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新技! その名も『ワロスブレイク』

 ザザーっと大海原を切って進む海賊船。

 空は快晴。吹きつける風は生温く、舌を出してみるとほんのりとしょっぱい。

 海は広いな大きいな。見上げれば、かもめが気持ちよさそうに遊泳し鳴いている。実に良い航海日和だ。

 バタバタと風にはためくドクロの旗も、大陸への航海を喜んでいるように見えた。

 久しぶりの船旅へ期待に胸を膨らませていると、「――なるほど」とヴァネッサが黒いビキニに包まれた褐色おっぱいを、腕組で持ち上げながら言った。


「見慣れない顔がいると思ったら、オヤジの新しい仲間だったか」

「そうそ。アタシは楓、クラスはギャル忍者。よろしくね!」

「うちはヴァネッサだ、この船の船長をしてる。よろしく」


 どちらからともなく手を差し出すと、仲間の契りを交わすようにしっかりと手を握る。

 うむ。女子が仲良くしている図というのも、乙なものだな。なにより微笑ましい。

 良い絵だと心に刻み、一つ頷いたところで……。

 いい頃合いと思い、わしはまたぞろ道具袋に手を突っ込み、皆へのプレゼントを取り出した。


「おっ、そうだそうだ。日頃から世話になっているお前さんたちにも渡したいものがあるんだった。わしからの感謝の気持ちだ、受け取ってくれ」


 ライア、ソフィア、クロエ、ヴァネッサにそれぞれラッピングされた紙袋を渡した。


「あたしらにも? ……もらってもいいのか?」

「もちろん。そのために買ってきたんだからな」

「勇者様にしては気が利きますね。ありがたく頂戴しますわ」

「うむ、少々入りづらい店ではあったが、わしも頑張ったぞ」

「ありがとう勇者さん!」

「気に入ってもらえるといいのだが」

「うちにもくれるとは、太っ腹だなオヤジ!」

「伊達に太鼓腹はしとらんぞ?」


 礼やらなんやらそれぞれ述べると、皆一様に袋の封を破る。

 その様子をニマニマしながら眺めていると。

 中身を見た瞬間に、嬉しそうな顔をしていた女子たちの表情が刹那的に素に戻った。


「……なんだよ、コレ?」

「ライアはカチカチのつまらん鎧ばかりだからな。もう少しフリフリしたものをと思って、可愛らしいウェイトレスの服を買ったのだ。胸が強調されるミニ丈だぞ! あ、ちなみに、わしとお揃いではないから安心するのだ」


 綺麗に包装された衣装を手に、ライアは頬をひくつかせた。

 白とオレンジのウェイトレス服が、ライアのポニーテイルと合わさり、実に可愛らしい印象を与えることだろう!

 歩くたびに揺れるおっぱいおっぱい! もう胸いっぱい! まだ着とらんが。


「それで、私のこれは一体なんですか?」

「ソフィアは尻が素晴らしいからな。店員に訊いたら、『ブルマが良いですよ!』と力説されたから体操服を買ってきたのだ。似合うと思うしな! サイズはどうだろう、少し小さいかもしれんが、まあいいだろう」


 袋の中を覗き込むソフィアは、熱の感じられない寒風のように冷たい目をしていた。

 サイズの小さいものを選んだのは、その方がより尻が強調されると踏んだからで。ということはこの際黙っておこう。

 紺のブルマに包まれたムチッとぷりんとした尻! いまから楽しみでならんな。


「わたしのは二つ入ってるけど……」

「ああ、クロエは二種類だな。クロエを初めて見た時に着ていたバニースーツが忘れられなくてな、グランフィードのカジノでつい頑張って取った景品が一つ目のそれだ。また出会えたら渡そうと思っていたが、期を逸していたというかタイミングがなかなかなくてだな。前に玉藻を見た時に着物を着たそうに見えたから、丁度いいと思って、その着物と一緒に渡そうと考えたのだ」


 濃紺の着物に鮮やかな花の描かれた白い帯。

 見た目涼し気な印象を与える銀髪のクロエに良く似合うと思う。

 クロエは「そ、そうなんだ」となんだか微妙な顔をして、「玉藻ちゃんを見てたのは、耳と尻尾が気持ちよさそうだなって思ったからなんだけど……」と呟いた。

 ……まあ、勘違いとはいえ。プレゼント自体は喜んでくれているようだから良しとしよう。

 それにバニーだ! あの時の感動をもう一度っ!


