もっと君の事を知りたいのだけど?4
今回は少々少ないです。
翌日、ベッドの上で私は頭を抱えた。アレだけの啖呵を切ってしまって、何事もなかったように出勤するだけの度胸は無い。
「どうしよう。教授相手とは言っても言ってはいけない事を一杯言っちゃったよ」
休む事は簡単だ。表向きは病欠でもいいが、確実に顔を合わせたくないと言う本音は透けて見えているだろう。ああ、どうしたらいいだろう。だるい体に鞭を打って私は大学に向かう事にした。
「おはようございます。昨日は大変失礼な事をしました。昨日の事は忘れて下さい」
教授の目を見ずに淡々と謝罪をして、ルーティンワークを始めようとする私に教授は近付いてくる。
「いいや。忘れる事なんてできない。忘れたくないから」
「どうしてですか?」
「君をお見合いパーティーに行かせたくないからだ。あの後自分の気持ちに気が付いた。一回り以上年の下の女の子に知らされるなんて自分が情けないよ」
「どういう意味ですか?」
「沙織君、君が好きだよ。だからパーティーに行くなとは言わない。お友達に対して申し訳ないから。でもパートナーを見つけて欲しくないんだ」
「冗談なら辞めて下さい。第一、私が教授の彼女にふさわしいと思うのですか?むしろ不適格だと思いますよ」
「そんなことない。僕の為に、サポートしてくれるじゃないか。僕の為に紅茶の入れ方をエトワールで教わった事……僕が知らないと思っていた?」
教授がリラックスできるのはお茶の時間だからという気持ちで、秘書になってすぐにエトワールでお茶の入れ方を麻生さんから直接仕込んでもらったのだ。
「君が帰ってから、りっちゃんに怒られた。僕の為にお茶を美味しく淹れた言って沙織君が頑張っていた事を」
「そんなの大したことありません」
「それだけじゃない。お茶に合わせたお茶菓子を探す為に休みの日も費やしていてくれた事をどうして言ってくれないんだ」
「それは……ウィンドーショッピングです。気にする事じゃありません」
私は隠しきれない本音の気持ちに気が付いて必死に強がろうとする。けれども教授は逃げようとする私を見逃してはくれなかった。
「ごめん。君のその献身的な行動に甘え切っていた僕が悪い。だから……お願いだから……僕を見捨てないで」
恐る恐る教授の顔を見ると、情けなさそうに尻尾を振っている柴犬が見える気がした。昔から犬が好きな私は観念するしかないのかなって天を仰ぐ。
「これからは、規則正しい生活をしますか?」
「沙織君がそう躾けたらいいだろう?」
「私がこの仕事を辞めたいって言ったら?」
「いいよ。僕の稼ぎならカルテット位までなら子供は養えるよ」
「誰もそんな事を言っていませんけど……いいです。教授のお世話をします。その変わり……私は厳しいですよ。逃げだしませんか?」
「うっ……前向きに努力します」
「では、早急に論文を仕上げて貰いましょうか?来週には進行状況の確認のメールが来ますよ」
「折角、僕達の気持ちを確認できたって言うのに……つれないなあ」
「つれない人で結構ですよ。数分だけのパートナー解消でもしましょうか」
「嘘、嘘です。論文しっかりやります。今日は来客には絶対に会わないから、そこのところよろしくね」
「分かりました。ボス。この調子で頑張りましょうね」
私は自分のデスクに座って、自分のルーティンワークを勧めるのでした。
教授、出来たら、白衣はなるべく白を維持して下さいね。私は教授の研究内容をしっていますが、知らない人には何をしているのか確実に分からないと思いますよ。
そんな事を思っていると教授がとんでもない事を言い出した。
「沙織君、君も白衣着てみる?意外に暖かいんだよ」
「先生、白衣は防寒着になるとは思えません。それに研究室で寝る事は今後禁止です」
「えー、どうしてさ」
「冬になるからです。健康管理位は自分でして下さい」
「努力はするけど、それは沙織君のお仕事だからよろしくね。さて、論文続けないと」
これからの生活を考えるとちょっと軌道修正が必要かなと思う私がいるのでした。
次回は救命救急医×アルバイト(麗)の話になります。