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ディーナ神殿を目指して

 翌日。

 小鳥たちが鳴き始める時間に宿を出たわしら。初夏の爽やかな風とやわらかな朝日に目を細め、大きく深呼吸する。

 緑はあるが、今までの町などに比べると少し埃っぽく感じられた。まだ町の外を見ていないからなんとも言えんが、イルヴァータで起こっていることを考えれば納得も出来る。

 わしらは今、大通りにてこれからどうするかを話し合っていた。

 円状に並びある者は腕を組んで、またある者はうつらうつらと舟をこぎながら会話に興ずる。


「イルヴァータ第一の目的として、クロエの声を奪った魔物を退治するのだろう?」

「まあそうなるが。おっさん、あんまり前のめんなよ」

「なぜだ? さくさく倒して声を取り戻し、女王にも感謝されて親子共々ハー……いや、クロエの無事を女王に報せてやるのが良いと思うのだがな」


 口が滑りそうになり慌てて言い直すと、ライアの見咎めるような視線が飛んできた。しかしすぐさま肩をすくめて息を吐く。


「そりゃあ早いに越したことはないだろ。女王の様子見ても相当心配してるみたいだしな。でもよく考えてみろ」

「なにをだ?」


 尋ねながら自分でも思考してみる。

 パーティーの女子たちのことならしょっちゅう考えているがな。

 ライアとヴァネッサのおっぱいに挟まれたい! ソフィアのお尻を思いっきり揉みしだきたい! クロエにはまたバニースーツを着て欲しい! そしてみんなハーレムに入れたい! などなど。

 もっと過激なことも考えているが……それは内緒だ。

 ついそんなことを思いながらニヤニヤしていたら――


「勇者様、クロエの話をもう忘れたのですか?」


 ソフィアの力ない言が耳朶を叩いた。

 失礼な、忘れるわけなかろうと否定し、わしは言ってやった。


「エルフの女王の能力を奪った魔物を退治しに行き、逆に声を奪われてしまった、という話だろう?」

「理解しているではないですか」

「何の話だ?」

「ここまで言っても分かんねえのか。つまりだ、上級魔法が使えるクロエが負けたんだぜ? 一人だったと言っても、高位の魔法使いがだ。いまのあたしらが勝てるか分からねえ、ってことだよ」

「そんなに強かったのか!?」


 クロエに目をやると、いまだこっくりこっくりと眠そうに頭を振っていた。どうやら朝に弱いようだ。これからはもう少し時間を遅くしてやろう、そう思った。


「とにかく。あたしらの目的は、まずディーナ神殿でクラスチェンジすることだ」

「それが妥当な案ね」

「ふむ、まあお前さんたちが言うなら、それが一番安心できるか」


 大して反論も浮かばず、素直に首肯する。

 パーティーの初期の頃から旅をしている二人。その言葉には妙に説得力というか含蓄があった。

 それに、わしもさらなら高みへ行けるかもしれんし。

 新たな能力の開花か、これは今から楽しみだ!

 ……といっても、現状なにかしらの力に目覚めているわけではないのだが。使える技なんかは完全にライアから教わったものだし。しかし『真』と頭に付けば、少しは変われるかもしれんしな。


「よし、では一先ずディーナ神殿を目指すことにしよう」


 目的地も定まったということで、わしは寝ているクロエの肩に優しく手を添えて揺り起こす。

 体の揺れに合わせて、コルセットにより強調された大きくもなく小さくもないローブ越しの美乳がふるふると揺れる。

 わしの目はその動きに釘付けだ! 勇者特権、役得役得。

 すると少し悪戯が過ぎたか、揺らしすぎたようでクロエの体が前に傾ぐ。


「危ない!」


 わしは咄嗟に体を受け止めようとし手を差し出す。

 その手はクロエの右胸を掴んでしまったが、決して下心からではない。

 とはいうものの、やはり蠱惑的なやわらかさには抗えないスケベ心。思わず、思わずだぞっ!? おっぱいを揉みこんでしまう。

 ライアに比べれば大きさはないが、大変よろしい感触にわしの心臓は破裂せんばかりに高鳴っている!

 なにせ久しぶりだからなあ……。

 しみじみと揉んでいると――


「いつまで触ってんだ、この変態がッ」

「いたっ!」


 久方ぶりに頭を鞘で小突かれた。王冠が下がり、視界をふさぐ。

 左手はクロエの右乳に添えたまま、右手で王冠を戻し振り向くと、ライアが女の敵でも見るような邪見を向けていた。

 わしは女子の味方だというのに!


「なにをする、わしはただ起こそうとしただけだぞ?」

「わざわざ胸揉むことはないだろうが」

「……」


 いまにも口論になりそうな一触即発の空気の中、微睡みの中を彷徨っていたクロエがようやく目を覚ました。


「おはようさん、クロエは寝起きも愛いな」


 眠気眼を擦る姿にニコニコしていると、普段はない感覚を覚えたか。その違和感を確かめるようにクロエの視線は自分の胸元へ下がる。

 目を瞬き、ややあって目を瞠ると、見る間に顔が真っ赤に染まった。

 バッ! とわしの手を解き胸元を隠して後ずさると、もの言いたげな瞳が睨んできた。


「いや、勘違いするでない。お前さんの胸を揉みしだきたいなどという邪なことは思っておらんぞ? 前のめりになって倒れそうだったから支えただけで、な?」

「いまのセリフに核心があったな」

「ええ、本当に」

「よ、余計なことを言うでないっ――あっ」


 余計なことを口走ったのは自分自身だった。

 クロエは柳眉を逆立て、仇でも見るような目をして睨みを利かすと、おもむろに手をかざす。

 瞬く間に手の平の上に火球が現れ、刹那弾けた。すると意思を持つように、分裂した無数の小さな炎弾がこちらに向かって降り注いできた!