「おっ? ってうちのはビキニ? しかも白って。あんまり今と変わらない気がするが」

「なにを言う! ヴァネッサの綺麗な小麦肌には白がよく映えると思うのだ! それにお前さん、下は普通に色気のない黒のパンツではないか! やはりわしはビキニショーツも見たいのだ! 下心ではないぞ? これは願望だ!」

「オヤジ、それ変わらないだろ……」


 脱力するように肩を落としたヴァネッサ。ぷるんと揺れるおっぱいは、いまにも黒ビキニから零れ落ちそうだった。

 つい押し迫ろうと前のめる体を理性でどうにか引き留める。

 せっかくのプレゼント作戦が台無しになっては困るからな! いまはぐっと我慢だ。


「まあ船旅も長いだろう。その間、着てくれても構わんぞ? 遠慮することはない」


 そう告げると、ジトッとした眼差しが一斉にわしへ向けられた。

 別にドMではないが、ちょっぴりぞくぞくする。うむ、悪くない。

 とまあ、少し悪戯が過ぎた気もするが。それはそれと、一つ咳払いで間を置いた。


「まあなんだ。お前さんたちに感謝しているのは本当だ。いつもありがとうな」

「な、なんだよ急に畏まりやがって。こんなもん渡されてから言われても反応に困るんだよ」

「本当ですわ。いつ着るんですか、これ」

「着物ならまだしも、バニーとかもう着ないし。黒歴史だし」

「まあうちは水着だから別にいいんだけどよ」


 女子たちは口々に言って、わしを責めてくる。しかしその言葉に棘は感じない。

 一定の好感度は得られていることが窺えて、なんだか嬉しくニヤニヤしてしまうな。

 そんな折。楓が「あはは!」と愉快気に笑った。


「やっぱオジサン楽しいね! このパーティーの一員になれて、アタシ嬉しいよっ」

「む、そうか? わしも楓を仲間に加えられて喜ばしいぞ。愛い女子は多い方がいいからな」


 キャッキャと楓とのおしゃべりに興じていると、方々から仕方なさそうな小さなため息が聞こえた。


「まあ、おっさんの気持ちは嬉しいけどな」


 ライアのこぼした言葉に、皆それには同意だと気持ちは受け取る旨を口にする。

 ハーレムが近づいていると思うと、それだけで鼻の穴が膨らんでしまうな!

 興奮を鼻息で荒く吐き出すと、「――それはそうと、」と紙袋を道具袋にしまいながらライアが言った。


「おっさん、酒呑童子とオロチの時に使ったワルドブレイクって、また絵本からパクったのか?」

「なにを失礼な。あれはわしが考えた末、酒呑童子の時に試してみたら案の定威力が高かったから、オロチの時にも使用した歴としたオリジナル技だぞ?」


 ストラッシュは飛び道具故、飛距離によって威力が減衰されるだろうと思い、飛ばさずにそのまま叩きつけたらどうなるのかと試してみたのだ。そしたら、やはりより強力だったという話をしたら、「なんだ。眼鏡の勇者の続編から取ったのかと思ってたぜ」とライアは肩をすくめた。


