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もっと君の事を知りたいのだけど?2

教授とのお茶の時間は結構楽しみだ。教授はお茶とスイーツ。私はお茶と一緒にチョコレートを少量食べる事が多い。

「沙織君はそんなに少なくていいの?ダイエットしているの?」

「結果的にそうなるかもしれません。夕食をちゃんと食べたいタイプなので」

頭の中では、今夜は何を食べようかなって考えている。最近めっきり秋めいてきたから白菜と豚肉の重ね蒸しをあっさりと食べてもいいと思う。今度の週末は久しぶりにゆっくりと過ごせるはずなのでゆっくりとビーフシチューを煮込んでもいいかもしれない。

「今、今夜のご飯の事を考えていたんでしょう?」

「ちょっとだけです。そろそろ寒くなってきたので、白菜と豚肉の重ね蒸しなんていいかなあって思ったんですよ」

「沙織君は一人暮らしだよね。ちゃんとお料理しているんだ。偉いねえ」

「簡単なものなら作りますよ。それにここの職場は基本的に残業は無いじゃないですか。なので結構自炊する事が多いんですよ」

「お昼は外に出る事が多いのはどうして?」

「お弁当を作るのはいいんですが、作ったらオフィスから絶対外に出るなんて真似しませんよ」

元々は積極的に外出するタイプじゃないから、普段だって職員食堂で済ませてしまうのだ。秘書課の同僚達は結構お洒落なお店でランチをしているようだけど、私は栄養バランスが取れている職員食堂の方が好みだ。もし食べきれないと、ちゃんとランチボックスにしてくれるのだ。たまにそれを夕飯のメインにする事もある位だし、大学職員に慣れた事に感謝するのはこんな時だろうか。

「ふうん、そんな引きこもりがちな生活だと出会いなんてないじゃない。そろそろ親御さんが五月蠅いんじゃないの?」

「そんなことないですよ。私は末っ子なので、兄と姉の子供達にご執心なのでこちらとしては気楽なものです」

「それはいいねえ。僕なんて、気が付いたらおじさんだから親の目が痛いんだよ」

「教授は若くして、今の地位にいるんですから寄って来るお嬢さんも多いでしょう?」


教授のお伴でパーティーに参加すると、あっという間にお嬢さんに囲まれてしまって、私は壁の花で教授が戻ってくるのを待っているのは日常と化している。

「僕の地位だけに興味があるだけのお嬢さんはつまらないよ。教養がないじゃないか」

教授の一言に、さっきエトワールの江藤さんの姿を思い出した。確かの彼女の姿がパーティーで見かける女性たちと重なってしまう。

「でも、素敵なドイツ社を購入したのですから、まだまだ入れ食いじゃないのですか?」

「沙織君、君から入れ食いって言葉は聞きたくなかったよ。それと、車を購入したのは今までのっていた親から貰って乗っていた車が故障したからだ。前の営業担当さんに連絡したら転職していてね……深い意味なんてないんだよ」

車を買う時の真相を聞いて力が抜けた。同じ担当さんでと思って効いていて番号に書けたらメーカーが変わっていたって……間抜けにも程があると思う。

「教授……お人よしって言われませんか?」

「良く言われるね。でもさ、騙すより騙される様が心が傷つかないと思わない?」

「言いたい事は分かりますけど、さあ、おやつの時間は終わりです。論文に着手して下さい。必要な文献があれば図書館で貸し出し申請してきますよ」

「本当?それならお願いしたい本があってだね。これが届けばもう少し進むかもしれないからさ。あっ、これは本当だよ」

その言い方が少しだけ疑わしいのだけど、教授の頼みなので仕方なく中央図書館に連絡をして借りたい文献のタイトルを探してもらう事にした。


本を借りて来てオフィスに戻ったら、丁度終業終了時刻になった。

「沙織君、これからは僕一人で大丈夫だから」

「そうですか?ちゃんと自宅に戻って下さいね」

「そうは言うけど、論文の締め切りがあるからね。ひょっとすると明日は実験室で籠っているかもしれないから」

「分かりました。なるべく他の方に会いたくないって事ですね。ゼミ生たちはどうしましょう?」

「彼らは手伝いを頼むかもしれないって言ってもらえるかね」

「分かりました。帰り際に伝えてから戻ります。お先に失礼します」

「また明日もおやつを用意してくれない?」

「いいですよ。それで論文が進むのであれば喜んで」

私は通勤用の鞄を取り出してロッカーの鍵を閉めて、オフィスから遠ざかる。

ゼミ室では、大学院生が修士論文を書いているようだ。

「お疲れ様。これはつまらないけど、私からの差し入れね」

ペットボトル飲料を数本机の上に置く」

「沙織さんありがとうございます。教授の論文の進み具合は?」

「そうね……微妙な所。明日は実験室で過ごしたいそうだから手伝える人はお手伝いをお願いしてもいいかしら?」

「分かりました。それは明日ゼミ室のメンバーで決めます」

「それじゃあ頑張って」

「お疲れ様でした」

これで私の今日の業務は完全に終わったことになる。無事に大学の正門前のバス停に着くと、珍しく高校時代の部活仲間からメールが入っていた。午後八時に話がしたいのだが、出来そうかという内容なのでもう仕事終わったのでその時間なら問題ないと返信を送る。素早い返信が帰って来たのを確認して最寄駅に向かうバスに乗り込んだ。

終点の駅前にあるスーパーで食材を買ってから、再び違う路線を乗り換える。時間通りに発車するバスはほぼ時間通りに私が住むアパートの傍のバス停に着いた。

ちょっと重い荷物を持ちながら私は自分の部屋に帰るのだった。


「ねえ、あの子ったら離婚したんだって」

部活仲間からの連絡は、同じ部活の女の子が結婚してそんなに期間を待たずに離婚したと言う。

「どうしてそうなるの?元々交際期間が長いんじゃなかったの?」

「そうなのよ。どうやら彼氏が火遊びしたのが火遊びじゃなくなったらしいの」

まあ、ありがちな原因なのだが……そう思うと結婚式の時の彼女を思い出して溜め息をつく。

「そういうのを聞いちゃうと結婚したいって気がしたくなるのは気のせいだろうか?」

「一人身にはいい勉強ともいえるけど、更に恐怖を感じるよね。あんなに幸せだったのに、半年位?」

「そうね。半年ね……」

半年で破たんするのはお互いにとってプラスなのだろうか。マイナスなのだろうか。

「沙織の職場は将来の有望株が多いだろうけど、どうなのよ?」

「どうなのって聞かれたって、結果は出ていないんだから聞くだけ無駄なの……知っているんじゃない?」

電話越しの相手も乾いた笑いしか出てこない。

「そっか。それなら今度は婚活パーティーに参加しない?」

「そうだねえ。それもそれでいいかもね。まずは知り合うきっかけだよね」

「そうよ。切っ掛けでいいのよ。それじゃあ、適当なのをこっちで探して置くから一緒に行こうね」

「うん。分かった。それじゃあまた」

かなり一方的な通話が終わった。お見合いパーティーに参加する事は分かった。

この時期に参加しようってなったのは、彼女は今年のクリスマスは一人でいたくないという気持ちの表れなのだろう。その気持ちは分からなくもないのだけども、パーティーの場を想像した時に思い浮かんだのはなぜか教授の顔だった。どうして今教授の事を思い出したのか、その意味は自分でも分からなかった。


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