表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/151

奇怪な村

 ボクシールの町の外のゴーレムがいなくなり、旅人や行商と共に町入りしたわしら。

 行商の男は取引先の店を回ると言って、すぐに別れを告げた。

 とりあえず町を見て回るかということになり、中を進む。大きな石材をそのまま削り出したような家が立ち並ぶ白い町は、ひどく目に眩しく映った。

 外で旅人らが話していた物も気になったので、わしらはひとまず武器屋へ立ち寄ることにした。店には宝石が埋め込まれた、剣や杖などが取り揃えられている。

 店先ではお試し用の杖を試用する旅人らがいた。設けられた人形に向かって振ると火が出たり、氷や電撃を発生させたりと種類は様々なようだ。


「ロクサリウムには魔法武器が売っておるのか」

「入門用しかないようだけどな」

「上位武器が売ってたら、外の鉄ゴーレムくらいそれでどうにか出来るわよ」


 それもそうだ、とライアが肩をすくめる。

 それにしても面白そうだな。わしもあの剣があれば、昔絵本で読んだ魔法剣士になれるかもしれん。

 そんな期待を抱きながら、炎を纏わせる剣の値段を見てみた。5000G。


「入門用でこんなにも高いのか!? 鋼の鎧と変わらんではないか」

「宝石が貴重なものだからな。低レベルの魔法でもそれなりに値段はする」


 魔法剣士になる夢は諦めることにしよう。でもまあ、わし勇者だし? 別にいいかと思える。

 防具屋にも魔法軽減の装備が売っているらしいが、どうせわしには手が届かんし。二人もまだ大丈夫だと言っているからそこはスルーし、道具屋に向かう。

 すると先ほどの行商の男が、店に納品しているところに遭遇した。

 わしらを見つけるなり、「あ、町長が呼んでましたよ」と言われ、案内されてなぜか町長の元へ赴くことになった。


「――あなた方のおかげで、町の流通が回復しました。町長の私からお礼を言わせてください。ありがとうございます」


 どうやら、あの魔法使いをわしらの仲間だと思っているらしく。町長はわしらに感謝を述べて謝礼まで払ってきた。

 ゴーレムをやったのはわしらではないのに。

 金を受け取ることへじゃっかん罪悪感を感じたが、しかし、またあの女子に出会った時に渡せるという、近づくための口実になるかと思うことにし、それを受け取った。

 すると町長はなにやら揉み手をしながら、申し訳なさそうな顔をして、


「ご迷惑かけついでにもう一つ、お頼みしたいことがあるのですが……」

「うん? まだ困りごとがあるのか?」

「はい。実は街道の西に村がありまして。そこの近くの宝石鉱山で、この町の武具に使用する宝石が採石できるのですが。そこからの物品がとんと来なくなってしまったのです。旅人の話によると、なんだか村の様子がおかしいという話でした」

