はじまりおわり
剣勢が飛び交い魔法が乱舞している。
元々は荘厳であったであろう城の内装は度重なる戦闘によって見るも無残な姿になっていた。
今は誰も座って居ない斜めに裂かれた玉座がやけに酷く目に付いた。
「これで終わりだ魔王よ。」
気付くと戦闘が終わっていたらしい。
荒れ狂っていた魔法や剣の音が止みいつの間にか苦しいほどの静寂が周りを包んでいた。
煌びやかな鎧に身を包んだ大男がこれまた輝かんばかりの剣を1人の男に向けている
いや、男と言うのはおかしいか。
彼は魔王。この世の全ての悪の権化。
魔物を操り、魔族を率いて人類を滅ぼそうとしてる正に魔王と言うに相応しい相手だ。
だが、どうにも俺には余りこの魔王を憎めない。体つきも、雰囲気も魔王と言うに相応しい。現にその体から溢れ出る魔力は、剣聖や賢者達によって削られ、聖剣によって守られていても、気を抜けば意識を飛ばされるかと言わんばかりに荒々しい。
しかし、魔王の目の奥にある物が憎しみだけに見えないのは俺だけだろか。
そこにあるのは諦めと・・悲しみ?
「…ぃ…ィ!おい!レイ!」
いつの間にか自分の世界に入ってたみたいだ。
声を掛けられて気が付く。
そうだ。今はそんな事を考えてる場合じゃない。
右手に持った聖剣に目をやる。
青い光が薄っすらと剣を覆い聖樹のレリーフが鍔から剣先まで伸びている。
聖剣ミスティルテイン
神からもその存在を最弱と見放された柳から産まれた
最弱の剣。
人を切れず物も切れず
全ての加護から見放され、
故に全ての加護を断ち切って
全ての神から見放され
故に神にすらその刃は届くだろう
俺はこの瞬く星の様に、月の光の様に輝き続けるこの聖剣を握り直し前へと歩く
足や手が震えてるのは愛嬌だ。
いくらミスリルの鎧で体を覆って、聖剣をもった所で心まで強くなる訳じゃない。
魔王が膝を屈している所まで歩み寄る。
戦闘前に賢者が大陸に四つしかない、魔法結晶の一つを使って作り上げた封印術によって魔王は俺が目の前来てもピクリともしなかった。
俺がする事は唯の作業に変わりない。
戦士の誇りも、刃を合わせる事で産まれるであろう何かもない。
唯囚われた魔王を殺す為だけの存在。
この城の中で最弱である俺だけができる事。
その為だけに俺は此処に居て
今こうして魔王の前に立っているのだ。
ただ、剣を振り下ろす前に、
俺は一つ聞いてみる事にしたのだ。
本の中の英雄達が
数ある戦いの中で語り合う様に。
言葉を交わし、剣を交わし合う様に。
英雄の真似事をしてみたくなった。
だから聞いてみたのだ。
「魔王よ。貴方の望みは何だろうか」
全てはそこから始まって
全てはそこから終わっていたのかもしれない。