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ある日のエトワール2

開店して三年目、一部の制服をリニューアルする事になったようです。

「店も開店して三年目です。少しだけ制服をリニューアルしましょう」

ある日の開店前にオーナーが一言宣言した。

「ホールは、中のシャツの色か、襟もとのデザインの変更。襟元を変える時はリボンタイからネクタイに変更します」

「えっ?」

「早急に変更をするのは、厨房。白いコックコートは新しいといいけど……今着ているのを見てどう思う?」

少しだけ黒ずんでいる様な気がしなくもない。今のコックコートはフレンチのシェフをイメージして貰えるといいのかもしれない。白のコックコートに白のズボン。コック帽は高さのある帽子を一応用意しているけれども、被るのは客先に出る時だ。なので帽子だけが真っ白に見えてしまうのは気のせいではないはずだ。タブリエと呼ばれるエプロンは男性でも脛まで隠れる丈の長いものをメインに使っている。

「りっちゃん、今度はどうしたいんだ?」

「絶対に譲れないのは、イタリアンの様にスカーフを巻いて欲しいの。麗ちゃんの件があって首元が無防備な状態だと、次に何か起こった時に困るって思ったからね。コックコートの色は白はもうしないわよ。クリーニングしても白を維持できる期間は少ないんだから」

「そうだけどさ、それなら色はりっちゃんに任せてもいいかい?」

「いいわよ。それから、今度から厨房での作業をする時はコックコートとマフラーを付けてから厨房に入って貰います。面倒と思っても今のままではよくない事が分かったから」

「はい、分かりました」

皆が返事をしたところで、オーナーはカウンターに今使っている業者のカタログを広げる。

「皆で話し合って決めて。タブリエの変更もありだけども、防水加工だけは必要だからそれだけは守ってね」

オーナーはレジの前……彼女の定位置に立ってレジカウンターの中にあるノートパソコンを開いて電源スイッチを押しているようだ。

「サンプルで取り寄せたいものは品番を教えてね」

暫くすると、数点のサンプルの取り寄せをするオーナーの姿があった。


それから数日後。

「こんにちは、お届けものです」

「ご苦労様です。今日は寒いけど半袖で大丈夫?」

「走っているので大丈夫です」

届けて来てくれたのは、青と白のストライプが清潔感を漂わせる運送会社のお兄さん。今朝は今期一番の冷え込みと言われただけに開店すぐと言ってもまだ外は寒いと思うのだが。オーナーは、差し入れねと言って、サンプルの焼き菓子を一つお兄さんに渡していた。

「ありがとうございます。頂きます」

元気な挨拶と共にお兄さんは去って行った。荷物は二つ。二つとも段ボールに入っている。

「皆、サンプルが届いたわよ。誰か試着してくれない?」

「りっちゃん俺達は無理だから」

厨房から声がしたので、厨房のコックコートの方は山下君に、フロアーの制服は笹野君に着替えて貰う事にした。

「こんなですか?」

「ネクタイは締めていませんけど……」

着替え終わった二人の姿を見て、こんなものだろうと皆思っているようだ。山下君は黒いコックコートにワイン色のマフラー。悪くは無いけど、なんか物足りなさを感じる。

一方の笹野君の方は、真っ白のワイシャツ。厨房がワイン色ならネクタイも同じものがいいのだろうか。それとも今使っているシャツを真っ白にしてクロスタイでもいいかもしれない。

「それじゃあ、別の会社から取り寄せたものがあるの。江藤さんこれを着てくれないかしら?」

オーナーは江藤さんにちょっと重そうな袋を手渡した。中を確認した江藤さんが困惑する。

「これ上に着るだけでいいですか?」

「今回は上に来てくれるだけで十分よ。ちょっと奇抜かもしれないんだけど」

「こんな色があったんですね。でも限定ですよね」

「そうよ。それが目的だもの」

オーナーはもう一着を持って私も着てくるからちょっと待っていてねと言って二人で三階に上がってしまった。


「お待たせしました」

江藤さんはピンク色のコックコートにダークブラウンのマフラーを付けている。一方のオーナーは七分袖の白のシャツに黒のネクタイを締めていた。

「ピンクのコックコートは、他にも色があるから、水周りでない調理補助ならこっちのタイプでも十分いいかなって思ったの。これを着用の時は調理補助のマークになるでしょう?フロアのメンバーが着回せばいいから各サイズ一着ずつあればいいと思うの」

オーナーの説明にすんなりと納得できてしまう。江藤さんが来ているコックコートには今ほど防水加工がされていないって事なのだろう。

調理補助の手伝いを主にするのは女子とかカウンターの二人が多いからその中で決めて貰えればいいってことになった。

「で、私が着用しているシャツは、夏でもこれで十分かなって思ったんだけども……かなり生地が薄いのね。だから洗濯を繰り返すとすぐに買い替えてしまう可能性があるの」

「生地が薄いのは辛いです」

江藤さんが困ったように言う。今のジレだと確かに背中のあたりがちょっと問題だろう。

「それならベストの形を女子だけ変えるって事も可能だからもう少し考えてみましょう。男の子達はこの丈でもいいのかしら?」

「掃除の時に腕をまくる必要性がないのはいいと思います」

「そうよね。男子は個の制服に黒のネクタイという事でいいかしら?」

男子の制服の方は呆気なく決まった。最終的に女子の制服の方はベストを襟付きのフォーマルベストに変更して男子同様に黒のネクタイを締める事になった。

そして、ピンクで揉めてしまったコックコートの方は、最終的には、違うメーカーで掲載されていた黒のギンガムチェックのコックコートを各自のサイズで用意し、ワイン色のマフラーと着用する事になった。厨房の方は最初から決めていた黒のコックコートにワイン色のマフラーにワイン色のタブリエにする事に決まり、早急に手配をオーナーをした為に、一週間後には全員が新しい制服での作業が開始するのだった。


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