「おかしいというのはどういう?」


 尋ねると、町長は聞きかじった話を口にした。

 どうやら、村人たちが笑ったり怒ったり泣いたりと それしか出来ないような感じで、話をすることもままならないのだという。

 確かに聞くだけだと、おかしいとしか言いようがない状況のようだ。


「これは魔物の仕業かもしれません」


 魔物と聞いて、わしは道具袋から百科事典を出して開き、ロクサリウムの頁へ。

 特徴を順に見ていき、それらしい特徴をもつ魔物を見つけた。

『エデエリン』

 人の感情を千々に乱す魔法を使うと書いてある。対策するには耳栓が必要。かかった場合は、エデエリンを倒すことでもとに戻る、だそうだ。

 図鑑によると、もう少し先で出てくるようだが……。


「魔物が絡んでおるのなら、早急になんとかせねばなるまい」

「そうですね。いま出れば、陽が出ている内に着けるところにあるようですし」

「そうと決まれば、さっさと行こうぜ」


 町長からよろしく言われたわしらは、道具屋で耳栓を購入し急ぎ町を出た。

 行商の男が町の外で待っていてくれ、途中までなら送ってくれるということでそうしてもらった。

 やっぱりわしだけあぶれたが……。


 そうしてかなり日が高いうちに噂の村、ゴンザスに到着した。

 一目見て奇怪だと思った。

 話で聞いた通り、外に出ている村人たちは皆笑ったり怒ったり泣いたりを、決まりごとのように繰り返している。

「あっははははは!」「てめえ笑いすぎだコノヤロー! ぶっ殺されてぇか!」「うぅ、かあちゃんごめんよぅうわぁあああああん!」

 いつからこうなっているのか知らないが、このままでは死んでしまいそうな勢いだ。

 それは家の中からも聞こえてくる。


「早いとこ片付けねえと、ヤバそうだぜ」

「そのようね」


 宝石鉱山は村の奥にあるそうだ。

 わしらは駆け出し、その場所を目指す。すると木の柵の奥に、岩壁に掘られた穴を見つけた。すぐ側には、ゴンザス宝石鉱山と立て看板も見える。

 わしらは迷うことなく、鉱山内部へ進入した。

 ソフィアが松明を灯してくれたので、今回も視界確保は問題ない。

 それにしても、わしもずいぶんと度胸が付いてきたな、そんなことを考えながら深部を目指す。

 敷かれたレールをたどりひたすら道なりに行くと、やはり拓けた場所に出た。

 トロッコやスコップが変わらず放置されている。

 しかし以前の鉱山とは違い、ここには背の高い足場が組まれていた。坑内は高所まで満遍なく削られ、ところどころ宝石のような輝きが露出していた。


「しかし、魔物の姿はないな」

「私、上の方を見てきます」

「ならあたしは奥を見てくる」


 ソフィアは足場を駆けあがり、あっという間に頂上へ。ライアは奥の小道を入っていき……すぐに戻ってきた。

 ライアがわしの元まで戻って来るタイミングで、ソフィアもショートカットをして飛び降りてくる。


「小道にはなにもなかったぜ」

「上にもなにもいなかったですわ」

「とすると、」


 わしは一段高いところに建てられた小屋へ目を向けた。おそらく作業員の休憩所だろう。

 魔物のくせに人間気取りか。ふんと鼻であしらいながら、小屋へ近づく。踏み込む前に耳栓を耳穴に突っ込み、各々武器を手にとった。

 先手必勝! といわんばかりにソフィアが突撃する。

 続いてライア、そしてわしの順に押し入った。


「エメなんたらよ、覚悟せい!」

「エデエリンだ」


 耳栓をしているのにライアに突っ込まれたが、よく見ると、いまちょうど耳奥へと押し込んだところのようだ。

 小屋の中には、大きな釜を木の棒でかき混ぜる醜い老婆のような魔物が在った。

 こちらを振り向くなり、もわっと臭い息を吐き、棒を振りかざしながらなにやら口を動かし始めた。


「わはは! バカめ。耳栓をしとるからそんなものは意味がないのだ。くらえ兜割!」


 わしは前方へ跳躍しながら、鋼の剣を上段から振り下ろした。

 ライアに教わった技をさっそく披露できるとは喜ばしい。


「ギィイイエエエエ!」


 魔物は守りに入る動作すら見せず、わしの剣は腕を斬り付けることに成功する。


「ふふん、わしもなかなか役に立つようになってきたな!」


 返す刃で棒を叩き落とす。鋼の剣の扱いにも慣れてきた気がする。

 必死になにかを呟き続ける魔物に憐みを感じないでもないが、人々に害を成すのなら駆逐せねばなるまい。

 もう一太刀、斬り付けてやろうと剣を振りかぶったところ。

 魔物は憤怒を表すように目を真っ赤に充血させ、腕をこちらへ伸ばしてきた。


「危ない!」


 ソフィアに脇腹辺りを蹴られ、わしはふっ飛ばされる。頭上から王冠が落ち、頭から小屋の壁に突っ込んだ。王冠をかぶったままだったら、きっと壊れていたであろう衝撃。胴も革の鎧だったらきっと吐いていただろう。鋼でよかったと顔を押さえながら思う。と、

 にわかに、部屋の中が真っ赤に染まる。直後――ドゴォオオン! と部屋の隅で爆発が聞こえた。

 弾かれたように顔を向けると、小屋の角でぶすぶすと炎が燻っていた。周辺にあった棚や皿は吹き飛び、今やくべられた薪と化していた。

 火炎魔法が放たれたようだ。


「おっさん、油断しすぎなんだよ」


 刀を抜いたライアは魔物を。

 ソフィアは備えられていた水にテーブルクロスを浸し、着火した部分の消火に当たる。

 ライアはひと蹴りでテーブルに上がると、そのまま飛び上がり刃を下に向けてエデエリンの頭から刺し貫いた。「ブギャ……」と汚い声をもらしながら魔物は光の粒子となって消える。後には輝く石が残された。

 幸い燃えていたのは小さな木片だったため、ソフィアの消火作業も程なくして終わる。


「終わったな」

「ったくよ、もう少し注意しろよな。魔法を使うって分かってんだろ」

「しかしな、事典には炎を使うとは書いてなかったぞ?」

「書いてなくても、冒険者は注意するもんなんだよ。勇者だろ?」


 この前はまず勇者になれと言っていたのに……。ここぞとばかりにそれを持ち出してくる。まだわし、冒険初心者なのに……。


「なにぶつぶつ言ってんだ?」

「いや、ライアは今日も可愛いなと思ってな」

「おだてても何も出ねえよ」


 照れた顔をしてそっぽを向く。そんな様子も可愛いな。

 小言をくらったことなどそれで吹き飛んでしまった。


「さて、そろそろ村に戻ってみるかな」

「そうですね。村人もきっと元通りになっているでしょう」


 わしらは坑道を出て、日の光の下へ。

 鳥の鳴き声に交じって、村人たちの声が聞こえてきた。笑ったり怒ったり泣いたり、そういった喜怒哀楽の発露だけではない。


「元に戻ったようですね」


 そう、普通の会話がそこかしこで繰り広げられていたのだ。

 人々の笑顔、日常の営み、仕事に勤しむ姿が眩しい。

 そんな村人たちがわしらに気づき、彼らに魔物を倒したことを伝えると、宿にタダで泊めてくれると言い出した。

 断る理由もないので、厚意に甘えさせてもらうことにする。

 ついでに手に入れた光る石について聞くと。ボクシールの北の町に持って行くと、盗賊の鍵をさらに魔法の鍵へ加工してくれるという。


 次の目的地も決まったところで、わしらは村の宿で休むことにした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