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伝えたい事があるんだ 再び 2

次の日、朝起きると布団の中に入っていて驚いた。昨日は布団の上でじたばたして……多分そのまま寝てしまったと思うんだけど……そうなると思い当たる人は一人しかいない。

「結局、たかしさんはお世話したい人なのかしら?」

日常生活にしたって、そろそろ自分でそれなりにやりたいのに、いいからと言って椅子に座る様に言われてしまう。そんなに私ってそそっかしい存在に見えるのだろうか?

着ていたパジャマを着替えて、私はたかしさんがいるであろうリビングに行く事にした。

「おはようございます」

「おはよう。朝食で着ているから。今日の予定は?」

「今日は大学に朝から行ってみます」

「そうか。でも無理だけはするなよ。いいか?」

「はい、たかしさんは出勤の時間ですか?」

「今日は休み。それよりも別件でレポートの作成を指示されたからエトワールにいる。授業はいつ終わるんだ?」

「今日は4時間なので午後4時過ぎまであります」

「そうか。終わったらエトワールで待ち合わせ。バイトは休みだろう?たまにはお客様するのもいいヒントが得られるぞ」

「分かりました。授業が終わったらメールしますね。それと……」

「なんだ?」

「昨日はごめんなさい。私……昨日みたく言われちゃうとどうしたらいいのか分からなくって」

「あれは俺が悪かった。つい、学生時代の悪ノリでやっちまった。そんなすぐにエロい事したいなんて思ってないさ。俺達の時間はこれからたくさんあるんだから。一緒に暮らしているけど、普通の恋人の様にデートしたりして……たくさんの事を二人でしていこうな」

「うん。ちょっとだけ怖かった」

「大丈夫。そういうのは、慣れだと思う。だから、そのままの麗でいてくれ」

なんか……たかしさんに言い含められている気がしなくもないけど……まあいいか、それでも。

私よりもたかしさんの方が経験多いもんね。全部お任せでもいいよね?

ダイニングテーブルには、トーストとちぎったレタスとミニトマトが入ったサラダ。それとソテーしたソーセージが置かれている。

「スクランブルエッグなら用意するぞ」

「これとカフェオレがあれば私は十分です。たかしさんはもっと食べた方がいいです」

「そうは言っても、消化してくる頃にあくびなんてできるか。この位で丁度いい。外科の頃はいつ食えるか分からない分、しっかり食っていたけどな」

「やっぱり……外科ってそんなに忙しいんですか?」

「そうだなあ。固形物が食える昼はまともだなって認識があった位だ。医者なんて大抵がそんなものだ。うちの救急はシフト管理が徹底しているから、さっさと帰れるだけだ。他の病院じゃありえないだろう」

「そうなの?」

「救急車で搬送されて最初に見るのは俺達だぞ。大なり小なり得意分野があっても、最初の所見を間違えない程度の知識の経験が必要だし、判断が鈍っても行けないから集中力だけは凄く使うんだぞ」

「それは分かるかも。私の火傷の時に凄く動きが無駄じゃなかったから」

「分かって貰えればよろしい。今後、救急にお世話にならない様に健康管理に努めてくれ」

「自分でもするけれども、たかしさんがちゃんとしてくれると思うの」

今だって、起きてきた私に検温をさせるんだから、絶対に過保護なんだと思うの。嬉しいけれども、この過保護さに慣れてしまったら……もし別れてしまったらどうしたらいいんだろう。漠然とした不安が私の心に巣食っていくのを痛感していた。