「のわッ?!」


 わしは一生懸命に避け、なんとかすべてを避け切った。まさしく間一髪、紙一重の回避だ。自分でも信じられん、まさか一つももらうことも掠ることもなく避けられるなんて。

 見れば地面にはいくつもの穴が開いていて、そこから煙が細く立ち上っている。あんな小さな弾だったが、まあまあな威力があるようだ。


「はぁー、危なかった。けどわし、やはり勇者補正がかかっておるのかもしれんな。身体能力が向上しているようだ」


 一人得意げに鼻を高くしていると、


「納得してるところに水差すようで悪いんだけどさ、クロエはわざと外してやったんだと思うぜ」

「勇者様、よく考えてみてください。あれだけの数をそのみっともない体型ですべて避けられると思います?」


 なんとも遠慮のない言葉。もう少し配慮してくれてもいいのに……。

 まあ、わしもなんとなくそんな気はしたのだが。旅はポジティブにするものだろう? だからあえて考えないようにしていたのだ。

 水を差された事より、勇者補正がないことに落胆を禁じ得ない。

 肩を落としていると、すっと目線の間に紙が差し込まれた。


『もうお嫁にいけない』


 クロエはずいぶんと古風な考えを持っているのだな。

 そんなことはない、そう口を滑らしそうになり、わしは慌てて言葉を変えた。


「そ――そうか、ならわしが面倒を見てやろう。なに気にすることはないぞ。魔王を倒して平和になった暁には城をどこかに作る予定だからな! 皆に苦労はさせん、どうだ?」

「どうだ、じゃねえよ。下心スケスケじゃねえか」

「スケスケなのは女子の衣服と下着だけでいいと思うが。わしも透けとるか?」

「見え見えすぎて気持ち悪いぞ」

「ふふ、そう妬くでない。わしは皆のことを愛しておる故。お前さんたちも問答無用で迎えるつもりだ」


 その日が楽しみでつい笑みがこぼれる。毎日毎夜可愛がってやろう。

 妄想に耽っていたら、「相変わらずスケベなおっさんだ」と呆れるライアの声。順繰り見ていくと、皆一様に似たような反応をしていた。

 いや、いまはこれでよい。わしが真の勇者にさえなればきっと評価も改まるだろう。


「さて、ではディーナ神殿に急ぐとするか!」


 わしは天高く腕を掲げて、リコルタの出口へ向かって意気揚々と歩き出す。と――「うちはこの町に残るよ」ヴァネッサのそんな言葉が背後から聞こえた。

 わしは聞き捨てならず光の速度で振り返り詰め寄る。


「なぜだっ!?」

「まあ船を守んなきゃいけないし。それにオヤジたちをこの先航海に出すには、フォアマストの修理もしなきゃだしな」

「いやしかし、クルーたちがおるではないか」

「あいつらは船のことには詳しいけど、戦闘に関しては砲撃くらいしか出来ないから」


 確かに、船上での戦闘の際戦いにはとんと参加しなかったな。

 見た目はあんなにがっちりしているのに、戦闘は出来ん女子たちなのか。そうか。

 しかし、ヴァネッサのおっぱいとしばしの別れかと思うと、涙もちょちょぎれるというもの。


「なに泣いてんだよオヤジ。今生の別れってわけじゃないんだ、涙拭けよ」


 そう言って差し出された、ヴァネッサの匂いのするハンカチで涙を拭う。

 寂しくなった時のおかずにでもしよう、そんなことを思いながら道具袋にしまおうとし、ライアに腕を掴まれそのままライアの道具袋へ――


「ああッ、なんてことをする!」

「ふん」


 鼻であしらわれた。どうやら意図に気づいたようだ。さすが古参といったところか、鋭い。


「そんなわけで、うちは残る。そうだ、エルフの女王のところに行くなら、マスト用の良い木があったら分けてくれるよう頼んでくれないか?」

「女王にか?」

「そ。健在ならまだ森はあるだろうし、魔物を倒せば能力も返ってくるんだろ? ならイルヴァータの森林も復活すると思うからさ」


 東の大陸やジパングへ行くには船が必要らしいし。自由に使っていい船があるというのは旅をする上で頼もしい。

 その船の船長の頼みなのだ。使わせてもらう身からしたら聞くべきだろう。

 たしかにヴァネッサとしばし別れるのは辛いが、それも魔物を倒すまでだ。

 立派な勇者となって魔物を打ち倒し、そしてエルフの女王から立派なフォアマスト用木材を貰い受けて帰ってこよう。

 そしてわしに惚れ直すであろうヴァネッサと一夜を共にするのだ!


「その頼み、しかと聞き受けた!」

「頼んだ」


 そうして肩を叩かれたわしは、今度こそリコルタの出口へ向かった。

 次の目的地はディーナ神殿。皆でクラスチェンジをして、一回りも二回りも強くなってみせよう。

 そう心に誓った次第だ。


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