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seventh  作者: 篠原リラ
第一章
6/19

少しの変調

小テストも無事に終わり、一週間があっという間に過ぎた。

相変わらず寮に帰れば倒れるように眠る毎日だったが、不思議なほど疲れは残らない。笑顔が増えた、と映司にはからかわれた。

そんなある日の昼休み、彩芽は直がずいぶん深刻そうな顔で校内のカフェテラスにいるのを見つける。


「直?大丈夫?」

「あ、ああ……彩芽か」


少し驚いて、それからほっとしたように息を吐いた。顔色があまり良くない。

そういえば、ここ一週間は自分たちの部屋へ顔を出しに来ていない気がする。


「具合でも悪いの?」

「……あのさ」


彩芽の問いかけに、彼は躊躇しながらもそう切り出した。だが、一向に話そうとしない。

周りを気にしているようで、そわそわと落ち着かなく見える。


「ここじゃ話し辛いなら、後で部屋においでよ」

「……そうさせてもらうわ」


いつもよりいくぶん低い声で言って、直は席を立った。ちょうど入れ替わりに映司が来て、どうしたと問う。


「なんか様子が変だったから」

「ああ……たぶん、同室の奴のことだろう」

「映司、何か知ってるの?」

「……噂、なんだが」


先程まで直が座っていた椅子に腰を下ろし、手にあったコーヒーをテーブルに置いてから、彼は答えた。


「同室の望月隼人が、三日前から寮に帰っていないらしい」

「え……?でも、授業には来てるじゃない」

「ああ。だから、噂なんだ。でも直のあの様子じゃ、他に何かありそうだけどな」


確かに、と納得して彩芽は頷く。

それが何かはわからないが、きっと今日直が話してくれるはずだと映司に伝えた。そうか、と彼は笑う。

その笑顔が、少し嬉しそうだと彩芽は思った。





夕食も終わり、部屋へ戻る。

いつもならそのままベッドへ倒れこむ予定だが、今日は違った。

コンコン、と遠慮がちなノックの後、ドアが開く。何故かすまなそうに、直は顔を覗かせた。

部屋へ招き入れ、テーブルに冷たいコーヒーを並べる。とりあえず口をつけてから、直が話し出すのを待った。


「……前に、望月の話……しただろ?」

「うん」


ぽつりとつぶやくように言う。


「ちょっと噂になってるみたいなんだけど、本当は違うんだ」

「帰ってきてるのか?」

「きてる。でもそれが夜中の三時とか四時とか、だんだん遅くなってきてさ」


はあ、と軽いため息をついて、直は続けた。


「正直俺も寝不足になるし、しんどいんだけど……ここ数日は望月が、何か変なんだよ」

「……変?どんな風に?」

「ちゃんと観察したわけじゃないけど、目の焦点が合ってなくてぼうっとしてたり、逆に妙にニヤニヤしてたり。声をかけても上の空で、いつも何か考えてる感じ。心ここに在らずっての?」


彩芽への答えに、映司は顎に手をやって考え込む。

それからいくつか疑問が纏まったのか、直に問いかけた。


「それは最近急にか?」

「あからさまになったのはここ一週間ぐらいかな……でも今考えれば、もう少し前からそういう感じだったかもしれない」

「帰ってきた時の様子は解るか?」

「何せ寝てるからはっきりと覚えてるわけじゃないけど……寝ぼけた時みたいにふらーっと帰ってきてしばらくどっか見つめて、あとは倒れこんで寝てるみたいだ」


不安げな視線を彩芽が向けてくるのが解る。

確信はないものの、だからこそと思い映司は口を開いた。


「先生に相談した方がいいかもしれない」

「え?!いや、困るよ!」

「なんで?」


当然の疑問に、直はバツが悪そうに頬を掻く。


「いくら門限がないとはいえ、そんな時間まで同室の人間が帰ってこないのを放置してた俺が悪いんだけどさ……」

「でも、俺たちの手に負えるかどうか」

「確証はないんでしょ?じゃあ、ちょっと調べてからにしたら?」


とりあえず、といった様子で彩芽が助け舟を出した。映司は渋い顔をしたが、直は首が千切れんばかりに頷いている。


「な、頼む!俺もやるから!この通り!」


ぱん、と手を合わせて拝まれてしまえば、嫌とも言えなくなってしまう。

結局、頼られることに弱いのも、映司という人間だった。


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