自販機ドン
リアルも頑張れ!私。
「イケメン先輩いい人でしたか?」
「いい人だったよ」
イッ君からもらったパンをウマウマしながら友達二人を見つめています。
「沙織ちゃんの話し合いはスムーズでしたか?」
「壁ドンしてみたんだけど、全然動じなかったよ」
「………なにやってるんですか?」
「いや、ビビらそうと思って」
イッ君は美少女に壁ドンされたらしい。
「良いな~」
思わず口から出てしまった言葉に二人がキョトンとしています。
変なこと言ってごめんなさい。
って思った瞬間、沙織に顎クイされました。
「渚がしてほしいなら、いくらでもやってあげる」
「望んでたものと違うよ」
「ああ、壁ドンだっけ?イケメン先輩にしてもらったら?」
イッ君に壁ドンされたら?
シュミレーションしてみました。
何だか脇腹が、がら空きです。
殴って良いですか?
あ、ダメなやつだ!
「………イッ君が床に転がった」
「渚ちゃん!演者を倒しちゃダメですよ。私の理想では、イケメン先輩が彰太先輩に壁ドンがトキメキます!」
「友里亜、リアルな人でBLの想像しない」
「沙織ちゃんもイケメン先輩は攻めだと思う?」
「だから、ダメだって」
友里亜は可愛い腐女子です。
周りは知らないかも知れないけど結構ゴリゴリの腐女子です。
友里亜ちゃんの年下の彼氏さんは腐男子なんだとか………
仲良しカップルなんだけど、会話はノーマルの人には聞かせられないんだとか。
ちなみに沙織の彼氏は大学生!
しかも、就職先の決まっているエリートなんだとか。
隣のお家に住む幼馴染みなんだって!
定番シチュエーション萌える!
そんな彼氏もち二人が羨ましくて、私は彼氏を作る事に焦ってしまったのかも知れない。
男を見る目が無いのかも。
「………暫く彼氏はいらないな~」
私の呟きに沙織と友里亜が一斉に私を見た。
「ダメですよ渚ちゃん!彼氏って大事なものです」
「一緒にいて楽しくて嬉しくて胸が苦しくなって満たされた気になって」
「共有できるものがあって大事でちょっと雑に扱っても側に居てくれて、許してくれて」
友里亜と沙織は自分の恋人を思い浮かべるように言った。
「幸せなんだね」
私が言うと二人はハニカンダように笑ったのだった。
次の日、学校では沙織がイッ君にアタックした話で持ちきりになっていた。
「アタックしてないから」
私が教室につくと沙織が数人の女子に囲まれていた。
沙織がイライラしているのは明らかで、周りの女子もピリピリしていた。
「おはよう」
私が声をかけるとピリピリ女子の一人が私に近寄ってきた。
「早乙女さんもあんな男に媚び売る女とつるむの止めなよ!」
私は彼女に笑顔を作って見せた。
「沙織が媚び売った所見たの?」
「え?」
「私ね!沙織と仲良いけど沙織が誰かに媚びたとこなんて見たこと無いよ。噂に踊らされて有り得ないことで沙織と気まずくなるのは、私は嫌なんだ!だから貴女も沙織をちゃんと見てから言ってよ!朝からピリピリしてると周りまで嘘の噂話を信じちゃうよ」
私に話しかけてきた子は気まずそうに沙織を見た。
「何よ!」
「た、確かに媚びたりしなさそうだけど………」
「ちなみに沙織の彼氏って滅茶苦茶大人な大学生だから高校生なんてガキっぽすぎて眼中に無いよ」
沙織を囲んでいた数人が気まずそうに沙織から離れた。
「渚が格好良すぎで惚れそうなんだけど」
「沙織には拓郎さんが居るでしょ!」
「拓ちゃんは殿堂入りだよ!」
そう言って沙織は私に抱きついた。
「二人だけでイチャイチャしてズルいですよ!」
そこに、登校してきた友里亜がまざって何時もの三人がそろったのだった。
昼休み、学食の自販機の前でイッ君に会った。
昨日と同じように彰太先輩と幼馴染みの女の人と一緒にジュースを買っていた。
それを見つけた沙織は眉間にシワを寄せるとバーンとイッ君を自販機ドンしていた。
「うわぁ!な、ナギの友達?」
「アンタのせいで女子に目つけられて困ってんだ~どうしてくれんの?」
「お、俺のせい?」
動揺するイッ君。
可哀想。
そんな二人を見ていた友里亜がスマホを構えて二人をゲキシャしていた。
「ゆ、友里亜?」
「自販機ドン!次の薄い本の参考に!チッ何で沙織ちゃんなの?彰太先輩がやってくれたら!糞!」
「友里亜、舌打ちしちゃダメだよ!しかも、口調が荒いよ~!」
友里亜のスイッチが入ってしまったので私の声は届いていません。
