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ボーイミーツガール 2

俺達の厨房の改装が終わりつつある頃に突然りっちゃんが言いだした。

「フロアー内装は業者とこれでもかって位に打ち合わせをしたからね。ちょっとの間……日本を離れてもいいかしら?」

「はあ?海外?」

「うんイタリアからぐるりとスイーツめぐりをしようかと思って。戦利品は……トシ君の家に送ってもいいかしら?」

「まあ、それは構わないが。どうしていきなりイタリアに?」

「ちょっとだけ……達也さんと一緒の時間が過ごしたくなったの。イタリアで一週間位は過ごせそうだから」

「梨佳……ここにいたのか」

「達也さん。店の場所分かったの?」

「もちろん、ここら辺はジョギングで走っていたからすぐに分かったさ。こんにちは。梨佳の事……よろしく頼むよ」

そう言ってさっそうと現れたのは、バレーボールの大槻達也選手その人だった。

「梨佳……俺達の事……話していないのか?」

「話していないわよ。大学の子たちだって話していないのよ。それに達也さんと二人を合わせたくても達也さんが日本にいない事が多かったんだから」

「あはは……そうだったな。済まないな。お前には迷惑ばかりかけて」

「そんなことないよ。私はキラキラの達也さんを見られるのが嬉しいから。私もイタリアに一緒に行く。達也さんのイタリア語で交渉するよりは、私が交渉する方が早いかもしれないし」

「成程な。契約事項に関しては梨佳がいてくれると助かるのは事実だ」

「あの……りっちゃん?」

「何?」

「大槻選手ってりっちゃんの知り合い?」

「達也さん……話してもいい?」

「構わないぞ。俺も二人にお前を預けるんだから」

大槻さんがそう言うとりっちゃんは、ふんわりと今まで見た事もないような笑顔を見せた。

「えっと、私の婚約者になった大槻達也さんです。テレビでも報道されていますが、これから彼はイタリアリーグに挑戦します。一緒に着いて行かないで私はここで夢を叶える事に専念しました」

「ってことで、いつプーになるか分からないけどプロ選手をしている大槻と申します。チームの皆は彼女の存在は知っているけど、ファンの子達にはあまり知られていないのでそこのところはよろしくお願いします」

「達也さん、日本を離れる前は川野先生の所に行く?」

「そうだなあ。お前と婚約した報告もしたいし、お前も成田に行く前日に実家に泊まるか?」

「いいよ。達也さんもおいでよ。両親も喜ぶと思うの」

二人は俺達をそっちのけで会話を続けている。仕方ないので俺は自分のパートナーをメールで呼び出す事にした。同時に俺達が良く行く個室の創作料理店に予約を入れる。

「りっちゃん、いつもの個室を予約したから後で合流しないか?シーナは純子ちゃん連れてこいよ。大豆アレルギーの子がいるって旨は予約で言ってあるから大丈夫だ」

「悪いな。それなら純子を連れて店に行くわ。りっちゃん、店の内装の方は俺達も様子を見に来るけど、メールでやり取り位はしておいてくれよ」

「分かっている。ちゃんとノートパソコンは持って行くから安心して」

俺達はそうやって、りっちゃんと大槻さんの惚気に盛大に当てられるのだ。聞いていなかったけど、高校を卒業してからずっと交際を続けている二人は、既に五年の付き合いになるという。

婚約したからすぐに結婚という訳ではなくて、達也さんが第一線を退いたタイミングで入籍する予定なのだと言う。だから私の婚期は達也さん次第なのなんてあっけらかんと言っている。

「梨佳ちゃんはそれでいいの?」

「朱音さん達だって、朱音さんの後期大学院が終わったら言っているじゃない。それと同じよ。私は達也さんが無職なった時に店を手伝って貰えたらいいかなって思って開業する事にしたの」

「えっ、開業の理由ってそれなの?」

「正しくは、ちょっと違うけど、達也さんの様な大柄な男性でもリラックスして休める様な店と作りたいなあって思ったの。だから店の机とか椅子が大きめのサイズなのは達也さん達を基準にさせてもらったの」

りっちゃんは家具は大きめ!!そこだけは譲らなかったからどういう意味があるのかなあと思ってはいたけれども、真相を聞いて俺は納得した。

「って事は、男性でも入り易くてケーキが食べられる店を作りたかったってこと?」

「うん。甘いものが好きな男性が肩を狭めないでのんびりと過ごして貰いたいなあと思って」

俺達は、店のコンセプトすらも始めて聞いて驚いた。女性向けの店にするのだろうと思いこんでいたからだ。

「女性は気に入れば、どんな店でも入るから。そうじゃなければ一人焼き肉する人なんているかしら?」

そう言われたらそうかもしれない。女性は気に入ればちゃんと固定客になってくれる。りっちゃんはだから男性を最初からターゲットにしていたようだ。


とりあえず、りっちゃんから俺達が内装をチェックするのであればお願いしたい個所を数か所教えて貰って、慌ただしくりっちゃんの実家の地方に達也さんと一緒に行ってしまった。りっちゃんの実家で数日間過ごしてから成田に移動してイタリアに向かう予定だと聞いている。

ビザなし渡航なりっちゃんはヨーロッパ各国を三カ月以内で回って帰ってくる予定だと言っていた。

最初の一週間は、イタリアの根を下ろして現地の生活を達也さんと一緒に過ごす予定だと言う。

どうしてそんな事をするのか?と聞いたら「達也さんはいい加減だから絶対に水でトラブル起こしそうなんだもの」と即答。確かに日本と同じように考えていたら痛い思いをするのがヨーロッパの水事情。それを叩きこませるのって鼻息の荒いりっちゃんというのもどうなのかと思う。

無事にイタリアに入国したとりっちゃんからメールが入った。そこには、婚約のままでいるはずだったんだけど、いろいろあって入籍だけはしました。でも仕事の時は今まで通り麻生でやって行くからよろしくと書かれていた。

りっちゃん達らしい、躊躇いのない思い切りがいい行動に俺は苦笑いをするしかなかった。

達也さんが借りる部屋に一週間程同居してイタリア生活に慣れてもらう予定だそうだ。早速二人でリストランテに入って食事量の洗礼を受けてきたと画像付きで見せてくれた。料理の味の方はしっかりとメモを取って来てくれたようなので帰国したら再現してくれるだろう。そんな調子でバールに行ったり、ドルチェを食べたり、市場で買い物をしたり、練習するチームを見学したりと楽しく過ごしたそうだ。二日ぐらいに連絡が取れなくなったら、今度はスイスにいるんだよってメールが来た。本場のザッハトルテもおいしいよなんて陽気なメールでちょっとホッとしている。今まで一緒にいた大槻さんと離れて寂しいのは本音だろうが、そう言う事を一切口にしないで自分の目的だけを見据えて頑張っているのだろう。

内装業者とは時差を考慮しながらメールでやり取りはしているようで、表立ってはトラブルはないように見える。俺がシフトが休みな時に店に立ち寄って時には、クロスをはがしている様だった。今までのクロスは白で、りっちゃんの希望は木目調のものだ。工程表をもらっているのだが。どうも工程よりは作業が進んでいないように見える。俺はその事をりっちゃんにメールを入れたのだった。


12月6日、一部訂正しました。

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