だ。
その後は先ほども話した通り、まさかの第1皇子の凶報に皇帝の崩御。
ここからネロの時間は慌ただしく動いていく。
5年の月日が流れ25歳にネロはなった。
20歳以降老いないネロだが、まだ怪しまれるような年齢でもない。
そして第2皇子が戴冠し皇帝になってからはネロの行動も大胆になっていった。
この5年でネロは怪しまれないよう魔物の住まう山を開きそこに更に人数の増えた新人類を住まわせるようになっていた。
既にこの時点で3万人は超えていたと思われる。
新人類達に沢山の子を産めと指示しておいたこともあるがやはり一番は山を開いた村にももう2基の成長促進装置を設置したことがこの早さでの人口増加の理由である。
ネロが28歳になった時、この時期になると皇帝になった第2皇子はそろそろネロも公爵家に婿にいかないかと勧めてきた。
しかしネロには壮大な計画がある。
婿に行く訳にはいかなかった。
そろそろだろうとネロは思い立って行動をおこした。
これが後のアルカディア帝国天下分け目の戦いのきっかけだとはその時代に生きた人間達には想像もつかなかっただろう。
翌年の帝国歴589年、6月のある晴れた日。
この日皇帝は外用があり帝都にはいなかった。
そしてネロはあえてこの日を狙った。
あれから更に7基を各村に増設し10基に増えた成長促進装置のおかげもあり10万人近くに増えた新人類を帝都エンディミオンに近い廃村に集めたネロは一気に帝都を攻めた。
男女共に戦える者は6万人近くおり、武器等もネロはこの日のために少しずつ買い付けていた。
この白昼の悪夢に帝都では絶対権力者である皇帝が不在なのもあり反応が大いに遅れた。
帝都の巨大で堅牢な城門は、新人類の豊富な魔力に物を言わせた魔術の集中砲火によってあっという間に朽ち、それからは往々として集まらない兵を蹴散らし一気に皇帝居城まで攻め入った。
皇帝居城に攻め入ってからは主要な軍を指揮している法衣貴族や将軍は見せしめに殺し、軍の機能を奪った。
この間たったの5時間での出来事だった。
帝国側の戦死者数は約500人ほど、そして奇襲とはいえ城攻めを完遂した新人類側の戦死者数は100人以下だったという。
クーデターを起こし、帝都エンディミオンを手中に収めたネロは翌朝、急ぎで帰ってきた皇帝に大人しく降伏して欲しい旨を伝えたがその勧告は失敗に終わり、ここに後の歴史に残る天下分け目の戦いが開戦したのだった。
開戦から1ヶ月ほど経ってから6大都市の一つ城塞都市エリクシルに身を寄せていた皇帝率いる、15万の帝国軍が帝都奪還に向けて進軍しだした。
15万と言ってもほとんどの兵は貴族の私兵である。
なぜなら帝都を占領された時点で正規兵の大半が皇帝が不在だった為に降伏してしまったからだ。
足並み揃わない帝国軍ではあったが、一般的に考えればネロ側の反乱軍が6万に対して15万の兵での進軍なので攻城戦には充分であった。
ただし普通であればだったが。
この1ヶ月でネロも何もしてなかった訳ではない。
帝国軍が半数の軍勢で城門や城壁に攻め入った際、それは起きた。
ネロは城壁の周辺にあらかじめ深い穴を掘り、そこに油を貯めておいたのだ。
それに気づかずに攻め入った帝国軍は突如現れた燃え盛る炎で身動きが取れなくなった所を魔術の波状攻撃で大打撃を受けた。
攻勢に出てからその日が終わるころには10万程までその数は減らしていた。
通常、戦争とはいきなり軍勢の半数を失えば戦線の維持が限りなく不可能になるものだ。
半数とはいかなかったが、3分の1の犠牲は寄せ集めの帝国軍にはかなりの動揺を与えた。
軍の脱走も相次ぎそれから1週間後、帝国軍は撤退を余儀なくされたのだった。
それからはこのような大きな戦争は無かったがこの戦争をきっかけに帝国軍との小競り合いやネロ側に服従の意を示す貴族が現れ出した。
