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僕が君に出来る事 4

無事に卒業試験も終わって、受験が本格的に間近に迫ってきたある日の放課後。昇降口で赤池さんに呼び止められた。

「椎名君」

「どうしたの?途中までは同じ方向だから一緒に帰る?赤池さんも自転車だよね」

俺達はゆっくりと自転車置き場まで歩く事にした。

「あのね、センター試験の結果が思った割に良かったの」

「ほら、諦めたらダメって言っただろう?」

「そうだったね。それでね……センター出願の大学の合格通知が来たんだって」

「おめでとう。担任には言った?」

「うん。先生の次にはどうしても椎名君に言いたかったの」

「俺に?どうして?」

彼女にありがとうと言われることはあんまりないはずだ。

「いつも辛い時に椎名君は私を助けてくれたから。修学旅行の時も、こないだの本屋さんの時も」

彼女に言われて、俺はそんな時もあったなあと思い出す。彼女とこうやって話すきっかけになった修学旅行からはまだ一年と少ししか経っていないのだ。

「そうやって考えると、俺達って三年間同じクラスなのに、それなりに話したのって修学旅行からだってのが勿体無いな」

「椎名君は皆の人気者だから、私なんて目立たないから気が付いていないと思っていた」

「そんなことないよ。皆がちゃんとしていない時でもやってくれるから委員長とかは助かっているってよく言っていたよ」

「弘樹君は、中学も同じだったから私の事が心配みたいなの」

そうやって彼女の口から他の男の名前を聞くのはいい気持ちではない。そうか、俺は彼女の事が好きなんだ。決まった大学ってどこ何だろう?こんな事を聞いてしまってもいいのだろうか?

「赤池さん……大学はどこ?」

「私はね、お濠の傍にある大学なの」

そう言うと彼女はマンモス大学の内の一つの名前を上げた。そこなら自宅通学だろう。これからだってまだ会えるチャンス位はあるだろう。

「途中までは同じ通学経路だね。そうしたら又電車で会えるのかな?」

「そうだといいね」

「俺……今、見栄を張っていた。会えるといいねではなくて、赤池さんと一緒に通学したい」

「それって、友達としてって意味だよね?それなら今だってこれからもそうだよ」

彼女にとっては俺は友達のうちの一人なのだろう。それを痛感させられるともどかしい。

「ねえ、俺の事……嫌い?」

「嫌いだったら、こうやって一緒に帰ったりしないよ」

「そうだね。じゃあ、俺が君の事が好きって言ったら君は困るのかな?」

ある意味思い切った賭けに出たと思う。こんなそんなに話していない男にロックオンされてたら普通は困るよなあ。ところが彼女は思いがけない事を返してくれた。

「嫌いじゃないよ。妹思いで優しいお兄さんなところとか、判定で凹んでいたい私を励ましてくれた……そんな優しい人を私は嫌いになんてなれないよ。でもそれが自分の自惚れじゃないのかって思ってしまうの」

「自惚れてていいよ。俺は君に惚れているから。俺が君にも食べられるものを作ってあげるから。安心して俺に頼って。進路は違うけど、これからも傍で見守っていたいって思ったのは君が初めてだから」

「いいの?私でもいいの?アレルゲンは他にもあるから一杯制約あるかもしれないよ?」

「大丈夫。俺の妹はアトピーだ。そんな事ひっくるめたって一緒にいたいんだから気にするな」

俺がそう言うと、赤池さんは顔を真っ赤にさせて立ち止まってくれた。

「そういう反応……凄く嬉しいし、可愛いと思うけど。そう言う仕草は俺の前だけにしてね。帰るよ」

俺は彼女の背中をゆっくりと押した。今の俺が彼女に出来る事なんて大したことじゃないのは分かっている。でも、彼女の隣になって一緒に微笑んでいたいと自転車を押しながら歩く彼女を見つめて俺はそんな事を考えていた。


「幸雄君、おっかえり」

「ただいま。純子。今日は俺が作るって言わなかったか?」

「ちょっと体調が良かったから……今夜は肉じゃがだよ」

「おおっ。それはいいね。ビールはいいですか?奥さん?」

「一本だけね。今日もパパは頑張ってきたみたいですよ~」

そう言っては、ふんわりと微笑んでからふっくらしてきたお腹に手を当てる。俺もその手に重ねて聞こえているであろうお腹の中の住民に帰って来たよって呟いた。


これでメインの三人最初のお話は終了です。

けれども、話はまだ続くのです。


12月6日、一部訂正しました。

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