目が覚めたらそこは・・・
「はぁ、なんもする気にならん。」
今日は予定も何もない休日。目覚まし時計に起こされることもなく気の済むまで寝て、掃除と洗濯を終わらせた。
予定も何もない休日?ほとんどがそうだ。転勤族である上に、地元の近くの職場へ配属されなかった俺は周りに知り合いもいない土地で働いている。人見知りをしてしまいがちな俺が知らない土地でうまく生活出来る訳もなく、休みは一人で過ごすことがほとんどだ。一人ドライブ、一人映画館、一人カラオケ、一人焼肉などはもう何度も経験した。一人でも過ごせるんだ!何てことを自分に言い聞かせて無理に行動しただけだが・・・。ただただ寂しさ取り巻いてしまうことに気付いてからは家でゴロゴロと過ごす休日ばかりだ。彼女の一人でも居ればとは思うが、乗り気じゃない日にも会わなければならないのも面倒だし、欲求が溜まれば風俗でも行けばいい。付き合うよりもお金も浮くし、気を使うこともない。そんなことを思ってしまってからはこんな生活だ。
こんな俺は今日も滅多に着信がないスマフォを片手に録画したアニメを眺め、あり余ってる時間を消費する。
「こんな状態で何もしないなんてありえないよな。」
眺めていても内容はわかるもので、主人公の男とヒロインの一人である女性と同じ部屋に泊まっていて、何もせずもじもじしたまま朝を迎えている。ありえないことだからアニメやドラマ、映画になるのはわかっているが、「俺ならこうするなぁ」なんてしょうもないことを考えてしまう。そんなことを考えているうちにうとうとしてしまい、昼寝という素晴らしいひと時を楽しむのであった。
「んん・・・。まぶしっ。」
強い光により目を覚ます。
「あんま寝すぎたら夜寝れなくなるし起きるかな。」
次の日が仕事ということもあり寝過ぎないよう起きることとし、眠い目を擦りながら開けると
「ん・・・・え?な、なんだここ?」
さっきまで寝ていたベットの上でなく、生い茂った草の上で身体を起こしていた。
「・・・夢か?・・・夢の中で夢って思うことなんかあるのか?」
不思議と変な感覚はない。身体を起こし周りを見渡すと視界に映るのは木々だけであった。
「なんだよここは・・・見たこともないぞ・・・。」
夢の中にもかかわらず初めての場所に戸惑っていると、大きな音とともに大地が揺れ、雄叫びが響き渡る。
「なんなんだよ一体!」
眠気などとうに吹き飛んだ身体を音の鳴るほうへ向け歩いていくと、目の前には荒野が広がっていた。その荒野で先程の雄叫びが何であったのかが明白となった。
人と人が戦いを繰り広げてる。それも剣や弓といった武器を使用して・・・。
あまりの光景に見ることしかできない状態だが、そこに人ではない何かが戦いに参加していることに気づいた。
「豚?・・・いや違う、なんだあの生き物・・・。あっちにも・・・ここは異世界ってやつ?変な夢だ・・・。」
戦っているのは人だけでなく魔物といった表現が最もしっくりくる生物が戦っていた。いきなりの状況だが夢だと思うと不思議と見続けることができていた。すると、手を目の前に構えた一人の人物から火の玉としか表現できない塊が生み出され、相手に放たれた。それをきっかけにそれぞれの大群から同じような火の塊、電撃が放たれる。
「おいおい、マジか!ファンタジーかよ・・・。」
目の前の光景に唖然とするも、普段見ることのない夢に少し胸を躍らせて戦いを見続けた。
「ちょっと!そんなところにいて見つかったらどうするの!」
突然の女性の声に後ろを振り返ると、そこには二人の女性がこちらを見ていた。
指をこちらに差している声の主と思われる金髪碧眼女性と、森の手前でこちらを見つめている黒髪緋眼の女性。どちらも10代中ごろといった顔立ちだが、身体つきはどこぞのグラビアアイドルのよう。
日頃の欲求不満が夢にまででてくるのかと思うや否や、金髪碧眼の女性に手を引かれ、再度森の中へ導かれそうになる。
「何とか言いなさいよ!というより隠れなさい!私たちまで見つかるでしょ!」
初対面の女性に怒声を浴びせられ、手をひかれて森の中に入ろうとした矢先・・・
ドゴォォン
後ろから何かが飛んできて、轟音が鳴り響いた。
「しまった!!見つかった!」
「ソフィ!!!」
黒髪緋眼の女性が初めて声を上げた。ソフィと呼ばれた金髪碧眼は足を止め、後ろを振り返る。
「こんな短時間でも・・・。っく、こんなことなら放っておけば・・・」
先ほどの威厳はどこにいったのか、顔を俯かせてしまう。
(え?・・・え??状況判断が出来ん。なにこれ、ピンチ????)
「あんたさぁ、村の人間じゃないよね?見たことない顔だし・・・・。でも・・・なら・・・なんでこんなところに突っ立ってたの!?馬鹿じゃない!?あんたのせいで私たちは見つかったのよ!?」
ソフィと呼ばれた女性は俺の両腕の服にしがみつき、体を震わせながら叫ぶ。
「だめ、ソフィ!彼に気づいてしまった私が悪いの・・・。この人を責めないで・・・。」
森から飛び出した黒上緋眼の女性は俺とソフィの目の前まで来て、しゃがみ込みながら目に涙を浮かべる。
「違う!カノン、あなたのせいじゃない!放っておけばいいのに私が構ってしまったから!!」
目に涙を浮かべたカノンと呼ばれた女性をソフィは俺の手を振りほどき、肩を掴んで慰める。そんな二人に対し、先ほど何かをしてきたであろう五人組は二人に歩みを寄せる。
「クックックッ。こんなはずれに隠れていたとは・・・。やはり村の連中も気づいていたのか。我々の目的がお前たちだということに。」
女性二人はお互いを抱きしめ、五人組を睨みつける。五人組の一人、真ん中にいて一番図体が大きい男がその視線を外してこちらを見る。
「おい、こいつは何だ?村の連中はこの二人のために全員あの場で戦ってるはずだろう?」
その一言で、全員こちらを見る。
「え?いや、俺は・・・村の人間ではないし、この状況が理解できなくて戸惑っているというか、何というか・・・・」
「殺せ。」
「御意。」
俺に殺意が向けられた。二人を見るとお互い抱き締めあい、目をつむぎ震えている。
ええええええぇぇぇぇぇぇっっっっっっ!!!!????わけわかんねぇ!せっかくこんなファンタジーな夢を見れてるっての殺されんの、俺?殺されたショックで目を覚ますってこともあり得るよな・・・。え??・・・・・恐怖で足が震えてんじゃん。夢の中だからって怖いものは怖いよな。死ぬってどういうものかもわかんねぇし。
先ほどの攻撃で破壊された木を見る。どう考えても粉砕され、焼かれて焦げている。
ダメだ。死ぬことしかイメージできん。あーあ、いい夢だったのにな・・・。あの力があれば助かるんだろうけど・・・・。
何かが倒れる音がした。ソフィとカノンはその音に身体をびくつかせる。その音が鳴ったら次は自分たちの番、そう思っていたからだ。しかし、聞こえた音は一つではなかった。同時に5つの音が重なって聞こえている・・・。ソフィとカノンの鼓膜を震わせた音は二人に疑問を抱かせ、目を開いて視線を音源の方へと向けさせた。
!?
そこには二人の目の前に立ちはだかった五人組が倒れていた・・・・・・。