「麗。もう大丈夫なの?」

「まだ完治はしていないけど、普通の講義なら受けられるよ」

久しぶりの昼休み。学生食堂で仲のいい友人と日替わりランチを食べている。

「で、年上の彼氏との同棲生活は?」

「だから、同棲とは違うって。それに声が大きいよ」

あっ、ごめんって結花は言う。

「でも火傷したって聞いた時はビックリしたのよ。お店に行こうとしたんだから」

「寛子もごめんね。最初はオーナーさんのお家にいたんだけど、オーナーさんの旦那さんがお仕事から戻ってきたから、私のお世話をするって……たかしさんが……」

「で、今に至るということですか。でもお医者さんでしょう?遊び慣れているんじゃない?」

二人は不安そうな顔をしている。私もそんな事を考えた事があったけど、口には出さない。口にしてしまったら朝思った事を又考えてしまうから。

「でも、たかしさんって呼んでいるって事は順調なんだね」

「家で先生って呼ばれても困るからって言われたの。だからたかしさんなの」

私が答えるとふたりは、生温い表情でこっちを見ている。言いたい事は分かるよ。でも仕方ないでしょう?私みたいな小娘はたかしさんのいい様になってしまうってこと。

「いいなあ、家にも白衣があるんでしょう?」

「それに眼鏡があれが最強なんだけど」

二人は白衣萌と眼鏡萌だったっけ。私は……今まではそうじゃないと思ったけど、たかしさんのスクラブと白衣姿は誰よりもかっこいいと思う。

「最たる所は、麗の親に勝てそうなところがいいじゃない」

「そうね、告白じゃなくて求婚だものね。びっくりしたわ、その話を聞いたとき」

「で、婚約指輪は?」

「今はお店でお直しをしている」

「やっぱり……大きいの?」

学校の同級生でも、彼氏がいる人はいても求婚されている人はいないだろう。

「そうでもないと思う。エトワールでも使える様なデザインだもの」

たかしさんがくれた婚約指輪はずっとつけられるものがいいからって結婚指輪と重ねづけできるものだという。

「ねえ、オーナーさんって旦那さんいたの?」

「うん、単身赴任して貰ったんだって。凄いよね」

「旦那さんって、かっこいい?」

寛子の基準は見た目優先。達也さんは……なんて言ったらいいのかなあ?皆が知っている達也さんはかっこいいと思う。でもオーナーと一緒の時は……可愛いって思えてしまう。

「今日お店に行ったら、オーナーの旦那さんに会える?」

「それは分からないって。でも私はたかしさんと待ち合わせているから、エトワールに行くわよ」

「たかしさんがいるですって。それは一度お目にかからなければ」

今度は結花の鼻息が荒くなった。達也さんとカフェデート(お店は普段のバイト先だけど)なんて思っていた私はどうやら考えが甘かったようだ。


放課後、二人と連れてエトワールに行くと、笹野さんと勝田さんが接客をしていた。

「渡辺さん。麗ちゃん……お友達も?いらっしゃいませ」

勝田さんは二人とは初めましてかもしれない。

「はい、大学の友達なんです。たかしさん、今帰りました」

「おかえり。麗ちゃんの友達って言っていたね。はじめまして。渡辺です」

「はじめまして。今日はお仕事は?」

「今日は休み。調べものがあってここで仕事をしながら待っていただけさ」

「そのお仕事は終わりましたか?」

私はお仕事の進行状況を確認することにした。

「ある程度終わったよ。レポートに纏めたらお終い。今日はこれ以上はやらないよ。このままここで食べてもいい様に予約してあるけど……今夜はここでもいいかな?」

「はい、構いませんよ。たかしさんも野菜が足りないんですから。二人はどうするの?」

「私達は実家だからもう少ししたら帰るよ」

「そういえば、オーナーさんは?」

「麻生さんは、もう帰ったよ。ここの所、ちゃんと休んでいなかったからね」

注文は決まった?って笑顔を張り付けて高橋さんが聞いてくる。今夜はここでディナーだから今はアイスティーでもいいかなあ。

「私はアイスティー」

「じゃあ、それを後二つ下さい」

「三人ともアイスティーか。僕はちょっと休憩貰おうかな」

しまった。高橋さんは

カフェプランナーの資格をもっているんだった。紅茶は山下さんだ。ディナーでコーヒーを飲もうと思っていたのが裏目に出てしまった。そんな時もたまにはあるよねって私は開き直る事にしたのだった。

病院に行かなくてもたかしさんと過ごせるのは嬉しいけど、スクラブに白衣を羽織ったたかしさんに会えなくなるのは寂しいなって思うのでした。


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