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伝えたい事があるんだ1

救命救急医渡辺とアルバイト麗の話です。

「オーナー、自転車ありがとうございます」

いつもならカウンターにいるはずのオーナーがいなくて俺は息慣れたエトワールの店内に入っていく。

そこから聞こえたのは、普段穏やかな彼女とは違う彼女だった。

「そんなんじゃ冷やしたにならない。ホースでいいから冷やして。誰か三階から毛布とバスタオル用意して。救急に連絡している人……私に渡して」

俺はカウンターにいる山下君に声をかける事にした。

「何が起こった?」

「麗ちゃんが熱湯を左肩のあたりから手首位まで被ってしまったんです。もう少し範囲が広いかもしれません」

「オーナー。その電話俺が引き受けよう。これでもプロだから」

「渡辺さん。すみません。本人は外の蛇口で冷やして貰っているところです」

「あっ、もしもし?こちらさつきが丘総合病院の救命救急の渡辺です。いつも大変お世話になっております。とりあえず今から僕がクランケを見ますのでよろしいでしょうか?」

「えっと……10%の熱傷と報告を受けていますので、さつきが丘総合病院に搬送させます。僕は勤務終了していますが、クランケを全く知らない訳ではないので救急車に同乗します。病院との交渉は俺が引き受けますので、とりあえずエトワールまで来て下さい」

歩きながら救急隊と交渉をして、通話が切れたら、救命救急センターのダイレクトラインに電話をかけた。

「救命、林です」

「おお。お疲れ。渡辺だ。今エトワールというカフェにいるのだが、熱傷患者一人救急車で搬送するので対応をお願いしたい」

「先生がクランケと一緒に来てくれるんですか?」

「もちろん。知らない相手でもないからな。とりあえず、保険証のコピーを店から預かるのと学生さんだからご両親への連絡も俺が受け持とう。この電話はこのまま切らないでもらえるか?」

「はい、分かりました」

「麗ちゃん、悪いけど、制服のシャツを切らせて貰うよ。誰かはさみ。それと、熱湯消毒を施した針の用意」

「渡辺さん?」

「そうだ。俺は救命医だ。救急車も呼んだが来るまでに時間がかかる。それまでに応急処置をしておこう。痛みが伴うけど今は我慢してくれ。病院に着いたら痛み止めも抗生剤も処方されるから」

「これって……痕になりますか?」

「シャツが水分をすぐに吸収するタイプだと無理だと言えるけど、君の店がどういうシャツを使っているかは分からないから。出来る限り綺麗になる様にするから、俺の言う通りに治療していこうな」

「はい」

麗ちゃんが不安がる気持ちも分からなくもない。確かこの店はかなり安全面に配慮している。実際かけているエプロンは防水加工が相当強いものだし、パンツも同様だろう。シューズも安全靴をしっかりはいているようだから下半身の熱傷の可能性はかなり少ない。届いたはさみで躊躇うことなく彼女が来ているシャツの袖を切っていく。全体的に真っ赤であるけれども二の腕から肘のあたりが水膨れを起こしている。

「新品のラップと……白色ワセリンはあるか?」

「あります」

「持って来て」

煮沸消毒した針で水ほうを破いて水を抜く。それから白色ワセリンを塗れる範囲で塗ってラップを巻いて応急措置を施した。

「まずはこれでいい。寒いだろう。バスタオル」

俺は大判のバスタオルで彼女の濡れた体を拭う。そうしているうちに麻生さんがやってきた。

「渡辺さん、すみません。助かりました」

「いいえ。これが俺の仕事です。もしもし?林?とりあえず応急措置は終了している。二の腕から肘までが一番状態が酷い。他に関しては今は処置していないが首と顔には大きなものはない。そっちはワセリンを塗ってあるから、そっちに着いてから処置をしよう。あっ、救急車が来たからそっちに向かうぞ」

「えっ、渡辺さん?」

「私が同行した方が楽でしょう。麻生さんは、クランケのご家族と連絡を。今は気が張っているので丈夫そうですが、念の為入院して貰う事を前提に考えています。保険証のコピーと彼女のカルテに必要そうなデータをこちらに渡して貰えますか?僕が代わりに処理をしておきます」

「助かります。ではそちらに向かう前に今回は労災で処理をしたいので病院にはその旨お願いできますか?」

「分かりました。必要な書類が用意できるか分かりませんがその旨は伝えますので……先生の所は代書屋ですか?」

「今回はお願いする事になると思います」

「それではその方に手配」

「りっちゃん、事務所の人と連絡できた。労災の処理の依頼は完了だよ」

「書類面は終了。後は、彼女の着替え……下着も含めて……ワイヤーブラは辞めた方がいいからブラはなしで用意をお願いします」

「麗ちゃん。私の私服でも構わないかしら?入院後も治療が必要になるだろうから私の家に体調が落ち着くまでいる?」

「いいんですか?」

「平気よ、私の家は私一人だから。それじゃあ、渡辺さんの名前を出して病院に行けばいいですか?」

「そうですね。そうして下さい」

「分かりました。それでは麗ちゃんをお願いします」

遠くから聞こえる救急車の声を聞きながら俺は麗ちゃんを横抱きにして駐車場に向かって歩き出した。


火傷の応急処置はネットを参照にしています。

麗の熱傷は体の10%を火傷したらしいと判断した店の人間が救急車を要請しています(ネットで調べて参考にしています)

それよりも熱傷が少なくて判断が付かない際は、各自治体で相談専用の電話があるはずですのでそちらで指示をして貰って下さい。

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