ネロの方も新人類に加護を与え続けた結果、かなりの魔力を蓄えることが出来たので城の地下に今までよりも大型の新人類生産装置を作り出した。
基本構造は従来の成長促進装置と変わりないが、1度に3000人近く新人類を生み出せるようになったのは大きい。
多大な魔力もネロから供給されるよう改良されているのでこのような魔力を大量に消費する大型の装置を開発することができた。
ちなみにどんな生物でも元の魔力量より魔力が増えることはないが、ネロの場合は回復はしないが加護の効果で吸収した魔力は増えて蓄えられている。
小競り合いが続く中、6年の月日が流れた。
この6年で新人類生産装置が街の地下深くにも極秘で作られたことによってどんどんと新人類は増え続けていった。
それだけではなく新人類達はネロの命令通り子供をたくさん増やしていった結果、この6年で20万近くに新人類は増えていた。
この頃になると帝国の3分の2は実質ネロ側が支配しており、残り3分の1の皇帝側の勢力は二つの大都市を中心として追い詰められていた。
この6年でネロは新たな宗教、オルリア聖教を立ち上げた。
教えの根幹は至って簡単なもので、神エル・デウスを唯一神にして崇めネロ・オルリア・アルカディアは新人類の父であり敬愛し逆らってはいけない存在だというのが教えの根幹だ。
そして旧人類は新人類より下の存在であるとも。
この年、ネロは10万の兵を引き連れ残りの帝国軍を壊滅させ皇帝を討ち取った。
遂にネロは戦争に幕を閉じたのだった。
その後残った皇帝派貴族や帝国軍の残党などの内乱を平定したネロはオルリア聖教を国教とし、国名を神聖アルカディア帝国に変更したのだった。
国旗には天翼を広げた天使が左手に大きな十字架、右手に剣を掲げたものが描かれている。
そして今日この日まで、神聖歴760年まで神聖アルカディア帝国は徐々に新人類の数を増やし、旧人類である人族を奴隷にして過ごしてきたのだ。
今では新人類の数は1000万人程まで増えた。
ドューラ大陸での人族は100万人ほどである。
新人類が順調に数を増やした背景にはその頑丈な体と寿命が長いためこの時代の人間のように50年ちょっとで死んでしまうことがあまりなく、食料問題でも豊富な魔力を農業に活かし雨の振らない日は集団で雨を降らすことが出来た為、飢饉が激減したからだ。
その他にも魔物によって村が壊滅するということも無くなった。
普段の生活でも魔法陣が刻まれた道具である魔道具がよく使われるようになり帝国は農業、軍事、生産の全てにおいて先進性に富んだ国になったのである。
「まぁこんなもんだな。だが最近軍のやつらが慌ただしく動いてるとこを見ると皇帝陛下は何かやるのかな。また歴史が動きそうな気が俺にはするぜ。」
話終えた店長は時計の魔道具を見ながら、そう話を締めくくった。
「歴史が動くほどの事が起きる・・・」
外套の男は小さくそう呟いたが、新人類である店長には聞こえてたらしい。
「まぁここ100年、戦争やら争いごとは起きてないからただの勘だけどな!」
「そう言えば店長は普通の人間に対して普通に接してますけど、なんでですか?」
笑いながら答えた店長にふと、外套の男は先程の新人類が旧人類を支配しているという話を思い出し聞いてみた。
「全ての新人類が旧人類を下に見ているって訳じゃねーんだ。まぁほとんどのやつはそうなんだが。」
「そうなんですか。話しを聞いて気になったものですから。そろそろ僕は行きますね。いろいろ聞かせてくれて本当にありがとうございました。」
外套の男が金をカウンターに置いて立ち上がったところで店長は、そう言えばお前さんはどこから旅をして来たんだ?と聞いてきたので外套の男はこう答えたのだった。
「僕は・・・日本という遥か遠くにある国から旅をしています。しばらくはこの国にいるのでまた来ますね。」