「あの話に続編なんてあったのか?」


 関心をもって呟くと、「ああ」と一つ頷いて簡潔に説明してくれた。

 絵本の中の魔王というものは次々に出てくるもので。いったん平和になった世界に再び脅威が訪れた。

 その魔王を倒すために立ち上がったのは、眼鏡の勇者の弟子だという。

 そしてその話の中で、わしと同じように考えた弟子は飛ばすアロータイプとは別に、叩き付けるブレイクを使用したそうだ。


「なるほどな。やはり考えることは皆同じなのか。ともすれば、わしもそれなりに戦い慣れてきたというわけだな。やはりわし、勇者なのだ! わはは!」

「ったく、また調子に乗ってんな。んでだ、本題はここから、」

「今までのは前振りだったと? ずいぶん長いが、まあいいだろう。それで?」


 訊ねると、ライアは道具袋から一体の木偶人形を取り出した。

 いつぞや戦った変な踊りをしたやつにも見えるが、どうやらただの案山子のようだ。その案山子に鉄製の防具を取り付け、ライアはメインマストの前に置く。


「そんなものを設置してどうするのだ?」

「おっさんに聞くが、ワルドストラッシュはいま何発撃てる?」


 訊かれたわしは、得意満面の笑みを浮かべてふんぞり返った。


「聞いて驚くでないぞ? オロチを倒してから二発撃てるようになったのだ!」

「十分だ。オーファルダムに着くまでに、おっさんには新しい技を覚えてもらう」


 驚き、そして褒めてくれるかもと期待したのに。ずいぶんとあっさりと返され意気消沈。

 そんな項垂れるわしに構わず、ライアはまたも絵本の話をした。

 ワルドストラッシュのアロータイプ、そしてブレイクをタイミングを合わせて重ねたクロスを会得しろというのだ。


「二つを、重ねる?」

「ああ、ものは試しだ。木偶に打ち込んで見ろ――」


 わしは中央のメインマスト前に置かれた木偶を、真正面から見据えた。


「おいオヤジ、頼むからマストを破壊してくれるなよ? またイルヴァータに戻るとか面倒この上ないからな」

「大丈夫だ、加減はする」


 ……出来るとは言えんが。

 静かにブランフェイムを抜き放ち、わしは逆手に持って構えた。

 まず飛ばす方、そしてブレイクだな。


「いくぞ! ワルド、ストラッシュ!」


 思いっきり腕を振り抜いて、まず輝く剣閃を飛ばす。怪音を響かせながら飛んでいく光の刃。

 そして、それを追いかけるように駆け出し、


「――って追いつけん!」


 ストラッシュはあっという間に木偶に到達したため、わしが手を繰り出すよりも先に人形を木っ端微塵にした。

 すかさず、二体目の木偶人形を用意するライア。


「おっさん、自分の足の遅さも考慮して振り抜けよ」

「そ、そうか。そういう手もあったな」

「解ったところで、勇者様おやすみなさい」


 背後でソフィアの声を聴いた瞬間、後頭部に衝撃を感じ突然目の前が真っ暗になった。

 遠くの方で、「気が利くじゃねえか」「手っ取り早く眠るにはこれしかないでしょ」という二人の会話を聞きながら気を失う。



 ――目が覚めると、世界はすでに暗くなっていた。

 仰向けに空を仰ぐ。大きな月がわしを見下ろし、無数の星々が煌き瞬いている。

 船にはランタンの明かりが灯り、穏やかに船は揺れていた。

 

