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伝えたい事があるんだ 再び 1

「麗ちゃん……」

「すみません、お先に失礼します。急いで着替えてきます」

「いいよ。ゆっくりで、車で来ているから着替えたら駐車場までおいで」

「はい分かりました」

シフトは終わっていたんだけども、レジのお客さんが途切れなかったからそのまま対応していたら渡辺先生が迎えに来てくれた。私の火傷の方は、ちょっと後になってしまったけど、時間が経てば綺麗になるよって言われている。気になるようなら夏でも七分袖を着たら目立たない位だ。

私がお店に戻るころに、お店の制服全部変わっていてびっくりした。夏でも長袖だったんだけども、七分袖に変わっていた。それとシャツの色も変わっている。それと、リボンタイがネクタイとクロスタイも追加されていて、ジレが女子は襟付きで背中があるタイプに変更されていた。男子のジレは今までのタイプで変わっていない。どうしてなのだろうと思ったら、七分袖のシャツの生地が結構薄かったからその為なのかなって私は思っている。

それと、厨房へのお手伝いは今まではコックコートを着た方がいいだったけど、完全にコックコートを着用する事に決まった。厨房がメインのお仕事に人は黒いコックコートで私達がお手伝いする時には黒のギンガムチェックの上下のコックコートを着用するようになったという。

私が復帰する時に、もうあんな事は絶対に起こらないようするけど、無理ならお仕事辞めてもいいわよって言ってくれたオーナーの優しさが心にしみる。

「新しいベストとネクタイだと相当スタイリッシュになってお洒落になるな」

「そうですか。私一人だけお子様っぽくないですか?」

「そんなことないよ。初々しくて可愛いよ。今夜は俺が作ろうか?」

「先生、作れるんですか?」

「あのね、麗ちゃんが俺の家に来るまでは俺は一人暮らしだった訳。忘れていない?」

「そうでした。でも……いいんですか?このまま一緒にいてもいいんですか?」

「俺、君をここに連れて来る時に、なんて言った?」

「結婚を前提に一緒に暮らそう……です」

「怪我した後でも実家から連絡があれば一時的に帰ってもいいんだけど、連絡あったのか?」

「ないですね。多分兄が旨くやってくれているのかもしれません。そのうち連絡してみます。親達の距離を置くには結果的に良かったかもしれません」

「そうか。俺……お前が思っている以上にお前の事好きだったんだなって思っただけ」

「私も……先生が私の事を好きって思っているとは思っていませんでした」

「だろうな。あの日……お前が怪我したって聞いて店では俺の職業を明かす予定ではなかったけど思わず言ってしまった位だから……その位はお前だって分かるだろう?」

「うん。今なら……分かります。先生がやってくれた応急処置って病院でもやる事だったんでしょう?」

「そうだな。オーナーの性格を考えるとそれなりに応急処置の道具はあるかと思ったから聞いた。それであったから早期治療ができた。やっぱりお前は恵まれている」

「そうなの?」

「そうなんだっての。普通だったら、せいぜいやって貰っても冷やすだけ。制服だって、撥水加工がされている制服を厨房意外に揃えている所もほとんどない。あの時にコックコートを羽織っていたらもう少し軽く済んだけど……それはもう終わった事だからいいか」

