動き出した何か
「ちょっと、理沙さーん。俺の年齢の話は関係ないでしょ」
「そういえば圭って今年いくつだっけ。三十五?」
「四!!三十四!!」
思わず力を入れて否定すると、理沙が吹き出した。笑いを堪えながら、ごめんごめんと口ばかりの謝罪をする。
「学長は二十八だったっけ……歴代の学長でも若いけど、外部がどうこう言う問題でもでもないはずなのよ」
「本来は、純粋に能力で決めるもんだからねえ。そういう見方じゃ、お前だってまだ十八で若いのに、俺たちの一角を担ってくれてるわけだし」
厄介な話だねぇ、と圭はため息を漏らした。
それからタバコを咥えて火をつけようとして、部屋に灰皿がないことに気づく。
「こら、寮内禁煙」
「悪い悪い。つい癖で……下に灰皿あったっけ?」
「半年前はサロンかエントランスなら吸えたけど、この間から分煙の規制が厳しくなって外でしか吸えないわよ」
「世知辛い……ちょっと行ってくるわ」
自他共に認めるヘビースモーカーである彼は、背中を丸めて部屋を出た。それを見送った理沙は、自分の部屋に戻ればいいのにと思う。
エレベーターを短い時間待って、中に乗り込んだ。すぐに一階に着く。
先ほどくぐった扉を出ると、すぐ横に申し訳程度に灰皿が設置されていた。そこへ立って、圭は咥えたままだったタバコに火をつける。
一本を灰にし終えたころだった。不意に、隣の建物のドアが開く。圭はほとんど反射的に身を隠した。
程なくして、あたりをきょろきょろと見回しながら、ずいぶんといい体格をした男が姿を現す。
縦にも横にも大きいその人物は、どう控えめに見ても目立つ体を小さく屈めながら、校舎の方へと歩いていった。
「……なんだろうね」
その姿に不審なものを感じ、思わずつぶやく。とはいえ、女子寮のエントランスに隠れて様子を伺う彼自身も多少不審ではあった。
二本目のタバコに火をつけた時、再びドアが開く。今度出てきたのは、見覚えのある三人だった。
何やら小声で話している。そして頷き合うと、校舎の方へと歩き出した。先ほど体格のいい人物が歩いていったのと同じ方向だ。
「どうも、きな臭いね。なかなかしんどい仕事だ」
三人が見えなくなるまで待って、圭は腰にぶら下げていた羽をひとつ、手に取る。
「カラドリウス、あの三人をよろしく頼むわ」
それを放り投げると、空中で鳥の姿に変わった。全体的には白っぽく、部分部分に黒の入った鳥だ。
カラドリウスはやや不満げに一度旋回すると、大人しく圭の言葉に従い三人を追う。
「さてと。理沙を読んでくるかな……置いてったらうるさそうだしね」
独り言をつぶやいて、彼は再びエレベーターへ乗り込んだ。




