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seventh  作者: 篠原リラ
第一章
5/19

一ヶ月後

部屋の扉を開けて、ふらふらとベッドへ倒れる。

机に向かっていた映司が振り向いたのがわかった。すっかり慣れた様子の幼なじみは、備え付けの冷蔵庫からペットボトルの水を取り出してくる。


「大丈夫か?」

「……なんとか」


上半身を起こし、水を受け取って封を切ると、一気に喉へ流し込んだ。

コンコン、とドアがノックされ、直が顔を覗かせる。


「あーやーめー生きてるー?」

「失礼な……だいぶマシになったと思うんだけど」


口だけは元気に言い返すも、体はだるい。

部屋の中に入ってきた直に椅子を譲り、映司が隣に座る。


「確かに、最初は寮まで帰れなかったからな」

「で、映司が抱えて甘やかすからって手伝い禁止になったんじゃん」

「……だから今日も先に帰っただろうが」


椅子に腰を下ろす直の言葉に、憮然として映司が返した。まあまあ、と横で彩芽が宥める。



入学から一ヶ月が過ぎていた。

一日のスケジュールは、基本的に座学の授業と体力作りのための運動が半々だ。

机での勉強はなんとか付いていっているものの、もともとインドア派の彩芽には半日のトレーニングがかなり辛い。

初日はそれこそ終わった瞬間、グラウンドに倒れた程だ。

それが疲れ果てているとはいえ、自力で寮のベッドまで辿り着けるようになったのは進化だと言える。


「まあ、確かにキツいよな……」

「そうか?」


笑いながら言う直に、映司はごく真面目に返した。

彩芽とは違い、普段から部活や稽古で鍛えた彼にとっては大したことでもないらしい。


「誰も彼もがお前と一緒だと思うなよ?」

「……うるさい。今日は何しにきたんだ」

「明日の小テストの範囲確認。彩芽、教えてー」

「はいはい」


聞き慣れた言葉に苦笑で返して、彩芽は鞄に手を伸ばした。

教科書を開いて、小テストに出そうな単語を拾っていく。


「彩芽ー、吸血鬼の心臓に刺す杭の材料ってなんだっけ」

「白木だよ」

「あ、そうだそうだ。あとさ、クルースニクとダンピールの違いは?」

「クルースニクは人の子で白い羊膜を纏って生まれる。ダンピールは人と吸血鬼のハーフで、死後吸血鬼になる。共通点はどちらも吸血鬼に対して強い耐性を持つことだ」


ちょうど先ほどまで机の上で開いていたページだと思い、映司が答えた。

そんな感じで、お互いに質問と回答を繰り返しながら復習していく。一通り終わったあたりで映司が席を外し、人数分の飲み物を持ってきた。


「なんだかんだ言って気が効くよな。俺これにするわ、サンキュ」

「褒め言葉にしては微妙だな」

「じゃあ僕はそっち」


軽口を言い合いながら、それぞれ好きなものを手に取り蓋を開ける。

一口飲んで、そういえば、と思い出したように彩芽が言った。


「直、最近よく来るけど同室の人はいいの?」

「あー……」


寮は基本的に二人部屋だ。直もそうだが、だいたい同じクラスの生徒が同室になる。

極端に仲が悪いわけでもないのなら、しょっちゅうルームメイトが出掛けるのも微妙な気持ちになるだろうと思っての言葉だった。

だが直は、気まずそうに頬を掻く。


「……実はさ」


少しだけ声をひそめ、彼は言った。


「俺の同室の相手、望月隼人(もちづき はやと)って言うんだけどさ。最近夕方ふらっと出てって、深夜まで帰ってこないんだよ」

「え?それって大丈夫なの?」

「寮の規則に門限の記述はない。常識的な行動を心がけるように、とだけあるな」


いつの間にか入寮規則を取り出してきた映司が言う。そうなんだよ、と直は頷いた。


「敷地の外に出る門は夜二十一時で施錠するから、学園の敷地内にいるのは確かなんだけどさ。自主訓練とかしてるのかもしれないし、そうじゃなきゃ彼女と会ってたりすんのかなーと思うとあんま突っ込んだ話もできないじゃん?」

「なるほど……だから直は暇なんだね」

「その通りだけど暇とか言うなよ」


彩芽の言葉に小突く振りだけして、ため息をつく。


「お前らがちょっと羨ましいよ」


そして、小さくそう言うと直は苦笑した。

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