「ようやく目が覚めたか、おっさん?」

「む、ずいぶん寝ていたようだ」


 固い甲板で寝ていたせいか少々痛む体を起こす。

 聞こえた声に振り返ると、ライアが舷縁にもたれかかりこちらを向いていた。

 月明かりの下で見るライアはいつもの男勝りではなく、なんだか優しい顔をしているように見えた。

 周囲に目を配ると、すでに皆の姿はない。

 船の帆も畳まれ、錨も下ろされている。数名の船員がいるだけで、凪ぎの海上は静けさに満ちていた。


「……皆は寝たのか?」

「そりゃ真夜中だからな」

「もしかして、わしが起きるまで待っていてくれたのか?」

「ま、あたしが新しい技を覚えろって言ったんだしな。それが道理だろ?」


 仕方なさそうに肩をすくめるライア。舷縁から体を離してこちらへ歩いてくるその顔が、ほんのりと赤く色づいていた。

 じっとその顔を眺めていると、気恥ずかしそうに顔を背け海を眺める。


「ところで、昼間の注意点は覚えてるか?」

「ん、ああ。自身の足の遅さも考慮してストラッシュを放つというやつだな」

「よし、覚えてんなら早い。さっそくやってみな」


 誤魔化すように急かし、ライアはくいっと親指で示す。今度は鋼に身を包む木偶人形と対峙させられた。

 もう少しからかったりなんかして遊びたかったが、ずっと起きていたのならライアも眠いだろう。

 わしは言われた通り、ちゃっちゃと技を習得することにする。

 寝起きで鈍る体をストレッチで解し、わしはいつものように剣を構えた。

 自分の足の速さを計算し、何度も頭の中で腕振りを繰り返す。

 腕の振り、ストラッシュの速度、そして駆け出しブレイクを交差させる位置。すべてのシミュレートを終え、わしは剣を持つ手に力を込めた。


「おっさん、決めろよ」

「任せるのだ。いくぞ、ワルド――ストラッシュ!」


 夜闇に弾けた光輝の刃。

 いつもよりもかなり遅い速度だが、再び構えなおして駆け出しても十分間に合う。徐々に距離を詰め、木偶にアロータイプが直撃する刹那――「ワルドブレイクッ!」わしは手加減しつつブレイクを重ねた!

 人形に刻まれるX字。

 交差する一点に膨大なエネルギーが集約し、迸った閃光が弾けて爆散した。

 人形は木っ端など生温いレベルで吹き飛んでいる。


「んな……なんという威力だ。加減してこれでは、全力でやったならばどれだけの」

「やったじゃねえかおっさん」


 あくびをかみ殺しながら褒めるライア。

 目尻の涙を拭い、わしの肩を叩いてきた。


「んで、名前はどうするんだ?」

「名前?」


 そうだ、技に名前を付けねばならんな。

 命名するのは楽しくもあるが、なかなか頭を悩ませるものだ。

 うーんとしばらく唸ってみる。

 ワルドストラッシュとワルドブレイクをクロスさせるのだから……。

 ワルド、スト、ブ、ロス……なんか違うな。

 ワルド、クロス、…………お?


「ワロス、ブレイク……ワロスブレイクだ!」

「ダサっ!」

「そうか?」

「前から思ってたけどよ、おっさん、ネーミングセンス壊滅的だよな」


 人が意気揚々と気持ちよく命名したのに、壊滅的とは失礼な。

 わしは少しだけすねてみせた。


「そうでもないだろう。なかなかかっちょいい名前にしてやれたと思うのだがな」

「どこがだよ。つうか頼むから戦闘中に叫ばないでくれよ」

「なぜだ?」

「気が抜けるだろ」


 やれやれと呆れ、ライアは船室の方へ向かって歩き出した。


「寝るのか?」

「ああ、新技も見届けたことだしな。おっさんも休んだ方がいいぞ。こんなところにいると魔物に襲われるからさ」

「うむ、ゴミを片したらわしも休むことにする。ライアよ、ありがとうな」


 礼を述べると、「いいって、仲間だろ」そう言って背中越しに手を上げ、ライアは船室へと消えた。

 わずかに残った木片や金属片を片付けながら、いまのこの感覚を忘れないようにとイメージに刻む。

 片付け終えたわしも、綺麗な月を眺めてから船室へと降りた。

 こうして仲間と助け合いながら、わしも共に成長していける。

 その現実に感謝しながら、再びわしは眠りに就いたのだ――。

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