ナギ 樹目線
変態に見えてしまったらごめんなさい。
女が恐いと思い始めたのは高校の受験を考え出した頃。
うちの中学は弱い野球部だったから三年になった時点で受験に専念するように部活に行く必要がなくなった。
中二まではくりくりの坊主頭だったから三年になった時点でやっと坊主地獄から解放されたって喜んだ。
髪がのびるに応じて女子から声をかけられるようになった。
モテ期到来!
なんて思ったのは一瞬だった。
今まで見向きもしなかった隣の家に越してきた若島キラリが突然幼馴染み面して家に来るようになったからだ。
「樹君は私が居ないと本当にダメだね!」
愕然とした後、恐怖に襲われた。
「自分の事は自分でやるから大丈夫だ」
「私の事心配してくれてるの?でも好きでやってるんだから気にしないで!」
感謝しろと言われてると思った。
「お袋、部屋に鍵付けたいんだけど」
「………あの子話通じないからお母さんも樹が襲われんじゃないかって本気で不安だったのよ……明日業者呼んどく」
「ありがとう」
受験があるからって部屋に引き籠ったりした。
1時間ドアを叩かれた時は死んだら楽になれるかもって思ったりもした。
「あ、キラリちゃん!」
「………一彦君の彼女さん」
「キラリちゃんも受験じゃないの?こんなところでドア叩いてて大丈夫?高校浪人なんかになったら私笑っちゃうけど良い?」
「何なんですか?関係ないですよね?」
「関係ない?隣のドアガンガン叩かれて五月蝿くてカズ君とイチャイチャ出来ないんだけど関係ない?バカなの?」
「なっ」
「バカにはハッキリ言わないと解んないだろうから言うけど目障りだから消えて………空気読めよKY女」
兄貴の彼女の裕子さんにはかなり助けられていた。
若島が居なくなってからドアを少し開けると裕子さんにお礼を言った。
「ありがとうございます」
「イケメンは大変ね」
裕子さんはギラギラしていない。
でも、若島を追っ払ってくれる時はなんだか恐い。
兄貴に言ったら、バカ、ヒロは何時もフワフワしてるのに怒る時はビシッと格好良いギャップがたまんないんだって!って言われて兄貴は変態かも知れないって思ったのは仕方ないと思う。
高校に入って色んな女に絡まれた。
恐い目にもあったが、かわすのもなれた。
その中でも一番大変なのは、やっぱり若島だ。
心休まる時なんて部屋に籠ってスプラッター映画のDVDを見る時ぐらいだった。
一年もそんな生活をすれば、学校なんてものに希望は無くなった。
兄貴と裕子さんに呼び出されたのは学校の帰り道にあるレンタルビデオ屋でゾンビもののDVDを選んでいる時だった。
『樹君は私にカリがあるよね?今すぐここのファミレスに集合!』
裕子さんにはカリがあるし、彼女を怒らせるのはたぶん恐い。
俺は急いで指定されたファミレスに向かった。
ファミレスについて気がついた、裕子さんの機嫌が悪い。
「私の大事な従姉妹のナギちゃんを笑い話の様にフッた男が居るらしくてね」
「今はヒロに逆らったらダメだ!ナギのためならヒロは何をしでかすか解らん」
兄貴の怯えかたからマジなやつだと悟った。
そこから゛ ナギ ゛って女の子の話を永遠かと思うほど聞かされた。
まあ、ヒロさんがそのナギって子を本当に大事にしているって事だった。
「だから、新しい出会いに樹君協力して」
「………!」
「大丈夫だ!ナギは普通じゃないし、面白い子だから」
兄貴が豪快に笑って俺の背中をバシバシ叩いた。
そこに一人の女の子が現れた。
彼女は真っ黒なストレートヘアを腰近くまでのばした日本人形の様な女の子で俺と同じ高校の制服を着ていた。
裕子さんに紹介されるが、彼女の反応が解らないからどうしたら良いか解らない。
馴れ馴れしくされても裕子さんの手前邪険にもできないだろう。
けれど、彼女からは他の女からするようなギラギラとしたオーラが出ていないのも何となく感じていた。
話してみて解った。
ナギは普通じゃない。
ナギの話は面白いし、好みもあう。
一緒に居ると俺の欠けてしまった何かが埋まっていく気がした。
『イッ君』
なんて馴れ馴れしいと思ってしまいそうな呼び方もナギと仲良くなれた証みたいで嬉しいと思った。
ナギともっと話したい。
もっと側に居たい。
気がつけばナギを家まで送って行っていた。
ナギを送った帰り道、俺は映画の記念にって撮った写メを見つめていた。
記念なんて関係なくて、ただただナギの写真が欲しかったんだ。
画面に入る様にってほっぺたが互いにくっつきそうなほど近くによって撮った写メ。
ヤバイ!顔がにやける。
家についてリビングの前を通ると兄貴が顔を出した。
「どうだった?」
「惚れた!」
「そんなに面白かったのか?」
「面白かったって言えばそうかも………ナギの横は居心地がいい!ナギが欲しい!」
一瞬のフリーズの後、兄貴の顔が真っ青になった。
「ば、バカ!半端な気持ちでナギに手なんて出したらヒロに殺されるぞ!」
「半端じゃない!マジで惚れた!ナギの横は俺のもんだ!」
兄貴に考え直せと言われている後ろでお袋と親父がナギを見たいから今度家に連れてきなさい!って言っていた。
俺はそのまま自分の部屋に駆け込むとナギにメールを打った。
『無事に帰還しました!今度の土曜、暇?何もなければ家でDVDでも見ない?』
三十分後にメールは返ってきた。
『お風呂入ってて返事が遅くなってごめんよ!土曜日にイッ君の家に行けば良いのね?了解!』
ちょいちょい気になる事のあるメール。
お風呂って言葉を意識しちゃダメだ!
あと、何で家の場所知ってる?
俺は急いでメールを返した。
『家の場所わかる?』
『ヒロちゃんと一緒に行くよ!ヒロちゃんはカズ君家の話よくしてるからさ。ヒロちゃんは行った事あるよね?』
そういうことか。
ってか一人で来るんじゃないんだ。
なんか………残念………いや、裕子さんは兄貴とイチャイチャするするから俺はナギと………
『DVDは何見るの?』
あっ、DVD見るんだった。
俺は一人で盛り上がっていた事が恥ずかしくなった。
俺が勝手にナギを好きなだけなのになに考えてんだ。
何、うぬぼれてんだ。
まずは仲良くなるところからだろ?
ナギにも俺を欲しいと思ってもらわないとだろ?
………ああ、会いたい。
『ナギは今何やってる?』
思わず送ったメールの返事は、有名なゾンビゲームの画面と一緒に写るナギの写メだった。
まだ乾ききっていない髪の毛を軽くお団子に結んでいる姿は首筋や鎖骨が見えてて色っぽくて一人で悶えてしまった。
『髪の毛ちゃんと乾かした方が良いよ』
『だね!乾かしてきます!おやすみ~!』
『うん。おやすみ』
終わってしまったメールを残念に思いながら送られてきた写メをニヤニヤ見つめた。
兄貴を変態かも知れないって思ったけど、俺も変わらないかも知れないって思ったのはスマホを見つめてウトウトした眠りにつく直前だった。
思ったより変態っぽくなってしまった。