「先生に言われたら、どんどん恵まれているって事が分かってきたかも」

「まあ、他の連中もだな、あの店が相当環境がいいと言うのが分かるころには他の店に行っているか就職しているかだろうな」

「アルバイトは江藤さんと笹野君と私と中川君と竹内君と勝田さん。後は社員さん待遇だったはずです」

「そうだろう。オーナーをりっちゃんって呼んでいるのはオーナーが直接引っ張ってきた奴だろ?カウンターとかシェフにしたって」

「そうみたいです。私は開店からのバイトじゃないから良く分からないです」

「そうやって人の事ばかりにアンテナ張っていない所も俺の好みだな」

「そうなの?他の人は違ったの?」

「少なくても江藤さんは違うだろ?」

確かに江藤さんは仕事の合間に合コンを入れている事は知っている。

「他の連中は、ネタにはしないけど耳をダンボにしているぞ。本当にお前は可愛いな」

「先生には……やっぱり子供ですか?」

「子供に結婚を前提でお付き合いして下さいって言うか?」

「分からないもの。彼氏って今までいなかったから」

私は自分の黒歴史を披露する羽目になってしまって恥ずかしくて俯いてしまう。

「何にも知らない無垢な子っていうのも、それはそれで嬉しいものですよ。男ですから」

「本当に彼氏さんでいいんですよね?」

「俺は彼氏さんじゃなくて、夫さんでもいいですが?でも麗ちゃんの気持ちはそこまでじゃないだろ?」

「うーん、先生は嫌いじゃないです。じゃなければ怪我したから面倒見てもらうからって一緒に暮らせません」

「そうだな。そこからでいいんだよ。もっと俺を知って。そして俺を好きになってくれたらいい」

「分かった。もっと頑張る」

私が小さくガッツポーズするのを見て、先生は笑っている。


「頑張る事なんてないだろう?麗ちゃんは麗ちゃんのままでさ。でも一つだけお願い。そろそろ病院の通院も毎日出なくてもいいからさ……先生って呼ぶのそろそろ辞めてくれない?」

「渡辺さん?」

「店でならそれでもいいけど、あいつら俺達が一緒に暮らしているの知っているからなあ。からかわれるけどそれでいいなら……俺の名字で読んだら?」

「皆に弄られるのは嫌です。それでは、たかしさん?」

「いいねえ。名前で呼ばれるの。もっと呼んで?」

「たかしさん。そう言えば、白衣とかって洗濯しないんですか?」

「毎日何かを探している様な気がしたけど、もしかしてそれか?」

「はい、あの青い服も持って帰ってきません」

先生……たかしさんは、病院で着ている白衣もあの青い服も持ち帰って来ない。洗わないで着ているなんてありえないだけだし……思い切って聞いてみた訳だ。

「成程。麗ちゃんは俺が白衣とスクラブを持ってこない事が不思議だった訳だ」

「はい、実際はどうしているのでしょう?」

「病院でクリーニング出しているよ。一着だけって着たきり雀かよ。医学生でも白衣位は替えを持っているぞ」

「ってことは、病院のものは家に持ち帰らないって事ですね」

「何?白衣の俺がいいの?学生時代に使っていた白衣だったらクローゼットに残っているなあ」

「だから、たかしさんが着て見せてくれるのは嬉しいですよ。でも、お洗濯するのかなって思っていたから」

「そっか、だったら学生時代の白衣を洗濯してみる?結構皺が伸びないんだよ。白衣って」

確かにお医者さんの白衣はピシッとしている。たかしさんの白衣もピッシリとしていた。

「スクラブって……何?ケーシーと違うの?」

「麗ちゃんが青い上下がスクラブ。Vネックのもあるし、他のデザインもある。ケーシーは看護師の服だな。基本は白だな。小児科病棟の女性はピンクのナース服だったか?」

「どうして?」

「子供相手だからだろ?流石に俺も詳しくないぞ」

私が知らない事を知っているたかしさんはやっぱり凄いと素直に思う。

「あれって……私物ですか?聴診器」

「ステートな。俺は学生の頃のものを流石に使っていないけど、同期によってはまだ使っているらしぞ」

聴診器ってステートって言うんだ。何にも知らない私には全てが新鮮に見える。

「麗ちゃんの好奇心は俺というより、俺が身につけている業務服のほうだよね」

「だって……見慣れないから。凄くかっこよくてどきどきするんだもの」

「ふうん、じゃあ今度、本物のお医者さんごっこするか?」

いきなりびっくりする事を聞かれて私はギョッとする。本物のお医者さんごっこってなんですか?

「悪い、触診だよ。脈を見る程度な。なあ、もしかして……えっちな方を考えた?」

「お腹出してって言われるかと思ったの。はあ、ビックリした」

「さすがにそれはちょっとね。今回の治療は皮膚科だろ?救命の前はこれでも外科だぞ」

「えっ?メスを持っていたの?」

「そうだな。いろいろ考える事があって救急医になっただけだ。その話はそのうちにするよ」

「はい、ゆっくりでいいですから教えて下さいね」

「ああ。えっちな方のお医者さんごっこでも麗ちゃんの限定ならしてもいいけど?」

ニヤリと笑うたかしさんにからかわれていると私は気が付いた。

「たかしさんの馬鹿!!凄いお医者さんだと思っていたのに、もう寝ます。お休みなさい」

私はたかしさんに自分の部屋として使っていいと言われた6畳間に行く事にした。

「あーあ、ちょっといい気になっただけなのに。少しくらい浮かれたっていいじゃないか」

浮かれたからって、言っていい事と悪い事があるんです。彼氏いない歴=年齢だったんですから、そんな心臓に悪いことを平気な顔をして言わないで欲しいのに!!部屋に閉じこもった私は、さっきまでのたかしさん相手に悪態をついたまま眠ってしまった。


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