普段は良い子なんだけどね~。
「ちょっとアンタ達樹君から離れなさいよ!」
「うっさいな~イケメン先輩が私に口説かれてないって言ってくれりゃぁいいだけなんだけど!」
「私だって!イケメン先輩が彰太先輩を自販機ドンしてくれたら満足するわ!」
イッ君は慌てたように言った。
「君が俺を?ないない!君、俺に興味無いよね?何でそんな話になったの?」
「さぁ?」
沙織はイッ君が否定してくれたから満足したみたいでイッ君から離れた。
「で?俺が彰太を自販機にドンすれば良いの?」
若干やけくそ気味なイッ君は流れるような動きで横に居た彰太先輩を自販機ドンして更に顎クイした。
「キスまでしたら満足?」
「「「「キャー」」」」
学食が黄色い声でいっぱいになった。
写メをバシバシ撮っていた友里亜は膝をついて項垂れると叫んだ。
「わ、私は何で動画にしなかったんだ~!」
「ゆ、友里亜!帰ってきて~!」
彰太先輩が耳まで真っ赤になって顔を両手で覆ってしまっている。
「もう、お嫁に行けない!」
「お前は嫁を貰うほうだろ?」
「樹のアホ!俺を巻き込むんじゃね~」
ああ、彰太先輩………可哀想………
イッ君がゆっくり彰太先輩から離れると沙織が私の肩を掴んで言った。
「アイツ、壁ドン慣れしてやがる!渚は近寄らないで!」
「違!慣れてないから!」
「手慣れた動きで何を言う!」
沙織の言う通り、イッ君の動きは手慣れていた。
あんなに流れるような壁ドンするなんて!遊び人だ!
「遊び人?」
私の言葉にイッ君は焦ったように言った。
「遊び人違うよ!手慣れてたって言うなら………兄貴のせい………」
「カズ君?」
「裕子さんに壁ドンしたいから付き合えって………」
私と沙織と友里亜は顔を見合わせた。
「カズ君は何考えてんの?」
「裕子さんの事しか考えてない脳筋だからさ………」
「「で?」」
沙織と友里亜の"で?"にイッ君は顔をこわばらせて言った。
「兄貴、運動神経良いはずなのにカクカクで……だから!って実地で教えた」
「で、ヒロちゃんにやったの?」
「やったみたい。脇腹殴られて悶えたって言ってた」
さすがヒロちゃん!私と考えることが一緒だ!
「そのお陰でイケメン先輩は壁ドンのプロに成り下がった訳か……」
「プロに成り下がったって可笑しくない?」
沙織がイッ君を追い詰めている。
「イケメン先輩がカズさんを壁ドンしているなんて!美味しすぎる!優馬君とモエモエしないと!」
「友里亜の彼氏は二人の事知らないでしょ!」
「大丈夫!イケメン兄弟のイチャコラ話ってだけでジュルって感じだから!」
友里亜の目がヤバイ。
ヤバイ人の目だ。
「友里亜、一回落ち着こう。深呼吸して」
友里亜が深呼吸している間にイッ君が私の横に立っていた。
イッ君を見上げるとイッ君は困り顔で私を見ていた。
「イケメン先輩、カズさんに言っといてよ!壁ドンって、女子の手編みのセーターと一緒だって」
「へ?」
「大好きな人からなら我慢できるけど、興味ない奴がやったらマジでいらないものの代表」
「………いや、その原理だと兄貴が思っているよりも裕子さんが兄貴のこと好きでも何でもないことに………」
イッ君の顔色が悪くなった。
「大丈夫だよ!ヒロちゃんのは愛の鉄拳だから!」
「………」
不安そうなイッ君に苦笑いを向けて私は言った。
「ヒロちゃんはカズ君を手荒に扱っても大丈夫なぐらい愛があるって解ってるから拳をねじ込んだんだよ!信頼のなせる技だよ!」
自分で言っていてどうかと思うけど………
「裕子さんは兄貴が好きかな?」
「大丈夫。あんなバカップルそんじょそこらに居ないから」
イッ君は安心したように笑った。
イッ君、無駄にイケメン。
周りの女子がため息をついてます。
「貴女、一彦君の彼女を知ってるの?」
イッ君の幼馴染みさんが言った。
「はい。従姉妹です」
「………そう」
幼馴染みさんに滅茶苦茶嫌そうな顔をされた。
ヒロちゃん、彼女に何したの?
私が首を傾げると、幼馴染みさんはニコッと笑った。
怖いと思った。
何だか背中がゾワゾワした。
私は怖くなって逃げることにした。
「二人ともご飯の時間がもうちょっとしかないよ!もう行くよ!」
友達二人の手を掴むと私は教室に急いだ。
ジュースを買い忘れたのに気がついたのは教室についたあとだったのは言うまでもない。
疲れがたまっています。
眠い!




